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剣を取る意味

勝利を約束してくれた援軍の心強さを表すようにいつしか誰もの足取りは軽く、ブレッドの指示に自ら志願して的確な場所へと部隊分けされていく様子の横でブレッドは運悪くそこに居たクレイとエンバーを捕まえてフリュゲール騎士団の隊服を二人に着せていた。


「悪いがフリュゲールの宣戦布告を協力してほしい。

 これは式典用の騎士服だが、フリュゲールの参戦が二人じゃ見栄えが悪いからな。

 あとでバイト代を出す。

 欲しい物があれば言ってもらっても構わない。

 可能な範囲以内で用意させてもらう。

 国旗とランの旗を持って後ろに立っててくれればいいだけだ」

「そんな程度でバイト代くれるならいいけどね」

「まぁ、立ってればいいだけなら構わないけど……」


黄金のロープの付いた複雑な留め方の金のボタンを留めてもらって慣れない式典用の見栄え重視の初めて着る豪奢な騎士の服に二人は何処か恥ずかしげにしていた。

意外にも似合う衣装はフリュゲールの精霊によく似た赤。

二人ともあまり着慣れない色の服に少しだけ居心地が悪そうにお互いを見せ合っていたが、その背後ではブレッドがランを手櫛で髪を結い上げていた。

首元で揺れる紐とお揃いの色の紐が高い位置で結い上げられた長い紐が髪から覗いていた。


「よし。これでランの準備は?」

「僕は何時でも行けるよ」


ゆっくりと目を開いてどこか緊張するランの顔を確認しながら二人に旗を持たせる。

身長よりもはるかに長い棒と、棒の長さの半分ぐらいの旗が風に煽られて二人はよろめきながらも隊服のベルトには旗を支えるベルトみたいなのがあり、それを使ってうまくバランスを取っていた。


ここまでくれば俺達でなくてもざわざわとブルトラン側も騒ぎ出し、いつの間にだろう。

その国のような明ける事のない真冬を彷彿とさせる男が立っていた。


誰だなんて今更誰も口に出さない。

途端に訪れた静寂が支配する中先に口を開いたのは


「久しぶりだブルトランの王!

 前回は船上から失礼した。

 こうしてまたお目にかかれる事を嬉しく思う!」


相変らず可愛らしい顔をしているが、決して言葉通りではない事を全く笑ってもない目が物語っていた。


一陣の風が吹いた後


「フリュゲールの王よ、久しいな。

 このような場でお会いするとは思いもしなかったが」


言葉少なげな低い声がラン兄の突然の出現に彼の怒りを表しているようだった。

だけどラン兄は挑発するように笑みを作り


「二度と会いたくはなかったが、今日が貴方の最後の日。

 折角だから最後に貴方の顔を見に来た。

 だがその前に過日あなたが探していた子供を無事保護し、ごらんの通り成人もした彼の姿を是非貴方にもお披露目をしようと思っている」


「……」


ラン兄の言葉の意味を理解する様に口を閉ざす。


「今から彼を連れて我がフリュゲール国は玉座の間に居るあなたに会いに行く。

 待っていろ」


珍しく怒りを含むラン兄の声に驚きを飲み込んでその横顔をじっと眺めていれば


「今日はあの化け物共が居ないようだが……

 どうやって我が玉座まで?」


ニタリと、得体のしれない薄気味悪い笑みに背筋がぞっとする。

越えられない何かがあるような、実際そうなのだろうが。

絶対の守りの内に居るブルトランの王はそのような時は来ない事を確証してるかのように俺達をあざ笑っていた。


「そんなの決まっている。

 僕は最大の戦力と僕が持ち得る総ての力を持って貴方の所に辿り着く道を切り開く!」


シュネル!


力強い宣言と共に手を横に振り払ったラン兄の左腕に頭の上からチョンと飛び乗ったシュネルの不思議な輝きを持つ羽が炎を爆ぜるように、その炎が大きくなるように体が大きくなっていっていつの日か見た美しい鳥の姿になっていた。

誰ともなく息を飲んで目を見開いて驚く。

その翼は片翼で腕の持ち主を抱きしめるほど大きく、そしてすらりと伸びた尾は地面に届かんばかりに伸び、そよそよと風にそよぐ飾り羽は周囲を伺う様にふよふよと宙をただよっていた。


「ブルトラン王、貴方は我らがフリュゲールの守護獣を化け物と呼び、更にこの僕も化け物と呼ぶ。

 それを各国に、悪意を持って大陸中に流布してくれた」


思わぬ噂を流した張本人の発覚にやる事がせこいとかいう以前にそれを伝えるラン兄にも俺達はぎょっとする。


「港での負けた腹いせにしては可愛らしい悪戯だが、よく考えれば感謝をする事だ」


何がと誰もの顔に疑問が残る。

そんな言われ方をされて感謝をするなんておかしい、と。

ラン兄の性格なら耳にしたら間違いなくふさぎ込んでしまうくらい臆病な心を持っているのに感謝だなんておかしくて。


「大陸中が知っているのならこれ以上臆する事はない。

 おかげで僕は遠慮なく全力を出す事が出来るのだから。

 覚悟しろ。

 森の主と民を侮蔑した事後悔するといい」


「こんな他愛のない事で怒るとは……やはり王になるには幼いな」

「年を取ってればって良いって話しじゃないよ。

 お前のように精霊に感謝を忘れた者を、精霊を穢す禍を僕達はもう見過ごす事は出来ない!

 だから……」



僕は精霊騎士の剣を取る!



周囲が何度も諌める幾度となく聞いたその言葉。

まるで決死の覚悟を決めるような宣言に応える様にシュネルが一つ羽ばたきをした。

その際に舞い上がった羽が炎がはじける様に膨れ上がり、一本の炎を纏う剣へと姿を変えればランはさも自然にその炎の中に手を伸ばして剣を握りしめた。


ぴゅるるるるる……


平原に響き渡るかのような美しい声と共に膨れ上がる剣の炎を全身に纏いながらさらに燃え盛る。

光り輝く炎に目がくらみながらも直ぐにその中からフリュゲールの古い本に描かれていたような意匠の服を纏う者が立っていた。


あの美しい鳥の翼が頭から地につかんと言うように生え、長い髪の合間からはふよふよと漂う飾り羽が背筋のようにピンと通っていた。

翼が一度パサリと羽を伸ばせば、いくつもの羽が舞い上がり、風に乗って俺達の手元にまでやって来た。

思わずと言う様に手を伸ばして掴んでみるも、それはすぐに光に溶けて跡形もなく消える雪のようだったが、掴んだそこからじわりとぬくもりを感じる様に魔力が体の中に溶けて馴染んだ。


「まさか、魔素が形を持つとは……」


唖然としたルゥ姉の呟きでさえ耳を通り抜けるような目の前の光景に誰もが背中だけを見せる姿を凝視する。

ラン兄は自分を化け物と呼んだ。

ブルトランの悪意が大陸中で彼を化け物と呼ばせた。

そして目の前にいるのは人ならぬ異形の姿。

瞬間畏怖する様に心が悲鳴を上げる。

だけど、誰もが見ても確信をもって言える。


その美しい姿を化け物と呼べるわけがないと!


命の輝きのようにな波打つ深紅を凝視するかのように眺めていれば、その背中と背中を向い合わせる様にして現れたブレッドがブーツの踵の音を立てる。

何時の間に着替えたのか式典用の、誰よりも複雑で豪奢な唯一のフリュゲール国の総隊長の出で立ち。

ランの衣装と似た赤を基調とした服には眩いばかりに金の刺繍が施されている。

エンバー達の衣装でさえ質素に感じてしまうほどの手の込んだ意匠は頂点に立つ者と言う様に相応の威厳があった。

そして地につかんばかりの国旗と同じ刺繍が施されたマントを纏いながら芸術的なまでに美しい装飾と幾つもの宝石が施された柄の剣を抜いて剣先を雲一つない青空に向けて真っ直ぐと立てて


「フリュゲール国フリューゲル王の出陣に敬意を払い……

 敬礼!」


一陣の風が吹いた。

風に靡く国色の旗には頭に翼をもつ人の横顔。

この旗は精霊フリューゲルの姿ではなく、精霊と人が一つに交わった精霊騎士だと初めて気付いた。

精霊の為に総てを捧げた精霊の騎士。

精霊と人が手を取り合う国の始まりの姿。


初めて見る姿にその意味に気づき言葉が出ない。

圧倒する存在に眩暈さえ覚えるも地を這うようなブレッドの声が一瞬にして総ての意識を集めて背筋を伸ばさせると共にロンサールやハウオルティアの元騎士の人達は条件反射のようにピシリとその国の敬礼の姿勢を取らせていた。

ギルド組もなんとなく真似してみる人はいるけど、知らないからやりようもない人達はうろたえるだけだが、ブレッドの号令で俺達はラン兄の変わった姿からのいつしか警戒を解いていた。

だけど、ブレッドは剣の柄に手を乗せて俺達を睨み続ける。

なんで?と思うも、そうか……としか言えなかった。

俺達も一瞬でもブルトランが囁いたようにラン兄を化け物として見ていた事を第三者に悟られてしまうくらいの反応をしていたと言う事実に俺はショックを受けた。

あんなにもあかるく笑う優しい人の姿が、俺を弟と呼んでくれる人がちょっと姿が変わっただけでそう判断してしまった事を。

顔を見られないように、俺達の視線と誰とも目を合わせないようにと怯える様に背中しか向けないラン兄に謝っても許されない事だろう。

だけど、だから俺はもう間違えない。

ラン兄の背中で一人で王を、弟と呼ぶ存在を守ろうとするブレッドの隣に俺は立つ。

じろりと見る視線は今まで見た事もない位の冷たい温度の無い視線。

今更なんだと言う視線の中震えそうになる声に心を強くも手と叱咤しながら


「ラン陛下、どうか私を一番近しい所で、貴方の永遠の友としてこれから起きる事を隣で見る事をお許しください」


こんな俺が今迄みたいに兄弟と言うような事は出来ない。

人目から避ければ許してくれるかもしれないが、もう今迄みたいに兄と言わせてはもらえない。

彼なら許してくれるかもしれないけど、彼を守る総てが許してくれないだろう。

弟としての立場を自ら絶ってしまったのだ。

数えきれないくらいの膨大な援助をしてくれたランと援助を受けた俺と言うただの立場関係に変わり、完全に俺は下と言う様に頭を下げる立場と言うのを周囲にも理解してもらう様に意思表示しておかなくてはいけない。

たとえそれがランにとってまったく得たい物ではないとしてもだ。

背後でどうしてとざわつく声も聞こえるが


「かけがえのない姉、そしてここまで共に戦ってくれた同士の命を守ってくれた感謝を。

 願わくば貴方が切り開くその道をどうか歩かせて下さい」


ざわつきが止まる。

理解してくれた。

ランの出現でみんな死ぬしかない選択から生きる可能性を与えられたのだから。

生きる為に俺達はブルトランと戦う前にランに膝を折り頭を下げるしかないのだ。


「ならそこでよく見ていて。

 これから起こるハウオルティアが生まれ変わる姿を」


ゆっくりと剣を胸元まで水平に持ち上げる。


『禍々しい魔力だな』


ランの口から別の声が流れる。

驚く俺に隣でブレッドがシュネルの声だと小さな声で耳打ちしてくれた。


「こんな昏い魔力なんて初めて見た……」

『恨み辛み怨嗟に血と肉と命を贄にして術を発動したのだろう。

 発動した者と同種属であればあるほど、そして近しい血を持つ者ほど禍々しくなる』

「つまり、ブルトランの人がブルトラン人を贄にしたって事?」

『それだけではここまで昏くなるには足りない。

 足りない分はハウオルティア人を贄としたのだろう。

 なにせ100万を超える人間が死んでいる。

 それだけにこの嘆きの壁は人の手程度では簡単には破壊できないだろう』

「この為にそんな理由でブルトランは人を殺したの?」

『目的の為の手段の一つとするなら人の数何て大した問題ではなかったのだろう』

「命を、そんな理由で人を殺すなんて許せない!」

『精霊に見放されるには十分だ』

「民に見放されるにも十分だ!」

『だからここで今を生きる者の為にあ奴を止める』

「それは精霊の為にもだ!」


シュネルとランが一つの体で二人分の声で次々と言葉を語る。

不思議な光景とこの結界の正体、容易く贄となって失われた命の多さと軽さに俺達は圧倒する怒りと真実に誰もが二人の会話を、喘ぎながら耳を疑う内容を黙ってひたすら耳を傾けていた。


実りの民よ、凍える地の民よ、覚悟を決めよ……


「贄から解放され足掻き歩み続ける過酷なる自由を得るか」

『このまま絶望に身を任せ全てを安楽の結末を選ぶかは己自身』


大きいと言うには小さすぎる声は不思議と誰の耳にも届く。

それは遠く王都の裏側まで響いた事を俺達は知らない。

柄も刀身も真っ赤な剣をゆっくりと構えて大きく横になぎ払う体制に入り


『「眩耀なる裁断」』


二人の高らかな声と共に剣を振り払った。

剣から溢れんばかりの輝きが、解き放った魔法に与えられた名前の通り目がくらむくらいの輝きが波のように俺達にも押し寄せて、何もなかったかのように通り過ぎて行った。

何が起きたか判らない。

確認する為に周囲を慌てて見回せど誰もが同じように周囲を見ているだけ。

ブレッドを見て何が起きているのかと聞こうとするも、彼はこうなる事が当然と言う様に笑みを浮かべている。

気にはなるが側に居たエンバーが旗を持った姿勢のまま怪訝な声で


「何だ?

 ブルトランで何か騒ぎが起きてるようだが……」


とは言っても城壁の上の歩道のような場所の出来事しか見えない。

ルゥ姉も近くにやってきて


「これが先ほどの魔法ですか?」

『そうだ』


短い返事にルゥ姉は小首を傾げてランの背中に語り続ける。


「いかような魔法と聞いても?」

『先ほどの私とランの会話が総てだ』


簡略過ぎる返答にもう総ては語ったと言う様にルゥ姉を追い払うかの如く、その大きな翼を一度だけゆるりと羽を広げ、すぐに元に戻す。

ぶつからないようにと自然に足を下げたルゥ姉はここまでしか話をしないと言う意思表示にさらに一歩下げ頭を下げるだけだった。


城壁の上では兵士達が慌てふためくも真冬の王ブルトランは微動だにせずに俺達を見続けていて……


バケモノメ……


歪む唇はそうつぶやいて


「笑った?」


様な気がした。

だけどその意味と異変に気づいてかルゥ姉の目が見開き


「シアー!魔防を!

 何か魔法を使って来ました!

 規模は……大きい!

 最大限で!」

「魔防壁出来る者も展開っ!」


シアーの指示で幾重にも魔力で作った魔法に対する防壁を作るも、まるで意味がないと言う様に次々と粉砕してブルトランの昏い、異臭すら臭う魔法が迫って来た。

悍ましい……

見ているだけで鳥肌が立ち、恐怖に足がすくむような悪意の固まりと言う物が迫って来るにあたり、穢れと言う様に本能的に拒絶と恐怖に後ずさってしまう。

おじけ付いて腰を抜かす者、泣きながら四つん這いになってまで逃げようとする本能的な恐怖にシュネルの声が恐怖を打ち消すかのように広がる。


『これだけの忌まわしい物をよくぞ人と言う者は作り上げる』


言葉だけ聞けばあきれ返っているような声だけど声にははっきりと怒りが含まれている。


『精霊王の庭でもあるグリン・グレイムを穢す罪死しても許されると思うな』


怒りを表すように羽がぶわりと膨らみ、赤を含むオレンジから黄色に変わり宝石のような緑色の文様の飾り羽が黄金に輝き、ランの持つ剣がその姿にその色に変わって行った。


『精霊王の庭を穢せし者よ

 この地に住まう精霊を敵に回し者よ

 穢れを払い終えるその時まで

 光届かぬ闇すら無き深淵なる牢に封じん』


目の前まで、死に匂いがあるとするのならきっとこう言う物だろうと漠然と感じてしまう物が迫っているのに、すぐ横で目もくらむような力強い輝きに死の恐怖は不思議と一切ない。  


『永久なる断罪』

 

ただ、すぐそばからとてつもない魔力と言うには清廉とした力に包まれれば、先ほどまでの胸を苦しめ呼吸すらまともにさせてもらえぬ圧迫した物が一瞬にして無くなった。

すぐに横を向けばラン兄が持つ剣が黄金に輝いていて、斜めに切り上げる様にその輝きを放っていた。


パキン……


そんな音はしていない。

だけど感覚が、耳の奥で何かを砕くような、そして一掃すると言う様な音を感じていたのはこの場に居る周囲を見回す総てが物語っている。


わけも判らず正面を見ればあれほどまでの黒い靄は無くなり、朝日を浴びた美しいハウオルティアの城が輝いていた。


『ブルトランの王よ、我らが怒りに触れた事思い知るといい!』

「これより一刻の後に王都内に進軍する。

 玉座に座って待ってろ!」


怒りを含むシュネルとランの声が響けば永遠の冬のようなブルトランの王は表情をピクリとも変えずにマントを翻して黙って去って行った。

が、代わりにローブをまとう集団が現れた。

ひょっとして進軍する前に潰す気かと攻撃態勢に入ったローブの集団を見て


『クヴェル』

「ここに」


ランの影からアウリールが現れた。

エンバー達は当然のように驚くも、いつもとは違う地に付かんばかりの長い髪を複雑に結い上げ、着物のような着流し風の服装とは違い、肩から袖はなく不思議な輝きを持つ金属のような手袋が肘の上まで何やら宝石をつけており、幅の広いベルト代わりの帯には帯留めではないが宝石のような美しい装飾の留め具が飾られていた。

ゆったりとしたズボンも今日はひざ下までのブーツに着物っぽい上着は変らずともその隙間から見えるズボンには確実に鍛え上げられた筋肉が浮かぶ初めて見る戦装束のその姿に俺は息をのむ間もなく


『城壁の上の者が邪魔だ。ランに被害が出る前に消せ』

「承知」

「あの気持ち悪い城壁も要らない。シュネルに見せたくない!」

「承知」


シュネルとランの要求に感情もなく返事をするクヴェル事アウリールは光に溶けながら空へと駆け昇り、この青空を切りぬいたような姿へと変わり、朝日を浴びて神々しいまでのドラゴンの姿に周囲はさすがに逃げ出していた。

だけどアウリールは一羽ばたきで二人の要求の通りまっすぐ城塞へと向かい


「あ、これダメなパターンだ……」


背中を向けているのに何故かまるで見ているかのようにブレッドが不吉な言葉をつぶやいた。

俺とエンバー、反対側のクレイまでもブレッドを見上げていれば


「あまり知られてないけど、東側ではうちの王様って城塞破壊の……って二つ名があるんだ」


へ?


意味が一瞬理解できなかったが、答えはすぐに与えられた。


ドカッ!


最初の音こそ派手な音で、目の前数十メートル前に門の扉が降って来た。

更に後ずされば次は小さな瓦礫や石が風に乗って舞ってくる。


「ブレッド!これは一体!!」


ルゥ姉でさえ悲鳴を上げる状況に既に整えられていた隊列はとっくに形が崩れ、ブレッドの号令の後の待機の体制はとっくに忘れられている。

もう黙って突っ立って眺めているなんて出来ないからどうしようもないのだ。

過去数百年に渡り美しいハウオルティアの城の、その城下を守って来た城壁がほぼ地面から崩れる形で崩壊して行ってるのだから……

逃げる事も諦めたハウオルティアの国民もさすがに本能に従ってドラゴンの姿に慌てて逃げ出して呆然と見上げるしかなくてあわてて俺達の方に逃げて来て頭を下げて助けてくれと言ってくる始末。

んな事言われてもなぁ……

こちらに逃げてこれるだけの人間に押し寄られるも、その先に居たランの姿に悲鳴を上げる始末。

ブレッドの表情がだんだん険しくなるのを見て我を取り戻す。


「王都から来た者達を全員縛り上げろ!」


俺の号令に意識を取り戻し、あばらも浮かび靴さえない足でよたよたと駆け寄ってくる者達を次々に縛り上げて行く。

何かの為にと持って来た竹竿を使い、どこかの山奥でやったみたいに地面に穴を掘ってその者達を突き落し、格子状に組んだ竹竿で出口をふさいだ。

此処までに十分な技術を持つ俺達はものの十分もせずに収監していくが、それでも次々に来ては縛り上げなくてはいけない状況に黙してじっと王都を睨みつけるランに申し訳なさでいっぱいになっていた。

ハウオルティアの為に戦ってくれるのに何でこんな罵声を浴びなくてはいけないのかと……

ブレッドに言わせると俺達も同罪なのだろうが、それでも面と向かって誰も口を開かなかったのは俺達がただ彼の背中に守られている弱者と言う理由になるからなのだろう。


砂埃はやがて遠くへと行き、舞い戻ってくる。

向こうに行ったのだから当然と言う様に帰ってくる。

理解はしているけど、見慣れていたとは言えランの乗り物の時のような飛び方しか知らない俺としては正直ビビってる。

無表情でボーっとしているマイペースな姿しか知らないアウリールの強さは実はよく知らない。

だが幾らなんでもやり過ぎじゃないかって……

現実から背中を向ける様に立っているブレッドすらまたかと呟く。

またとは……

あれだよな。

たぶんフリュゲールが生まれ変わった時の話しだよなと、これなら確かに尾ひれはひれの付く話になってもしょうがないと納得してしまう。

地面と城壁の区切りをはっきりとなぞるようにして破壊して戻ってきたアウリールは俺達の頭上で旋回し、口元に光が集まる。


「アウリール!このような所でドラゴンブレスは!!!」


ルゥ姉が悲鳴を上げて手を伸ばしながらの止めてくださいと言うのを聞いて誰もが王都炎上かと思うも、城の遥か上空に向かってドラゴンブレスを吐きだしたのをほっとして見守った瞬間からの空気が圧縮される音が響いた。

さらに爆発的なエネルギーが発生する音。

鼓膜が裂けんばかりの爆音と閃光に誰もが耳を塞ぐもブレッドは相変わらず剣の柄に手を乗せたままの待機の姿勢。

ブレッドぶれない。

じゃなくって、ブレッドが止めないと言う事は大丈夫かと思うも上空へと吐き出されたドラゴンブレスが遥か上空で大爆発をしてそん爆風が俺達にまで襲い掛かって来た。

誰もが身体を縮めて防御の体制を取り、小さな砂や小石から守るようにシアーも防壁を展開している。

俺達も悲鳴を上げながら爆風に吹き飛ばされた人と同じようならないようにととにかく身を低くして守りの体制を維持していれば……


「おい、城の天辺辺りが崩れたぞ……」


エンバーの声にブレッドはついに目を閉じてしまい剣を地面に少し深く突き刺して


「お前らはいい加減に力加減を学ばないか!!!」


いきなり振り向いてランの頭をげんこつを落していた。

もろに見てしまったクレイやらフリーデルやらは王に暴力とは理解できないと言う様に目を点にしており、カンが良い事にシュネルはランとの変身を解いて空に逃げていた。


「いったーい!!!」

「当たり前だ!

 痛いように殴ってるんだ!!

 これを教育的指導って言うんだ!!!」


頭を抱えて涙ぐむランは何が悪いのかと言うようにブレッドを睨み上げているが


「いきなり殴るのは良くないと思うぞ」


光に溶けながら地上に人型の姿で戻ってきたアウリールはランの頭をさすりながら抗議するもブレッドはエンバーの持つ旗を無言で奪いアウリールの額めがけて投げつけた。


「原因の大半はお前のせいだ!!!

 あれほど建築物に被害を出すなと言っただろ!!!」

「撫でる程度で崩れるような脆い建物の方こそ悪いのでは?」


……


静寂が支配する中


「あと、これは私だから無事なようなものを、人に向けると確実に死ぬぞ?」

「って言うか何で傷一つつかない?!

 痕ぐらいつけよ……

 何で旗の方がダメージを負ってるんだよ……」


旗の先端に輝く竿頭のいわゆる唐草剣の形状の金属が潰れ、黒塗りの旗竿には縦にひびが入っていた。

項垂れるように手放した折れた旗を片付けるランと相変わらず気が短いなと窘めるアウリールという反省の色の無い二人にぴゅるるるとシュネルの鳴き声がブレッドに同情しているようにも聞こえるが絶対同情じゃないなと言葉が判らなくても俺は判断してしまう。


「さて」


ブレッドがいじけてやっと生えたばかりなのに草むしりを始めてしまったのでランがこの場を仕切り直した。

と言うか抜いた草を自国の王様に投げつけるのはやめてくれ。

ロンサールの元王族の人があまりの王の扱いのひどさに怯えてるぞ。


「これで一刻の後に王都に進軍する事になった。

 僕はディが嫌がっても引きずってでもブルトランの王に会いに行く。

 ここから先の戦闘は激しくなるだろう。

 先ほど隊別けしてもらったけど、今からでも移動をしたい人はこの時間に済ますように。

 後はルゥ姉よろしく」

「承りました。

 と言うか、想像以上のご助力をありがとうございました。

 我々は一命を取り留める事が出来、感謝は生涯感謝を忘れる事はないでしょう。

 この一刻の間はフリューゲル王にはお休みいただきたいと思います」


ありがとうと言うランの返事に草むしりを止めたブレッドはアイテムボックスから机やいすを取出し何やら食事の準備を始めだした。

大量のパンが山盛りとなっている笊と隊舎でもよく見かけてた50人分の寸胴の鍋を取り出す様に次の指示を出そうとするルゥ姉ですらまた口を閉ざし


「貴方方は一体何をやってるのですか……」


いきなり背後で始まった食事の光景にブレッドが鍋からシチューを自分のシチュー皿にとりわけてパンをいくつか掴んで齧っていた。


「そりゃ昼食直前に呼び出されたんだ。

 弁当何て持ってくる暇もなかったからイゾルデのトコの軍の台所から適当に昼飯を持って来ただけだ」


言ってむしゃむしゃ食べながら俺達の事は気にしなくていいから続けてくれと言う。

だけどね、俺達も朝は軽食しか食べてないし、昨日悲しい事があったからあまり食欲もなくてね……

と言いたかったが何故かエンバーがちゃっかり一緒にテーブルを囲んでシチューを食べていた。ヲイ……


「フリュゲールの軍の昼食ってこんなうまいものが出るのか……」

「ドヴォーって言う魔物のお肉のシチューなんだ」


何故かエンバーはランにシチューのおかわりをよそってもらいながらパンを握りしめて食べていた。

ちゃっかりするにもほどがあると言うか、給仕係が王様とはこの光景は何だ……


「って言うか俺ドヴォーのシチュー好き!食べたい!」


はーいと手を上げるも本日何度目の目を疑う光景だろうか。

寸胴の鍋を持ってランがまるで水を飲む様にそのシチューを食べていた。

いや、飲んでいたと言うのが正しいのか?

一抱えもあるだろう鍋は既に温かい程度の熱しかなく、ごくごくと言う音を立てながらわずか数分で飲み干してしまっていた。

俺の分は当然一口もない。

再度おかわりを貰おうとしていたエンバーの目も点になっている。

エンバーどころか全員目を点にしている。

王様の食事風景としてはあり得ない。

人としての食事風景としてもあり得ない。

唯一の訳知り顔のブレッドは視線を反らせてひたすら食事に専念していた。

誰もつっこめないジレンマの中での勇者はやっぱりルゥ姉だった。


「ブレッド、どういう事か説明してもらってもいいですか?」

「前に船で魔力の使い過ぎで10人前ぐらい食事してただろ?

 それの上級者版だと思って欲しい」

「いや、どう見てもおかしいだろ……」


そう指摘するも所詮は魔法の使えない国。

そうなのかと不思議そうに首を傾げるあたり多分これがランに必要な量なのだろうかと俺は無理やり納得する事にした。

目の前でパンをクッキーのように次々放り込むのを誰もが胃もたれでもするように胃をさすりながら眺めている。

やけくそなのかルゥ姉ですら久しぶりのバターたっぷりふわふわのフリュゲールのパンを男前にかじっていた。


「おいルゥ、話聞いてるからさっさと進めろ」

「ったく、貴方と言う人は何時になれば年上を敬われるのですか」

「悪いな。年齢だけで年上を敬う事はやめたんだ。

 それにルーティアって長い名前が悪い」


言ったら言い返されると言うルゥ姉にとっては珍しい相手にやけくそのようにもう一つパンを口に放り込んでから逃れてきたブルトラン、ハウオルティアの国民の保護と言う余計な仕事が増えたのでと話を切り出してフリュゲール組をシャットアウトした。

さすがだ。

心の中の俺が褒め称えるもルゥ姉は当然だが全く気付かなく、ブレッドが新たに取り出したフルーツを齧りながら説明を続けた。


「と言うわけで、逃れてきた国民の皆様には少々居心地悪いかもしれませんが穴の中で保護という形で我慢してもらいましょう。

 ええ、全く気にする事もありません。

 所詮は我々も彼らも流民と言う立場。

 少々人間としての取り扱いが悪かろうがどうだろうが流民を保護する法の無さを恨むしかないでしょう!

 恨むならそれを気にもとめなく声も挙げなかった国民の皆様を恨んでもらいましょう!」


久し振りのやけっぱちな様子に俺達よりよく慣れてらっしゃるハウオルティア組の皆様は遥か遠い宙へと視線を投げながら姿勢よく話を聞いていた。


「カヤを筆頭にリーナその他戦闘向けではない方々も一番安全な我らと一緒に行動してもらう事にします。

 城塞で籠城してもらおうかと思いましたが、城塞よりも安全な方々がお見えになったので甘える事にしましょう」


一番の激戦区が一番の安全地と言うルゥ姉の言葉に誰もが本当かと疑うも、先ほどの戦闘を見たばかりの彼らを眺めてこれまた無理やり一行は納得する。


「じゃあ、悪いが俺達街道の封鎖組は先に行かせてもらう。

 フリューゲル王の戦闘が見れねえのはちょっと残念だが、大量の資金巻き上げて来るな」

「おう、行ってこい。

 後なんでもいいから人材も生かして拾ってこい」


そう言ってブレッドが送り出す挨拶をするテーブルではいつの間にかカヤが二人の給仕を始めていて、ブレッド達は食後のデザートと紅茶を楽しんでいた。

当然いつの間にかあれほどの量のパンを食べ終えていたランも一口サイズのカラフルなケーキを紅茶で食べていると言う戦場のど真ん中での優雅な食事の風景にちゃっかりエンバーも最後まで楽しんでいたのはあきれ果てるしかないと言う物だろう。

足元で肉の塊を貰っているシルバーも揃って何馴染んでるんだと呆れるが、幸せそのものの顔でケーキを口に運ぶランの顔を見ていればまあいいかと笑みさえ浮かぶ。


さっきの戦闘中のような目に見えない剣で心を切りつけられていて死にそうなぐらいの苦しい背中をされるぐらいならたとえ周囲の空気を読めと言われる中でも至福の時間ぐらい邪魔はさせない。

視線でルゥ姉に少し遠ざけてと言う用に合図を送れば、やはりルゥ姉もランの様子が気になっていたのか街道封鎖組を見送ると言う形でラン達から視線を外してくれた中で俺はテーブルの余っている椅子に座り


「俺にも一口頂戴?」

「じゃあ、ディにはチーズのケーキだね」


数少ない俺の食べれるケーキをちゃんと覚えてくれていたランは昔みたいに俺に世話を焼くようにしてケーキを差し出してくれた懐かしい至福の時間がここにはちゃんとあった。





参照にどうぞ。


フリュゲール組の話しはこちらから

https://ncode.syosetu.com/n7994dh/


ロンサール組の話しはこちらから

https://ncode.syosetu.com/n1214es/

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