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魔女と契約

血なまぐさいシーンとか、いろいろとかわいそうな性描写が含まれているかもしれません。

ご注意ください。

苦手な方は逃げてください。

王都の屋敷を出てすでに3回ほど馬車を変えた。

その頃には俺達の事なんて何も知らない馭者が国が落ちた事をどこか辛そうに話をしてくれた。


「貴族様は総て爵位と領地に財産没収とされちまったけど、俺達平民は恙なく暮らすようにとお達しを貰った時はそりゃ歓喜したね。

 話に聞くよりいい王様じゃないか」


言うも下卑た笑い声と共に


「9人も側室作って女しか産めねえってのが笑えるけどな。

 俺んとこなんて母ちゃん1人でも3人も男の子共が産まれるって言うのに!」


歓迎はしてない物の別に害意はない為にまだ余裕のある口調で笑う。


「だけど、あんたらどこぞの貴族様だったんだろ?

 ああ、その身なりみりゃ判るって。安心してくれ。襲うつもりはないから」


とは言うもなんでもない所で馬の足は緩やかになり、そして馬車は止まる。


「俺っちは襲うつもりはないさ。あちらの旦那達が嬢ちゃんに話があるんだとさ」


木の影から幾人かのあまり身なりの良くない男達が現れた。

馬車の男と同じ下卑た笑いと、どこか虚ろな顔。

馭者は俺の首に一瞬で手をまわして


「悪いな、こっちも生活があるんで」


さすがのサファイアでも移動に次ぐ移動で男達の後れを取り、紅蓮の魔女と呼ばれた彼女でも純粋な男の力に適う事が出来なかった。


待機していた男達はその場でサファイアを組み敷き、事に及ぼうとする。


「おい、貴族様って言うのはいつ喰ってもすげーな!

 見ろ、なまっちろい肌はすべっすべだぜ」


「なっ、やめなさいっ…ひっ!!!」


足に舌を這わされて悲鳴を上げるサファイアを男は面白そうに笑う。


「やっぱ生娘に限るな。反応がいちいち面白い」


その言葉に顔を真っ赤にするサファイアだがそれもそう続かない。

あっという間にモンペみたいな下着をはぎ取られ男達もズボンを脱いでいく。

姉のように慕うサファイアが強姦されようとする様を馭者に取り押さえられた俺はやめろと抗議するしかできないただただ叫ぶだけの無力な子供だったが、ドレスの胸元がはだけられて、その大きな谷間から零れ落ちた見覚えのある赤と青、それと他は知らないがいくつもの指輪や石を繋げたネックレスに目が止まる。


「見ろよ!お宝の中に本物のお宝が眠ってやがってたぜ!」


ハウゼルの想いの結晶、受け継がれる親子の絆。

他にも友情の形だったり逃れる事の出来ない運命の中せめて心は自由にと渡された物だろうか。

この世界で生き抜いた彼らの証拠がそこには詰まっていて…


彼女には果たさなくてはいけない幾つもの約束と思いをその細い体に抱えていた。


いつもと変わらない表情も、その思いを受け取った故の決意の証拠。

決別を繰り返して一人生きる道を選んだサファイアの背中はそれでも凛と背筋を伸ばし、その選択を誇るかのようなその決意のサファイアの瞳。


取り上げられた宝石を奪い返そうと半裸の姿もお構いなしに男達に絡みつくも、逆にただただ楽しませるだけ。ネックレスを男達は投げ回して彼女を翻弄してその姿をあざ笑う。

それでも必死に取り返そうとするサファイアと共にする魂の欠片達を見ながら唇を食いしばる。

俺は何をやっているのだろうかと。

あっけにとられていた思考は既になく、ただただ冷静になっていく思考に呼吸が静かなリズムを刻む。

体中にめぐる魔力を感じ取る。

あのふざけた本の云う通り、毎日訓練して居たおかげですぐにその存在を感じ取る事が出来た。

俺をがんじがらめして目の前の光景を囃し立てて楽しむ男を睨みあげる。

男は気づかないが、胸元に抑え込まれた俺の頭の上はひどく無防備だ。

サファイアが傷つき俺だけが綺麗でいる理由なんて俺は知らない。

今必要なのはその決意。

そんなもんとっくにできている!


『風よ、鋭利な刃となり、敵を切り裂け!』


イメージするのは鎌鼬の様な、そんな真空の刃。

俺を抑え込む男の首を断絶するそんなイメージ。


ヒュ…と一瞬耳に届いた風の音と、ごろりと目の前に落ちたなにか。

頭上から生暖かい何かが体を濡らす。

一瞬呼吸を忘れそうになった自由の体で馬車の椅子の下に隠していたサファイアと一緒に作った魔法剣を取り出す。

魔法剣に宿った魔力に俺の魔力を注げばすぐにエネルギー補給と言ったように喰い始めて魔法剣は俺の命令を待っている。

魔法剣に喰わせたのは大気に漂う水分を集めた力を乗せた魔力。

剣の周りにねっとりと水の膜が出来上がり俺は男達の背後からその剣を力いっぱい振り下ろす。


「サファイアのネックレスを返せ!」


袈裟がけにぱっくりと服が破れ、そして血しぶきが飛ぶ。

返り血を浴びながら驚きと恐怖で見上げる男を見下ろしせば、切つけた所から男の体中に水の膜がまとわりつき、徐々にそれは大きくなって大きな水球の中に閉じ込めていた。

その様子を見ながら二人目の男へと視線を向ける。

男は既に殺した馭者の姿を見たのか「ひえっ!」なんて情けない悲鳴を上げるも、俺は無言のまま地を蹴って待ち伏せしていた男達を全員切り付けていた。

一撃で殺せるほど俺の剣の腕は良くはなく、力もない。

だから魔法の力を借りて男達に張った水球の中で窒息してもらう事にした。

息が上がり地面に両手をついていたサファイアが顔を真っ青にして「なんて事を」と言うも、長い無言の続く中数分の後、男達は溺れ、息途絶えて行った。

それを眺めながら魔法を解除すればごとりと力ない体が転がり、俺は改めて襲ってきた恐怖を誤魔化すように剣を地に当てながら数メートルほどの穴をあけてそこへ男達を蹴り落とした。

もちろん獣達が掘り返さないように土もかぶせる。


その行程をただ眺めていたサファイアに男達が手放したネックレスを拾い上げ差し出す。


「これはあんたが生涯守り抜かなきゃいけない物だ。もう手放さないでくれ」


「ごめんなさい。だけど…」


「いいんだ。どうせそのうちこう言う事はしなくちゃいけないんだろうから」


近くに在った落ち葉を掘り返したばかりの穴があった場所にばらまきカモフラージュは完了。


「本当は私がするべき事だったのに…」


「俺とあんたは共犯者だ。国が滅んだ以上もうお互い綺麗なままじゃいられないだろ」


「ですが…」


「だけど、俺はそれでもあんたはあんなふうに穢されたくないんだ」


「…っ」


「サファイアが父上に恩があって俺を守る事はあんたさえ納得してればそれでいいと思う。

 だけど俺はそれにただ甘えて綺麗なままでいるほど出来た人間じゃない。

 それにこれから俺達はフリュゼールまで行かなくちゃいけないんだ!

 沢山の人の犠牲の上で逃げるんだ!!

 遅からず早からずこう言う事に手を染めなくちゃいけないんだ!!!」


返り血で汚れた手を眺めていれば一過性の熱でしてしまった事に恐怖に怯えるも、眺めていた手の上に土で汚れた手が俺のまだ小さな手をやさしく包む。


「汚れ役は私一人で十分だったのに、本当にごめんなさい…」


そう言って涙を流さずに暫くの間肩を震わして泣いていたサファイアはやがて落着き俺の手をそっと放す。


「ずいぶん時間をとらせてしまってごめんなさい。

 思わず頭が真っ白になって自分が魔法を使える事さえ忘れてました。

 今後二度とこのようはミスはしないと誓いましょう」


そう毅然と言い放つ姿は俺の知るサファイアそのものでクスリと笑みがこぼれてしまう。


「その誓いはいいけど、俺としては完璧なサファイアなのにミスった時の方がかわいいと思うんだけどな」


「年上にかわいいと言う言葉は使う物ではありませんよ」


信憑性の欠片のない言葉ですと注意をくれるあたりいつものサファイアだった。

きっといろいろ動揺しているはずだろうにそうやって平常心を取り戻そうとする彼女の強さを今は信じて俺もさっきから実は震えっぱなしの足を軽く叩く。


「サファイアは馬車の運転できる?」


「当然でしょう。その程度の事私が出来ないとでも思おい?」


クイッと顎を上げて言う月明かりの下の彼女はどこまでも凛々しい。


「だったらすぐにでも出発をしよう。お互い着替えをして…」


言えばサファイアが頭の上から血まみれの俺を穴が開くほど見て、俺は視線を反らせながら半裸状態のサファイアに背中を向ける。


「これは私とした事がとんだ姿を」


いやいや、絶対そんな言葉で納められる姿じゃないはずだ。

足首はもちろん素肌は生涯旦那さんしか拝めない神秘の世界。

それをあんなふうに男達に見られて、触られるなんて…この世界では立派な自害の理由になる。

が、サファイア様は俺の背後で男前にビリビリと服を破いて着替えて行く音を聞きながら俺も血まみれのシャツを脱いで暖かなお湯で体を洗い流していく。


「ですが、リック」


不意にかけられた声はすぐ背後。

振り返るよりも早く、俺と近い体温が、素のままの肌が俺を抱きしめる。


「あんな事をしてこんな状況ですがお互い手を取り合っての逃亡となります」


頭のすぐ後ろの柔らかなあの部分に首筋が挟まれて、正直もう声なんて聞こえちゃいない。


「こんな状況、あなたがもう少し、せめて成人していれば私は貴方に総てを捧げたでしょう。

 ですが、あなたは子供で、私には思いをはせる方々がいます。

 どうか、あなたへの忠誠の代わりに総てを…」


「サファイア、俺別にそんなものいらない」


バクバクと心臓が全速力で走った後のように早鐘を打つが、それでも間違えられちゃ困る。

あんたがその身を捧げるのはただ一人。

叶わない以上手身近にいる俺ではなく、総て終わってから改めて出会うだろうその人に。


「それであんたが納得しないと言うのなら契約をしよう」


「契約…とは?」


「命にかけて、この存在をかけての約束だ」


「なるほど。で、どんな約束を?」


聞かれるも目標は今はただ逃げるだけ。

だけど問題はその後だ。

逃亡を始めた頃に言っていたサファイアの言葉ぐらいしかゴールが今は見当たらない。

だったらそれでいいじゃないか。

リーディックを傷つけた、彼が子供らしく、人らしく育つ事を阻んだ張本人に責任を取ってもらう事にしよう。


「ブルトランの王を俺達の手で討とう」


驚きに見開かれたサファイアの瞳が俺をただ見下ろし、一瞬開きかけた口が決意に閉じる。


「その為に俺はサファイアの剣となり盾となる」


と言っても圧倒的に俺の方が弱いのだが、それでも雪兎の記憶を頼ればいくらか道は開けるはずだ。

どうだと背中越しだから見えないとは言え、木々の隙間から見える夜空を見上げれば


「いいでしょう。

 私もリーディックの剣となり盾となりましょう。

 そして、私の知識ある限りのすべてを用いて、ブルトランの王を討つ。

 なるほど。

 そう言う契約となれば私は貴方に甘える事も許されないと言うわけですね」


「まぁ、甘えても隙を見せても欲求不満の解消相手でも構わないけど、俺達はブルトランの王を討つその一点。

 この目標がすべてだ。

 互いが互いの為に、そして目標達成の為に生き抜く。

 荊の道って奴だな」


「頼もしい言葉ですね」


「ま、あんたは知ってるだろ?外見と中身が別物だって事。

 それに中身だって言葉ほど立派な奴じゃない。

 こんな事避けて通れれば避けて通る駄目な奴なんだよ」


本当はと言った所で視界がぐるりと回った。

景色は一点、ただ一色の世界。

あ、なんかやばいかも…

そう思う事も関係なくサファイアは俺を抱きしめる。


「それでも私の為に避けて通ればいい所を避けずに、それどころか飛び込んでくれた。

 私にはそれで十分なほどの英雄です」


「英雄ね…っていうか、お願いが、俺、ほんと、もうやばいって…」


毛の生えてない幼い体でも頭脳は18歳なわけで、立派に息子さんは大人でいらして…


「不本意ですが、やっぱりここはきっちり私の忠誠を示しましょう」



不本意って?

忠誠って何?

って言うか、何でそのまま馬車に俺連れ込まれるの?

っていうか…犯罪ですよサファイアさーん!!!


うん。


彼女いない歴年の数の俺には刺激が強すぎる時間でした。

というか。

この世界の女性の忠誠がこう言う事だなんて聞いてないんですけど。

というか。

足首さえ見せない理由がわかった気がしたし。

なんというか。

なんというべきか。

セーフかアウトの二択ならセーフだったのですが。

それがまた男として涙を流すしかない結果。

緊張して、びびった息子さんはやっぱり小さなお子様で。


ううう………


「言っておきますが、一番不本意なのは私です!

 ですがこれは私のけじめ!そう!けじめなのです!

 お父様、小父様、同僚、ハウゼルを言い訳にしない自分自身へのけじめなのです!

 それに無理やりは淑女のする事ではありませんから!

 何時まで泣いているのです!

 判ったらさっさと寝なさいっ!」


顔を真っ赤にしながら吠えるように馬車の中で泣いている俺にいつまでもサファイアは叫びながら、それはもう魔物も避けて通るそんな迫力にで。


次の朝、休憩を兼ねて馬車を止めた時、お馬さん達がサファイアに対して恐れをなしてたのは不憫な事故と言うしかあるまい。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 能ある鷹〜のテンプレを期待して読んでいました。 [気になる点] 既に戦場を経験しているサファイアが襲われるシーンはあり得ません。全てを台無しにしてしまいました。初登場からの彼女の形と性格か…
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