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前世の記憶に決意する

まったり始めます。

一度は誰もがかかる熱病。

エレミヤ公爵家人3兄弟の末弟。

リーディック・オーレオ・エレミヤは9歳の時にその時を迎えていて、3日間高熱に魘されながら1つの夢を見続けていた。


上下黒色の従騎士の様な服に身を包んだ長兄ぐらいの年頃の青年が田舎道を歩いていた。

その日は雨が降っていて、道沿いの小さな小川が今にも溢れ出しそうだった。

だけどその青年には見慣れた当たり前の光景なのか慌てる事もなく、ただただ家路を辿るだけだった。

不思議とその青年の感情はどこか億劫そうな、ただつまらない日常を繰り返しているだけなのが理解できた。

雨具をまとうことなく、雨にさらされるずぶ濡れのままやがて見えてきた川を渡るだけの橋だろうか?

一枚板の様な石の橋を渡りはじめた所で彼の足が止まった。

渡した石がかかる土手が、青年の体重と言う負荷が加わった所で一気に崩れたのだ。


それから一転


泥水に流され、手は宙をかき、体温はどんどん奪われていく。

容赦なく口から鼻から襲い来る泥水で呼吸が難しくなり、やがて意識がなくなって……


「そうだ。

 俺はばあちゃんの注意を無視して川で溺れて死んだんだ……」


魂の記憶というのだろうか。

前世の記憶を取り戻した俺はそのまままた意識を手放した。




意識を取り戻したのはそれから2日後。

ずっと眠り続けていて萎えた体を起こそうとした時母、グローリアがメイド達を連れてやって来た。


「リーディ、もう体を起こして大丈夫なの?

 欲しい物はない?眩暈はしてない?」


矢継ぎ早に質問を繰り出す母をこんなにも心配させてしまったのかと苦笑するも


「のどが渇きました。何か食べたいかも…」


その一言にメイドがさっと水差しからさっとグラスに注いで手渡してくれる。

そして連れてきたメイドの一人がさっと部屋から静かに退出していった。


「ああ、だいぶ顔色が良くなったわ。

 一時は本当に危険だとお医者様も仰ってたのよ」


白魚の様な手で頬をそっと包み込みながら俺の顔を覗きこむ。

16歳で結婚してすぐに長兄を生ん母はまだ34歳と言う美貌はいまだ健在で、やっと20代半ばといった所だろうか。

平時からドレスと宝石を身に纏う公爵夫人は貴族らしい見本として圧倒的な気品を放っていた。

それが息子のベットの上で瞳をうるうるとしておでことおでこを引っ付けて「もう熱は大丈夫のようね」と、ただの一人の母親の顔を見せるあたり俺は母に愛されている事を今更ながらに思い知った。

公爵家の三男とはいえいずれ家を出て行く身分だ。

どこぞの身分ある女性と政略結婚の駒の一つと自分の存在価値を考えていただけに、思わぬ母の優しさに詰まる物がこみ上げてくるがそれも粥を持ってきたメイドが我が家の常駐の医者と父上を連れてくるまでの間だった。


「目を覚ましたと聞いた」


威厳ある声が部屋中に響けばミルクとチーズのパン粥の香りが漂う室内の温度が急激に下がったようだ。

母は立ち上がり身だしなみを整えたかと思えば父にさっきまでいた場所を明け渡す。

父、ガウディの片手がすっと伸びて、額やら目の下、それから首筋へと触れて行く。


「確かに大丈夫だな」


額の熱と、目の状態、そして太い血管の走る首筋の腫れを何気ない動作で確認していった。


「体は萎えてしまいましたが、空腹以外は問題ありません」


言えばきょとんと眼を丸くした父は訝しげな顔をして


「それだけ言えるなら問題ないな」


ゴホンと咳を一つして部屋から出て行ってしまった。

その後を追うように母も出て行ってしまい、メイドがベットの上に食事の用意をしてくれて、冷めかけたパン粥にやっと手を伸ばす事が出来た。


食後にお茶と煮詰めた果物を用意してくれたメイド達にまだ少し横になりたいからと言って下がらせた後、横になったベットの柔らかさに身体を鎮める。


「さて、問題です。

 これは一体どう言う事でしょう?」


リーディック・オーレオ・エレミヤは自分自身に自答した。

一番古い記憶は3歳ぐらいだろうか。

二番目の兄、マルクの持つ剣のおもちゃが欲しくて周囲を困らせた覚えが一番古い記憶としている。

それから虫食いに記憶が現在までと続き、今日の一件で黒髪黒目の青年の記憶が混ざった。

名前は芹沢雪兎。雪の降る日の生まれだ。

両親は交通事故で他界。

父方の祖父母に大切に育てられていた。

不自由はなく、躾は厳しかったが、あれこれと小うるさくはなく、専業農家の孫として勉強重視ではなかった。

だけど、そんな生い立ちゆえにうまく友人関係が作れるはずもなく、趣味は今どきの子供らしくネットと時間つぶしの勉強だった。

見栄えもぱっとする事なく、彼女もおらず、だけど校内の成績は優秀な方なためテスト前一週間は周辺は賑やかになる。主に男友達と。

そんな寂しい人間関係だが、高校卒業後は家から離れた大学へと進学も決まっている。

親が残した家が空き家のまま財産として残してあるその家から通える学校だ。

祖父母も反対はしなかった。


そんな記憶をたどりながらリーディックはため息を吐く。

それが事実なら夢で見た芹沢雪兎は確かに感情の乏しい人生だと他人事のように感じながら自分のあまり長いとは言えない人生を振る返る。


公爵家長男と言うハウゼン・レーヴェ・エレミヤは公爵家の跡取りとしての教育は既に終え領地経営について父に代わり仕切っている。

エレミヤ家の金の髪と翡翠の瞳を受け継いだ兄は社交界でも人気者で、よく女性からのお誘いを受けているようだ。


その代理ともいえる立場の二番目の兄上もエレミヤ家の血を濃く受け継ぎ、華やかな美貌で社交界の女性の心を掴んでいる。

ただし、ハウゼン兄様が家を継いだ折には家を出て行かなくてはいけないのでそれなりにコネは作っているようだ。

学友の友人と剣の技術を切磋琢磨とし、今年なんと騎士団に入隊してしまったのだ。

それには父は知っていたが本当に入隊できるとは思っていなかったようで、


「何かあった時の為にも体は大事にしなさい」


その努力を認める形で兄の騎士団入りを許してしまった。

ちなみに学友とは王家の二番目の王子。

つまり王家の側近として騎士団入隊を認めたという事だと執事は言う。

そして俺は…

まだ10歳にも満たない子供で、社交界デビューも遠い先にあり、メイドへのいたずらは日常で、家庭教師の手も付けられないエレミヤ家の問題児だ。

よく言えば天真爛漫、一般的に言えばクソガキ。

芹沢雪兎とまったくもって正反対の生を謳歌しているなと冷静に分析してしまった。


「おおっと、これは雪兎の癖だな」


冷静は置いといて周囲の分析は友人関係の少なかった雪兎の暇つぶしだ。

趣味とは言わない。

裕福とは言い難い小遣いの中で観察する事はお金はかからない時間つぶしの一つだ。

その上でこの長くはない人生を振り返ると…


「俺、もう積んだな」


虚しい笑い声しか零れない。

雪兎の時も人生をやり直せるとしたら…とか、もしここではない世界に行けたら…とか、教室の隅に固まるおたくたちの会話をぼんやり聞きながら同じように想像したことあるが


「すでに9歳。もう9歳。挽回できるか?」


前世の中では中学に上がる時、高校に上がる時、そして大学に上がる時などターニングポイントが待っている。

ただこの世界では学園に入学する時、そして社交界デビューの時、もしくは学園卒業後がターニングポイントとなる。

まだ三回チャンスがあるじゃないかと思うも、すでに学園に入学する時のチャンスが滑り落ちかけている。

王侯貴族、もしくは優秀な物が集う学園生活の場に潜り込むにはそれまでに勉学は勿論礼節も既に仕上がってなくてはいけない。

それは学園で学ぶ場ではないのか?

などと問えば、学園ではその事が総てマスターしてる事を確認する場となっているのだ。

そうして問題なければ無事社交界で華々しいデビューが約束され、血統の確かな婚姻を結べると言う、いわば婚活だ。

そういう意味では公爵家というブランドは絶大の効果があるが…

問題はリーディックの日ごろの行いから言えば学校側から言えば見向きするべき相手ではない事は確かだ。

だとすればだ。


「今から挽回か?」


考えて…


「できるかな」


自信はない。あるわけない。

でもなんとかしないと…


「ニートだけは避けよう」


この世界にニートと言う定義が存在するのかどうかは知らないが、これを機に少しずつ日々の生活を悔い改めてみようと心に誓った。




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