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5時~7時の刻

1日の内に出来うる限り

更新していきますので、お暇のある御方はどうぞよろしくお願いします。

31日以内の完結を目指します。



それは、睡眠中に見る“ありえない”映像

あるいは“幻想”、“人の想像世界”

人はそんな映像に関心を持つ事は殆ど無い。


何故なら、それが正真正銘のフィクションにして

断じて実現する事のない虚構だからだ。


だが、私は・・・夢に救いを求めていた。



嗚呼、お願いだから良い夢を見せて。

私に安らぎを与えて、あの“悪夢”を忘れさせて。



そう願っても

悲しきかな、夢は残酷だ。


都合よく夢を見せてくれないし、

見せてくれたとしてもそれは大抵が悪夢だった。

夢の世界にまで見放された。

自分自身の想像力なのに、私を助けてくれない。


それは己を許さない罪悪感からなのか

はたまたは怨念による呪いからなのか


私に出来るのは

現実逃避を繰り返し、無理やりに“あの事件”を忘れ

“あの御方”に仕える事だけだ。


あの悪夢を起こした元凶である、“あの御方”に・・・。








・・・・











「っ・・・・」



はっとして無意識から覚醒すると、布団からはみ出した足が震えた。


朝だ。

目覚める時だ。


そう認識して私は身体を起こそうとしたが

どうにもこうにも、動けない。

いや、動けないというよりは・・・動きたくない。



「はぁっ・・・」



ため息を吐くと、薄目で覗く景色には白い陽炎が

狭すぎる視界を覆って、一瞬で消え去る。


私の吐息が白く見えるほどの寒い朝。


布団の中は心地よいぬくもりに満ちており

私が動きたくないと思うのは、そのぬくもりが原因だった。


確実にこの布団の外は痛いほどに寒いだろう。

現に、布団から放り出していた足は冷え切っており感覚がない。

思わずその足を布団の中にしまい込むほどだ。


そして、その寒い中に一度でも出てしまえば

この布団に残るぬくもりは消え失せてしまう。


あまりにも心地が良すぎるぬくもりを無くしてしまうのは

まだ眠たい私にとっては非常に惜しい事だ。


出来れば二度寝がしたい。

このぬくもりに包まれながら、凍てついた世界を拒絶して

いつまでも寝ていたい。


そうだ、まだ外は日も上がりきっていないほどの早い朝だ。

今頃に起きている者はいないから

このまま寝てしまっても二度寝だとは気付かれない。

寝坊してしまっても、それは二度寝の罪よりは軽い。


そこまで思考すると私は決意した。


よし、寝よう。


私は薄目開いた目蓋を閉じ、無意識の世界にダイブした。


今度こそ良い夢を。

そう願いながら・・・。




「マミラ!! マミラ!!

素晴らしい事を思い出したんだ!

だから、起きて聞いてくれ! マミラ!!」




が、無意識の世界にダイブした私の腰には丈夫な紐が縛ってあり

それを容赦なく、現実の世界から引っ張り上げられる。


ああ、その布団の上から襲い掛かる衝撃のおかげで

私の臆病な眠気は逃げ去ってしまったよ。

全く、誰だ? 私をこんな朝早くに叩き起こすのは。


私は重い目蓋を強引に開け

身体を起こす。



「おはよう、マミラ」


「・・・おはよう? パーバション」



気怠い身体を誤魔化すように

私は目蓋をこすって、まず刺激を与えて

私に乗りかかっている人物に注目した。


そこには私より小柄な少女の姿があった。


赤っぽい茶髪の髪は肩ほどの長さ

非常に薄い青の瞳はいつもの

“ポーカーフェイス”に似合わず輝いている。


そう、この“パーバション”という少女は

齢15という未成年の子供は、滅多に笑う事のない

一目見れば“訳あり”だと直ぐに分かるような異常な子だった。

そのパーバションが、今笑っている。


可愛らしい、子供っぽい笑顔で

私を見つめている。


普段の彼女の様子を知る私からすれば

この状況はこの上ない異常事態だ。

思わず、動揺してしまう。



「ど、どうしたんだ

こんな朝っぱらから・・・」


「今日は何日か分かるな!?」


「・・・10月31日だが?」


「そう! 10月31日だ!」


「・・・それが一体、何の意味があるんだ?」


「だから、“ハロウィン”だ!」


「は、はろ・・・いん・・・?」



いつも無愛想なポーカーフェイスの人間が突然に笑ったら・・・

気味が悪い。

気持ち悪くて、怖く感じる。

今のパーバションを見て、私が抱いた感情はそんな感情だった。


そんなパーバションを見て“ルクト様”を思い出してしまうが

ひとまず、パーバションを落ち着かせるのが先決だろう。


そう決断したからには、行動だ。



「パーバション、ひとまず落ち着くんだ

この世間知らずの私にも分かりやすいように説明してくれ」


「・・・マミラはハロウィンを知らないのか?」


「ああ、その“はろいん”というモノは知らない」


「“ハロウィン”だ!!」


「・・・!

ハロウィンな、分かった分かった

だから落ち着くんだ・・・パーバション」



いつにもなく、妙な様子のパーバション

私がハロウィンの発音を上手く出来なかっただけで

強い口調で訂正する。


・・・前にも、こんなおかしな様子になった事はあった。


思えば、パーバションは変な娘だった。

年がら年中、コートを羽織ったまま過ごし

滅多に脱ごうとしない。


いつぞや一緒に風呂に入った時は

コートの中には尋常ではない数の隠しポケットがあり

その中には大量の銃。

彼女が頑なにコートを脱ごうとしなかった理由を知り戦慄した。


あるときは、楽しく談笑していると一時停止。

ピタリと固まったかと思えば


“私は誰だ? 一体、こんなところで何をしているんだ?”


と呟くと、頭を抱え

意味の分からない言葉をぶつぶつ言い始めるなど。

彼女の言動にはちらほら『記憶喪失』を思わせるようなモノがあるが

本人に問いただすと“そんな事はない、私は正常だ”と否定する。


彼女が何者なのか、“あの御方”に聞いても

“深入りをするでない、知れば後悔するだけだぞ? 愚か者よ”

と、キツい言葉で詮索を禁じられた。


もちろん、禁じられた以上は

パーバションについて深入りするつもりはない。


何故なら、“あの御方”が後悔すると言って後悔しなかった事はない。

いつもいつも、言った通りになる。

あの御方は常に正しい。



だが、パーバションが変なのには変わり無いし

このまま放置しておくのはもっと悪い。


パーバションは私の数少ない友人の一人だ。

もしも心を病んでいるのだとしたら、私はその助けになりたい。

『記憶喪失』だというのなら尚さら。


事情をよく知らない私に出来るのは

パーバションの望みを叶える助けになる事ぐらいだ。



「ハロウィンというのは

悪魔祓いのイベントで、皆で恐ろしい化け物に仮装して

家々を訪ね歩いて菓子を貰うんだ!

私も、幼い頃は近所の家々を巡って楽しんでいたぞ・・・」


「欧米の行事か、同理で私は知らないわけだ」


「マミラは世間知らずにも程があるぞ?」


「そこは許せ

私は生まれてこのかた“山の実家”と“この神社”の外に出た事はない

私にとっての世界とはこの二箇所しかない・・・

もっとも、現在は“この神社”しか私の居場所は無いがな」


「・・・世界はとても広い

世界中を巡った私が言うのだから間違いはない

今回はきっと、それをマミラに教える事が出来るだろう!」


「・・・何を目論んでいるんだ?」



パーバションがハロウィンについて説明してくれる。


化け物の仮装をして、化け物を祓う。

そんな発想から誕生した行事の割には気楽な印象を受ける。

どうして悪魔祓いのイベントが家を訪ねて菓子を貰うものになったのか

良く分からないが、まあ面白そうだ。


だが、分からないのは

そんな行事の話題を持ち出すパーバションの考えだ。


・・・いや、ここまでくればもう分かるか。


今日は10月31日

ハロウィンの日


パーバションが言いたい事なんて―――




「皆でハロウィンをするんだ! きっと楽しいぞ!」




嬉嬉とした様子でパーバションは宣言した。

この、“忌み子様の社”でハロウィンを行うと。


確かにパーバションから聞いたところによれば

ハロウィンとは非常に愉快な行事なのだろう。

だが、ここは“あの御方”の社だ。


ここで彼女の許可もなしに、そんな行事をするわけにはいかない。

だから必然的に許可を得なければならなくなるのだが・・・。


あの御方がそれを許すだろうか?


正にあの御方の思考回路は理解不能。

“私は社を捨てる”と言っていたにも関わらず

未だに、ふらりと帰ってきては本来の役割をこなしている。

そんな人が、社で西洋かぶれの行事を行うなど許すのか?


甚だ疑問だ。



「パーバション、だがそんな事を私に言っても仕方がないぞ?

この社の主である“忌み子様”に言わない事には・・・」


「わざわざ聞く必要など無いだろう?

アイツは何だかんだで“許す”からな」


「自分勝手過ぎるぞ、パーバション

“忌み子様”は変なところで頑固だったりするのに」


「構わん、構わん

万が一にも許さなかったとしたら、こちらには秘策がある

だから心配せず、一緒にハロウィンの準備をしよう!」


「・・・あえて“秘策”について聞かないでおくが

どうして今日なんだ?

正に当日に言いだして、準備出来るとはとても思えないが・・・」


「それは仕方ない!

だって、今日ハロウィンを思い出したのだからな!」


「やっぱり、パーバションは記憶喪失しているのか・・・?」



「 私 は 至 っ て 正 常 だ ! ! 」



強引に話を押し進めるパーバション

その有無を言わせない空気に私が抗える(すべ)は無かった。


熱っぽく語るパーバションから“楽しみ”を取り上げるなど

そんな(こく)な事、私にはとても出来ない・・・。

普段の異常な様子を知っているからこそ、尚さら。



私は布団からゆっくりと出ると、

やはり想定していた通りの寒さに震える。


早く、早く服を着なくては。


私は慌てて部屋の片隅にある鏡の前に立ち

前夜に畳んで置いていた着物を広げた。



「マミラ、聞いても良いか?」



不意にパーバションが声を掛けてきた。


私は着物の裾を探りながら

白い小袖を羽織り、パーバションの言葉を待つ。



「マミラはいつも寝るとき、無防備過ぎるよな」


「え、無防備とはどういう事だ!?」


「無防備って、どう考えてもの寝姿にあるだろう」



パーバションの指摘に私は反射的に鏡を見る。


そこにはさらしをキツく巻いただけの

女子として冷静に考えてみればあられもない姿。

一応、寝巻き用に袴を履いてはいるが無防備と言えば無防備だ。



「もう少し・・・なんだ、銃を枕の下に隠しておくなり

色々、あるだろう?

曲がりなりにも、ここはアイツの社だ

何が起きても不思議ではないのに・・・」


「う、今後からは改めよう・・・」


「今になって始めてその格好を恥じるとは

マミラは世間知らずどころか、常識というものを持ち合わせているのか?

それすら無さそうに見えるぞ・・・」


「常識の定義を説明してもらおうか

常識とはそもそも、人間が勝手に作り出した概念であり

それを神聖な巫女である私に押し付けようなどと・・・」


「屁理屈」


「そっちが図々しいんだ」


「じゃあ、引き分けだな」


「ああ、それで解決しておこう」



パーバションのダメ出しを食らい、反省。


枕の下に銃か、暴発するか心配なので

パーバションの発案は却下だが・・・。

念には念を入れておいて損はない。


睡眠中の防衛策をぼんやりと考えながら

袴を脱ぎ、畳んでおいた別の袴に履き替える。


緋色の良い生地で仕立てられた袴。


私のような、正確に言えば“違う”人間が着てよいのか

常々、申し訳なく感じてしまう。



「パーバション、お前がハロウィンを行うと言うのなら

友人である私も遠慮なく手伝おう

だが、それを遂行出来なかったとしても

誰も恨まないでおけ、良いな?」


「良いだろう、そうならないよう何が何でも遂行してみせる

蝶亡たちにも協力を仰いでくるとしよう」


「ああ、そうしておいてくれ

じゃないと後で“どうして私たちを入れてくれなかったの?”

ってうるさくなるぞ?」


「はは! 確実にそうなるだろうな!

それに暇人な“連中”にはうってつけの雑用だし

奴らを使わない手はないだろう!」



着付けを終えた私はパーバションと談笑しながら私の寝室を出た。

外はまだ日が登りきっていないため

夜闇が天高くを覆い、山の隙間からは白い光が差している。


高い山々に囲まれた村の神社なので、他の地域と比べて

夜は長く、日の顔はなかなか覗かない。


そんな情景を見ていると、

この村の出来事と外の出来事が隔離されているように感じてしまう。

もしも、この村が異常なまでに閉鎖的でなければ

あんな事にはならなかったかも知れない―――



「マミラ? どうした、ぼんやりとして」


「・・・いや、つい考え込んでいただけだ

にしても、ハロウィンと言っても

何をどう用意すれば良いんだ?」


「そうだな・・・まずは仮装用の衣装が大量に必要だな

あと、ハロウィンに宴が付きものだ

菓子も切っても切れないモノだし・・・

えーと、あとは・・・?」


「待て、衣装を大量? 宴に菓子?

当日でどう用意しろと?」


「手段を選ばなければ良いのさ、だろう?」


「説得力が無さすぎて、私の気力が削がれたぞ・・・」


「すまないな、私はこういう時

仲間を励ますのに慣れていないんだ」


「そういう事じゃない・・・」



ハロウィンとやらは色んな道具が必要になってくるみたいだ。


宴なら、酒とご馳走があれば良い

ここにいる“連中”は宴好きだから、

飯と酒の用意さえ出来ていれば勝手に盛り上がってくれる。


問題は菓子と衣装だ。


酒と飯の心配なら、宴好きの連中のおかげでしなくても良いが

菓子や衣装に限っては確実に難しい問題だ。


この社はまず、決して豊かとは呼べない。

なんたって先の“事件”により

信者の足がぱったり途絶え、賽銭一つ入らないからだ。


これまでどうにかこの社を維持出来たのは

“忌み子様”が定期的に戻ってきては支えてくれたからに過ぎない。


ゆえに、菓子やら贅沢な衣装などは長年、無縁の代物だった。

なおかつ、この社にはここを維持する以上の余裕はない。

なので菓子や衣装を買う金も無い。


・・・どう考えてもハロウィンの宴を開くなど無謀だ。



「パーバション

悪いが私には菓子や衣装を手に入れる方法が思いつかないんだ

菓子や衣装を抜きに出来ないか?」


「それじゃあ、ただの宴じゃないか・・・

ハロウィンの菓子と仮装は切っても切れないと言ったはずだが?」


「・・・じゃあ、どうしろと」


「どうしても出来ない事なのか?」


「ああ、菓子と衣装を用意するなど

この社では出来ない」


「ならば、出来ない事を可能に出来る人がいるじゃないか」


「・・・え?」



その事をパーバションに問うと、

如何にも策があると言わんばかりな不敵さで言い放った。




「我らが神の“忌み子様”を頼るんだよ」











・・・・











この社は“忌み子様”を奉り、その御柱の居の役割を成している。


が、その忌み子様を信奉する山の麓にある村にて

信者の足が遠のく“忌まわしい事件”が起きた事により

忌み子様は信仰を失った。


まあ、そこまでは案外よくある話だ。

だが問題はそのあとであった。


通常、信仰を失った神は同時にその力も失って落ちぶれるものだが

忌み子様は違った。

信仰を失ってもなお、その神々しさは揺らがず

その絶対的な力も決して弱まる事がなかった。


神は信仰の力に応じて強くなり、そして弱くもなるが

彼女の場合、元より信仰などは必要としない力を有していたのだ。


“信仰の要らない神”


“神失格”


“ありとあらゆる神の中で唯一、有り得ない神”


そんな風に、彼女は言われ続けた。

神様としての才覚は恐らく、そんじょそこらの宗教団体を脅かす程だ。

なんたって、彼女は・・・



「正真正銘の奇跡を起こせるから」


「つまり、彼女の奇跡の力に頼ろうと言うのか」


「ああ、あの女なら何でも出来るだろう?」


「・・・あの御方がそれを良しとすれば、の話だ

あと、“あの女”などと呼ばないでくれ

彼女が聞いたらと思うと恐ろしい・・・」


「大丈夫に決まっているだろうに、

どうせ“神様”は自堕落に寝ているさ」



私は“忌み子様”に仕える巫女として

彼女の起こす奇跡の数々を見てきた。


だからこそ、断言出来る。


彼女こそが“本物”であり

その力を以てすれば、“万の幸せ”を叶える事が出来る。


しかし、彼女には一つだけ欠点がある。


神としての品位や振る舞いは非の打ち所が無い。

信者を救う力だって本物だ。

だが・・・



「どうせ、自堕落で役立たずな神様よ

だけれどもね? どうして貴女にはそう見えると思う?」


「っ・・・!!」



私たちは会話しながら

廊下を進み、拝殿の大広間の障子を開いた。


嗚呼、嘆かわしい事にも私の予感が的中してしまった。


大広間の奥、もはや訪れる者もいないため

奥の一段高くなった床のところに組まれていた棚を解体し

その周囲に“紗”の幕が張ってある。


理由は単純。

大広間においての“彼女”の居場所として設けたスペースだから。



その場所に、彼女は“いつもの面”も付けずに座っていた。



真っ白な、老婆のような髪は長く

片膝を立てて座っていると床に付くほど

だが、老婆のような髪とは裏腹に

真っ白な素肌は一切の曇りもなく若々しい。


白い髪、白い肌の幼い少女の姿だけでも十分に異色だが

更に目が奪われるのはその瞳だ。


長い前髪が影を作り、遮るため

その程度の親交の無い者は見る事が叶わないが今は違った。

影の奥から輝くような恐ろしい“紅”が覗く


真っ赤な瞳、人とは思えない血のような輝く瞳!

拝殿の入り口に立ち尽くす私の目にもはっきり見える瞳は

私たちの事を真っ直ぐ見つめて離さない。

“獅子に睨まれた蛙”とは正に今の私たちを表すだろう。


私は情けない事にも

自分より遥かに小さな体躯の子供に睨まれて動けないでいるのだ。


こんな事、昔なら信じなかっただろうが

今なら分かる。

そこにいるのは少女などではなく“少女の皮を被った圧倒的な強者”だ。



()い、パーバション?

それは、貴女に“神”は必要ないからよ


だから私は貴女の事を助けるつもりもない

貴女の前で“神”である必要がないから

貴女から見て自堕落で役立たずに見えるのは当然だわ?

だって、私は貴女の神じゃないもの」



先ほどのパーバションがこぼした悪口に対して

彼女はあっさりと答えた。


“お前を見捨てたから、あえてそのように振舞っている”


と、冷血にもそんな酷な事を・・・。



彼女の唯一の欠点。

それはその人間性にあった。


通常、神というものは自身の信者に対し

深い慈愛と祝福を与えるモノだ。

何故なら、神は信仰が必要な存在だから。


けれども、彼女の場合

“信仰を必要としない神”である彼女は

信者を大切にする理由が無い。



助けてくれと言われても気まぐれで見捨てたりもするし

むしろ、面白がって更なる厄を招いたりする事もある。


“忌み子様”の性質からすれば、それは仕方のない事だが

彼女・・・現在の忌み子様を務める少女“ラルー”は

元の気まぐれな性格が“忌み子様”となる事で更に強まっているのだ。


おかげで、巫女である私は

しょっちゅう振り回されて大変な思いをさせられている。


だが、一応

主である彼女の顔を立てて断っておくが

彼女は神としての品位は高い。


余程の理由がない限り

完全に見捨てるなんてことはしない。

そして、助けるとなればどこまでも助ける。


不治の病を癒し、凶作の大地を清め、災いを退ける。

万能の力を遺憾無く発揮するのは確かだ。



残酷極まりなく、意地悪で冷酷、気まぐれで掴みどころがなく、

意味不明な奇行と正常からかけ離れた言動さえしなければ。

彼女は完璧な神様なのだ。


・・・完璧、なはず。



「・・・それは、ハロウィンの手伝いを断るという意味か」



極めて意地悪な、もはや怒っても良い事を言われてもなお

パーバションは冷静に解釈した。

そういう意味ではパーバションは彼女の事を理解している。


彼女のそういう意地悪な言動はあくまでも戯れ

相手を怒らせて、楽しもうとしているのだ。


だから反応するだけ無駄なのだ。



「・・・つまらないわねぇ

昔の熱血はどこに消えたのかしら?」


「残念ながら、血は熱くなるものではないから

灼熱の炎のような血を求めているのなら

火山地帯にいるサラマンダーの血でも抜き取ってこい」


「あら? じゃあサラマンダーを捕まえてくるから

貴女も付いて来て頂戴?

火に投げ入れて貴女の焼けた肉の匂いに誘われて

やって来たところを捕まえるから」


「ふざけるのも大概にしろ」


「むむ? 良い顔しているわ、それでこそパーバションよ?」


「お前っ・・・!」


「パーバション! 忌み子様!」



茶化され、茶化し返すと更に茶化され・・・。

何やら“チャカチャカ”し始めた2人

私は2人を止めるが、2人はお互いを睨み付けている。


パーバションは彼女の事を理解しているようで

まるで理解していなかったな・・・。



「忌み子様

不躾(ぶしつけ)ではありますが、私からもお願いします

パーバションがやりたい事は私もやりたい事なのです

ハロウィンの宴を開かせてください」


「・・・珍しい事もあるものね?」


「ならば・・・!」


「でも、だめ

何だか・・・心がときめかないから、出直してきなさい」


「・・・え?」



だが、あの笑わないパーバションが楽しそうに笑って

“叶えたい”と始めて言った事だ。

友人として、ここで引き下がるワケには行かない・・・!


私は頭を下げ、懇願した。

が、彼女は非常に曖昧な理由で私たちを大広間から追い払った。















・・・・・















「ふ、うふふふふふっ・・・!!

そりゃあ、そうなるわ!

単刀直入に頼むなんて、マミラらしいったら・・・!」



目の前で、キセルを手にした女は

おしとやかな見た目とは裏腹に明るい笑い声を必死に堪えていた。


長い黒髪は忌み子様と同じくらい長いものの

忌み子様のような恐怖心を起こさせる白髪と違い

艷やかで美しい黒髪は若々しい印象を受ける。


琥珀の髪飾りで髪を結っているその女は、ほっそりと痩せていながら

独特の色気があり、妖艶と言わざると得ない。

同じ女である私もついつい目を奪われてしまう。


その美しすぎる女は“特別な眼”を持っていた。


白い顔を彩る

花のような紫と日のような紅の瞳。

2つの瞳はそれぞれ異なる色をしていたのだ。


だが、忌み子様の時だと

どこまでも気味が悪く感じた“眼”でも


その女・・・蝶亡(チョウナ)だと、どこまでも美しく感じた。



「あの子は子供よ?

除け者にされて気分良く感じるわけが無いわ!」


「・・・私たちに除け者にされたと思ったのか!?」


「全く・・・少しくらい、あの子を気遣ってやって頂戴」



蝶亡はパーバションと同じく

この社に住まう住人の一人


彼女の他にも大勢の者たちが居るが・・・

蝶亡はその百にも千にも及ぶ彼らの主だ。

宴好きの暇人連中とは彼らの事。


忌み子様に追い出された私とパーバションは

事態の打開策を求めて、彼女を尋ねたのだった。

恐らくこの社において忌み子様を一番理解しているため

彼女ならどうすれば忌み子様の考えを覆せるか分かるだろうと踏んだ。


紺色の羽織りに赤い紅葉柄の桃色の着物を着た蝶亡は

忌み子様なりの嫌がらせだったと言うが、信じられない。


・・・あの鬼のような人にも子供のような心があったとは。



「じゃあ、一体どうすればハロウィンが出来る?」


「“心がときめかないから、出直せ”

と言ったのなら、まだ望みはあるわ」



パーバションは面倒くさそうに蝶亡の解決策を仰ぐ。

どうやらこの2人、過去に色々あったらしく

因縁があるようだが・・・




「世に言う“ぷれぜんてーしょん”をすれば間違いなし!」



「・・・presentation・・・

発音くらい、ちゃんとしろ」


「・・・英語はまだ覚え途中なのよ」


「・・・・」



何だかんだ2人が仲良しに見えるのは気のせいか?



「要は、忌み子様を除け者にせず

ハロウィンがどういうモノか、説明するんですね?」


「真面目ね、マミラ

ただ説明するんじゃなくて、全力で心を打つのよ!

あの子も言っていたでしょう?

“心がときめかない”って!」


「・・・プレゼンテーション?」


「ぷれぜんてーしょん!」


「presentationだと何度言えば分かる?」


「ぷ、ぷれェ?」


「Rの発音だ、R!」


「・・・無理!」



一応、若々しい見た目とは裏腹に

どうやら私より年上らしい蝶亡に敬語で話してしまうクセは

簡単には抜けない。


度々、敬語なんて私たちの仲で要らないと言われるから

尚さら申し訳ない・・・。







1日の内に出来うる限り

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