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俺の小説の書き方 描写を作る 人物編2

マジで暑いのだが、主に執筆は仕事の休憩時間と、深夜に偏ることが多い。


さあ書くぞ! の意気込みでディスプレイに向かってみるものの、十行もかけないうちに寝落ちすることもある。人間頭を使うと眠くなるのである。


さて、今回も描写を作る、人物編2 をば。


前にも「書き込み」っていう話をしたと思うのだが、こと、小説の世界では不必要な書き込みは削げと、書かれている指南本も多く見える。

しかし、プロの作家の作品を見てると、これいらねぇよ、という記述も多く見受けられる。春樹の「耳たぶの描写」なんかちょっと偏執的で怖くなる。


状態 とは 様態、容姿 誰 どんなもの どんな人

状況 とは 位置、情勢 場所 どのあたり どういう姿勢

情状 とは 実情、事情 思考 どう思う 何を考える


とまあ、このようなものを書き出してみると、これらは描写に当たるということがわかると思う。本来ならばこれらをすべて書ききらなければ読者に画像を想起させることは出来ない、ということを先に述べたのだけど、端折らなければ文がまとまらないというのはもどかしくも現実で、一度の状況説明で全てを語ってしまうと一節が長くなりすぎて、結局その場で大切な、伝えるべき事柄がボケて見えなくなるということが起きる。


たとえば


 北中隆史は靴を脱ぎ椅子の座面に両足を載せ膝を抱え込むように座っている。彼は生来の冷え性で夏でも足先の指が体温よりもずいぶんと低く、若いころからの悩みでもあった。それを初対面の人間は行儀の悪い男だと心中でたしなめるのだが、なにぶん隆史は押しも押されぬ人気作家である、気を悪くされては後の原稿の仕上がりに影響する。

 新人編集者の里香は先輩編集者の槙田浩二からこのような注意を受けていた。それは里香が人の礼儀に対して口うるさい性格であり、人を選ばずついぞその居住まいを正すように口を開いてしまうことにある。その白黒はっきりとした性格のコントラストを表すかのように、切れ長の目をさらに鋭くするとがったアイラインを引き、色白のきめ細かな細面に鮮烈な赤のルージュをのせた里香は戸口の前で一呼吸を置いて、インターホンを押した。


というような一節があると、一体誰の何を説明しているのかがわからなくなる。


だから、これを素因数分解して


北中隆史は冷え性である

北中隆史は売れっ子作家である

北中隆史は気難しい

里香は礼儀にうるさい

里香は頭で考えるよりも口がでてしまう

里香はきつめの顔である


この素数を別の公式に組み込んでみる。


 おきがけにベッド脇の鏡で自身の顔を覗き込んだ里香はひときわ憂鬱な表情になった。今日は売れっ子作家の北中隆史の取材に赴く日だ。里香は北中という作家をあまり好いてはいなかった。最も直接会ったわけではないが、先輩編集者の槙田から聞かされる、冷え性だかなんだかしらないが、彼の礼を欠いた態度はどうしても受け入れがたいと感じていたからである。ましてやその男を「先生」などと呼び媚びへつらわなければいけない編集者などという職業に就いてしまった自分が、今日ばかりは恨めしかった。

 そのような心理も働いてのことである、いつもよりも三ミリ長く上向きにきつめのアイラインを引いて、真っ赤なルージュを選択してしまったのは。母からもたびたび「あんたはきつい顔だから、メイクはほどほどにしておきなさい」と注意を受けるほど、その手の好事家以外には男受けの悪い強気な顔を据えて門柱に埋め込まれた接触の悪いインターホンを指先で捻りこむように押した。


と、この場合「里香」視点の描写で説明している。


さらにこれらを再び別の公式に組みかえると


 浩二は二重靴下をはいた足先の指を両手で握り締めながら、椅子の座面に小さく丸く収まっていた。いつもの姿勢だ。夏でもクーラーはかけない、頭はぼんやりとするほど暑いが、下半身、それも脚の指先は自身でも驚くほど冷たいのだ。時折自分の身体が半分死にかけているような錯覚に陥る。

 それは若いときから変わらず、むしろひどくなってきさえしている。運良く作家という職業を得て肉体労働から解放されたまではよかったが、椅子に座ったまま何時間も動かない生活がこれほどまでに辛いとは考えても見なかった。それに夏場なのにクーラーも効いていない部屋に編集者を招き、打ち合わせをする行為は浩二にとって申し訳なさで一杯であった。誰もが眉をひそめて不快感をあらわにしているのが手に取るように解る。

 特に今目の前にいるどぎついメイクの、いかにも“男には負けたくありません”的な攻撃的オーラを出している女豹のような女編集者は浩二のもっとも不得意とするタイプの女だった。



と、こんな風にして視点を変えるとお話がいくつでも出来ちゃうんだが、結局描写を考えだすと(この例文は景色の描写がほとんどありませんが)多視点で捉えるということを頭の中で一度描いてから、最も効率のいい文章を探り当てる、という作業が必要になる。


蛇足ですが、ロープワークと呼ばれるロープ(紐、縄)の結び方というのは、用を足すだけの結び強度が確保され、かつ解くときは容易に解ける、というのが重要で、解けなければよいというものではない。のだそうです。


なんか今回も長くなりました。また自戒ーぃ

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