俺の小説の書き方 主人公を作る
今からちょうど一年前、プロットというものを知った俺は、ちゃんと設計図を描いてどういった意図をもって物語を作るのかを意識する小説づくりにようやく着手することになる。
同時にいろんな本やサイトを覗いて知識を得てゆくことになるのだが、考えれば考えるほど解らなくなりそうだった。知識で知ってても書いてみなければわからないことは多い。
小説を読んでいるだけではほとんど執筆の勉強にはならない。語彙網は増えるが、肝心の書き方にまで考察を巡らせることはできない。それはプロフェッショナルが巧みであるからに過ぎない。俺はいとも簡単に“一人の読者”に成り下がってしまう。
初期の作品は圧倒的に一人称が多い。これはあらゆるハウツー本でも言われているように、日記調に書けるから初心者にとっては書きやすいのだという。
一人称、例えば最初の作品『センチな君は戦地へむかう』の場合、限りなく自分の感情に近い人間を演じさせた。それゆえ自己矛盾が起こらなかった。では、自分とは違う人格を当てはめるとどうだろうかという作品を作った。
● 自分と同年代で男、彼女との同棲を解消された独身者。
多少なり自分の体験とかぶる部分はあるが、この主人公や登場人物の設定は複数の人間を掛け合わせたもので作った。人から聞いた話を元にあらゆる情報を一度分解して再構成をするといった感じで、ハイブリッドな架空の人物を作り上げた。
その次はもっと自分からかけ離れた存在を主人公にしてみる。
● 二十代前半、女性。盛りを過ぎたがけっぷちグラビアアイドル、芸能界で生き残りをかけて再起を図る
この人物と周辺背景を作るのには苦労した。だいたい芸能界なんて知らねぇし、興味もないから一からその手の本を読みまくったり、いろんなサイトで詳しい人に質問したりして情報を集めた。
しかも主人公が自分とはあまりにかけ離れた女性であるため、当然ながら口調も苦労する。俺は関西出身者で、彼女は東北地方出身の設定。あれ? 方言ってどうなるんだ? 地理的なことも全くわからん。ストリートビューで雰囲気掴んでみたり。SNSのご当地コミュニティに出入りしてみたり。それに女ってこういう考え方するだろうか? とかとか。
● 二十代中盤、派遣雇用を解雇されネカフェ住人となった男。嘘で塗り固めた職歴で我が身を堅持する。
もはや自分とはかけ離れた存在。上記と同じく周辺環境もわからない。帰郷の際に登場する漁港はとりあえず海の近くを通るたびに見学して回った。こういった人物を作ってゆく作業に自分の意思が全く入らないという事は考えにくいが、なるべく意識して自分から離すことでリアリティも出るのかもしれない。
この際映画やテレビなどは一切参考にしない。顔や服装なども頭の中でオリジナルで作る事が多い。というか、もともとあまり影響されない性質なので、夢の中の登場人物も割りとオリジナル製作してしまうことが多い。
● 二十代後半女性とその彼女の過去の姿である、小学六年生の女子
これはええかげん三人称で書けるようになりたいな、と一話ごとに現在と過去を交互に織り交ぜて、現在の彼女を三人称で、過去の彼女を一人称で書くといった手法で物語を交差させてゆくっていう、変にトリッキーなことをしてみたくなって始めた作品。
俺何やってんだろ。
主人公にはある程度思い入れを抱きつつ書き進めていくものだが、物語のあらすじを半分くらい思い浮かべ、あるいは断片的なシーンだけを抽出して主人公の設定をすることが多く、本来NGなプロット作成過程だが、書き進めるうちに人格が出来上がってゆくような感触は割と好きだったりする。
これには人格破綻が起こらないようにたびたび『一話目』を意識しているが、どうしても変えなければいけないときは前に戻って挿話をはさむこともある。
何も決めないでうろうろと行き当たりばったりすることを、ある意味楽しんで入るところもあるのだが、やはり全面改稿しなければいけないときは辛い。