How many lives did you kill?
「あのぉ、チームの会合場所ってここで合ってますかぁ?」と、猫なで声で媚を売るのはカレンである。その服装は昼間のものと異なり、赤いパーカーにホットパンツ、市松模様のタイツにオーバーニーブーツという物だ。ちなみにパーカーの下はだぶついたゆるいタンクトップ一枚である。ちょっと前かがみになればちらりと秘境が――まあ、ブルーベルのようにはいかないものである。
細い脚を組みながら、精いっぱいお色気アピール。脚に自身が無ければオーバーニーブーツをセレクトするのは厳しそうでもあるが、そのタイトなシルエットに反して太股周りは少し緩んでいる。病的、とまではいかないが、少し細すぎる華奢な幼児体型がまぶしい。そしてパーカーがだらしなく垂れ下がっているのは、内側にサバイバルナイフが四本仕込んであるからだが、ぱっと見でその獰猛な狂器の存在に気付くものはいないだろう。と言うか、そもそも持っていても不思議ではないし誰も気にしない。
この街では銃じゃないだけ良心的かもしれないと言う所である。
「俺ら、みなさんのチームに入りたいと思ってんすよ、何て言うか、この街最近刺激足んねえっすよね、もう、世の中ファックっすよね、マジやばいってゆっか」隣のユーリも同様に、黒いパーカーで内側にはブルーストライプのシャツ、首にはシドチェーンをさげ、下は煤けたような色のダメージジーンズにスニーカー。
金縁にブラウンレンズのサングラスが、いやに飄々としている。同じく獰猛なシルバースライドのデトニクス拳銃を、彼はこれ見よがしにジーンズのポケットにぶち込んでいる。ブローディアは出がけに、グロック拳銃の26モデルを手渡したが、ハンマーの無いオートマチックピストルは手持ちが悪いとこれを辞退した。デトニクスはネイキッドの後部座席に何丁か仕込んであるので、それを持って来たのだ。ユーリの趣味らしい。言葉遣いもなんだか相手を舐めているようであるが、応対する受付らしき男も負けず劣らず軽かった。
「あ、そうなんですか。リーダーが来るまで参加者は募集してるんで、まあ中で待っててくださいな、へへへ」
「マジッすかぁ、どうも、お邪魔しますわ~」
しかし二人は一向に動く気配が無い。受付の男はそれを不審に思うでもなく、言葉を続ける。
「――つってもまあ小規模なチームっすから、時間まで人が増えるかどうかってえと微妙なんですけどねえ、ははは。で、二人さんはどういったご関係で」
「そらもちろんファックだべ」カレンが舌を出しながら言い放つ。
「おう、まじでファックだから、やべえから俺ら、昼間っからファッキン」ユーリもカレンを抱きよせ、舌を出しながらウインクを決める。
「そ、そうですかい……まあ来る者は拒まない関係なんで、どうぞお入りになってくださいな」受付の男は、この失礼なお客二人に多少眉をひそませながら、しかし丁寧に応対する。こいつが良心的なのか、それとも全員がこんな似非ジェントルメンぶってるのか、それはまだ解らない。丁寧だが軽い。
「それで受け付けのお兄さん、あんたはチームの偉い人だったりするのかしらん?」
「私ですか、いえいえそんな事は有りませんよ、全然下っ端です」
「……何人殺した?」ユーリの質問に、男の目つきは一瞬変わった。ユーリはそれを見逃さなかったが、気付かぬふりでもするように、瞳はずっと笑っていた。
「いえ、私なんてまだまだ。そう言う話はあとでたっぷりしましょう」
男の言葉に笑みを返すと、ユーリとカレンはバーの扉を開け、その魔窟に足を踏み入れた。扉が閉まる。バーの重い空気が圧縮されるかのように、扉の風圧が二人の背をかすめる。
「……カレン、もうちょっとこう、可愛らしさを売ろうぜ、ファックは無いって」
「えー、何言ってんだユーリ。こんなかわいい子がファックとか言ってるのって、超萌えるんだぜ、じゃぱにーずらいく。ファックオフ」
「もちっと謙虚に行こう、謙虚にしてれば怪しまれない。しっかりしてもらわにゃ」
「それにしても、意外と広い店なのねー」
店内は雑居ビルの地下である。階段を下りた通路の先に、入口の扉が合った。
hips of a pig――それがこの店の名前。日の光が差し込まない地下は、天井の蛍光灯が無機質に照らす、雰囲気は充分だった。雑然とした店内はどこかガレージを思わせる装い、店の中心部に乱雑に並べられたソファーに腰掛けているのは、六人の男女だった。
――こいつらが、快楽殺人サークルkills as suitableのメンバーか。さっきの受付男を含めて七人。まだ会合の開始時刻には間がある。あいつの言った事を真に受けるなら、リーダーもまだ来ていないと言う事らしい。
リーダー、グリス・アイアトン。正体不明の似非サイコキラー野郎。ふらっとこの街に現れたかと思いきや、殺人サークルなんてもんを仕切ってる。昼間っから色んな店で酒を飲むだけの若者。金周りが良いのか、殺したやつからくすねた銭をばらまいているのか、そんなことはどうでもいい。
つまり殺しも単なるファッションに過ぎない。一時の感情に任せて人を殺す集団。集まっては酒の肴に、殺した連中の最期の姿やら、殺害方法やらを論じて笑い騒ぐ、愉快な連中。
だが、トレーシーを手にかけたとあっちゃ、ユーリは黙っていない。仲間の仇はしっかり取らねばならない。こいつらもお仲間とさぞ懇意にしてらっしゃるのだろうが、仲良くみんな月に送ってやれば、寂しくも無いだろう。
誰がトレーシーを殺ったか、それを念入りな手段で持って吐かせるのも良いかもしれないが、それはカレンに任せるとして、とにかくこの中に友人を殺した奴が居るという状況である。
ユーリは冷静に、怒りの炎を焚きつけていた。
今夜は良い月が出ている。丸くは無いのが、丁度良い。
二人は六人の男女に向かって、軽く会釈をした。