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The past oversight

 まあ、まちがいなくぼんくらの集まりに違いない。こそこそ嗅ぎまわっても、面倒くさいだけだ。さっさと終わらせるに越したことは無い、とユーリは思った。

 ヤマカンで乗り込んだ最初の一件目で当てが外れた。その時点で店の連中を皆殺しにしてしまったのは、失敗でも何でもない。

 誰がそれをやったのか、誰も気にしないのはこの街の連中の楽観性だが、もしもサークルの連中が何かに感付くのはまずい。全員始末しておけば、その線で自分たちの存在が洩れる事は無い。安心である。まさか、自分らが殺した人間の復讐で狙われているなど、想像もしていないだろうが。

 一件目で失敗した時点で、ユーリは次にやる事は決めていた。さくっと一網打尽にする算段は付いている。

「それでな、俺もいつまでも探偵ゴッコするつもりはないわけだよ」

「そ~らぁ、ぬっころせぇ~」涎を垂らしながら、ソファに寝そべったカレンが両足をばたつかせる。

「さっきも言っていたな、良い手があると」

「そりゃもう、簡単だ。それを実行する許可を一応もらっておかなくちゃならないってだけで。本当の用事はそれさ。だが……この、酔い潰れたカレンは置いていくしかないだろうな」

 ユーリはカレンの服をまくり、サバイバルナイフのシースを全部取り上げた。

「ふぇえぇえ、なんれらー、あらひもぉ、いくろぉ~……――すぴぃ~、すぴぃ~……むにゃ――」カレンは少し喚いたが、すぐに寝息をたてはじめた。こいつはもうしばらく起きないだろうと思われる。

 ユーリはテーブルにナイフを並べ、手入れを始めた。

「……了解。起きた時に暴れないよう縛っておくかな。それで、何をするつもりだ」

「俺も、その殺人サークルに入る。変な顔するなよ、簡単だろ? ――kills as suitableっつったか。アイアトンが集会に顔を出すかは解らないが、今晩にそれが催されるらしいってのは仕入れて解ってるんだ。ゴロツキがたまってる路地裏掲示板にメモがあってな。この確実な機会を逃さないためにも、中に入るのが一番手っ取り早いだろう」

「……なるほどな。それはそうなんだが。いいのか、そんなぼんくら連中の輪に入って?」

「背に腹は代えられない、と言うか、まあこういう潜入捜査ってのはリスクがつきものさ。確かに俺は別に捜査官の経験は無いけど。武器商人の取引とか、そういうヤバい現場ではそういう奴が居ないか、警戒する側だったから、引き際ってのは心得てる。それに、もしもの時は、皆殺しにすればいい。俺たちの目的はシンプルさ。それにそこまで大人数のサークルって訳じゃあないだろ、殺リサーなんて」

「そうか。んじゃあ、それで頼むよ。必ずアイアトンは血祭りだ」

「当然」

 二人はソファで寝息を立てているカレンを眺めて、ため息をついた。

「トレーシーも酒癖は悪かったよなァ……すぐびーびー泣きやがって、なんだったんだろうなあいつは」

「かと思えばすぐ笑いだしたりな。良い奴だったな、本当に」

「で、気が付いたら突っ伏して寝てるんだよな。あんまり一緒に飲みたい気にはならないが――本当に死んじまったんだな。もっと飲みに付き合ってやりゃ良かったぜ」

「誰だってそう思うさ、居なくなってからな……」

「まあ、俺もいつ、居なくなるか解ったもんじゃないからな。その時もきっちりリベンジ、頼むぜ」

「おい、そう言う冗談はなしだ、嫁さんが泣くぞ。――なあユーリ、やっぱりカレンが起きるまで待って、連れて行った方が良いんじゃないのか? 集会だって今夜なんだろ。お前が一人で仕事をすると良くない事が起きるって、いつも言ってるぞ、カレンは」

「……俺ってそんなに信用ないのか?」

 とぼけては見たが、カレンが何故そう言っているか、ユーリ自身は良く解っている。コンビで行動しているときや、チームでの作戦行動の際には何も問題は無い。

 ただ、独力で仕事をやろうとすると、ユーリはどういう訳だか、かなりの高確率で何かしら見落としが有ったりするのだ。

 それは誰も気付かない、気にしないようなごく些細な問題の時もあるが、作戦の進行を妨げる可能性のあるミスを残したりすることが無いとも限らない。誰かが傍に居るに越したことは無いのである。

 しかし、ユーリ自身は常に細心の注意を払っていた。そんなミスを起こす訳が無いと過信しているのでは決してない。常に冷静だ。しかし、独りにすると良くない事が起きると言うのは、昔からである。大手の軍事会社で働いていた時も、それより以前からもだ。

 今、一人で行こうと考えているユーリは、そもそもの自分の性質について考える事はしないつもりだった。ミスをしないようにと考えるから、ミスをするのだ。心配する事は無い。何気なく、カレンが酔って寝ているのだから一人で行けばいいと思っただけなのである。

「いや、私個人はお前の事は信用しているが、いつもカレンが一緒ってのは、夫婦だからって事以外に、理由あっての事なんだろうとは思っているぞ。二人一組で真価を発揮する――お前らはそういうチームなんだし、一応今回の件は、私がお前たち二人に依頼している事だからな。でも、お前が一人で行きたいと言うなら、それでもいいんだ」と、投げかけられた質問に上司は答えた。しかし、決して一人でできない事ではないのだ。それでも、一人で出来る事も二人でやる。それが、ユーリとカレンの強みでもある。それを違える事をわざわざするまでもないのではないか。

 ユーリの脳裏に、初めて独りで仕事をした時の事が去来する。自分の見落としが原因で、招いた結果。一度失った指の傷が疼く。

 それは自分が今ここにいる、全ての原因でもあった。しかし。

「――悪い事ばかりでもないさ。そうだな、やっぱりカレンが起きるまで待つ事にするわ」

 ユーリは冷静に考えて、その選択肢に決めた。まるで得体の知れない殺人サークルの連中をぼんくら集団と決めてかかって、一人で潜入しようと考えていたのは、単なる油断に他ならない。何が有るか解らないのだから。

「そうか。あと、銃は持っていくか?」

 ユーリは手入れの済ませたナイフをシースに戻し、そのままテーブルに置いた。

「後でいいよ。それより下でお茶でもどうだ?」

「遠慮する。まだ事務仕事が残ってるんでね。ったく、うちのボスはどこほっつき歩いてんだか。トレーシーが殺された事も知らないんじゃないのかしら」

「んん……まあ、戻ってくる前に、落とし前はつけるさ」

 そう言って、ユーリは事務所を後にした。


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