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Target aimed to?

 一拍の間をもおかず、けたたましい騒音が響く。

 そして弾丸はアイアトンをかすめる事も無く、バーの天井の闇に消えた。銃弾を放った坂田の拳銃は、アイアトンの足元へ転がり落ちた。

 引き金を引いた坂田は、ドラムセットを滅茶苦茶にしバスドラムに覆いかぶさるようにして気絶している。

 そして今、アイアトンの目の前に対峙するはカレン。彼女の周囲にはまだ幽かに硝煙が立ち込めていた。それほどの一瞬。

「あ~あ~、やっちまったよおい……」ユーリはデトニクス拳銃のスライドを引きながら一人ごちる。

 アイアトン、カレン、ユーリを除いた全員が凍りついた。

 ユーリが拳銃をぶらつかせていても誰も気にも留めず、何が起こったかまるで把握できていないのだから。

「ふうむ。これは一応、お礼を言った方がいいんでしょうか、リリーナさん?」

 静寂を破ったのはアイアトンだった。

「ふっふ~、いやなぁに、礼には及びませんのよ。別にぃ、あなたを助けるためではないですからぁ。お生憎様ぁ~」

 そう言いながら、カレンはサバイバルナイフを両手で構え、アイアトンの喉元に突き付けている。

「……いまいち状況が飲みこめません。そのナイフを僕に差し向けるなら、なぜ坂田さんが引き金を引く直前に、あなたは彼女を蹴り飛ばしたのです?」

 その答えを知っているのは、ユーリだけである。カレンは坂田を良い奴だと言った。

 であるなら、つまり彼女に復讐なんて真似をさせたくないというカレンの優しさ、それも勿論あるのだろうが、それをこの局面で答えるのは不適切だ。

「んっふふ~もちろん、狙った獲物を横から掠め取られるのは癪だからよん」

「ほう、あなたも――と言う事はそちらの彼もですか」しかし、それを聞いてもアイアトンは顔色一つ変えない。寧ろ――

 ユーリはデトニクスを玩びながら、アイアトンに軽く手を振って見せる。

「お、お前らうちのリーダーにッ」何かを言おうとしたルークは、カレンが投げたナイフを喉元に喰らいその場に斃れ二度と口を開くことは無かった。

「ああ、ほら、動くとそいつみたいにさ、死ぬぞお前ら。大人しくしてろよ?」ユーリは笑顔を残りのサークルメンバーに向ける。

 それだけで、全員が動きを止めた。しかし得物をしまう素振りは見せていない。隙あらば攻めてくる積りだ。全くの腰抜けどもでも無いらしい。

「――僕も有名になったものです。こういう展開は喜ばしい限りですね。坂田さんは姉の復讐が目的だったようですが、あなたたちも誰かの弔い合戦のお積りですか、ユークリッドさん?」

「普通、殺し屋に狙われた、つまりターゲットの遺族は復讐なんて考えない。誰に殺されたかも解らず、誰が依頼したかも解らないからだ。証拠は何も残らない。殺された側の遣る瀬無さや、怒りのやり場なんて、それこそどこにも無い。だから復讐の連鎖なんて起こる訳が無いんだ。それが普通で当たり前。これはプロの仕事だったらの話。でもたまに、これ見よがしにアピールしたがる馬鹿がいる。私がやりましたよ、と。…………でこれが喜ばしい状況? 上手い誇大広告じゃねえか」

「ふふふふふ、あはははっははは、ええ、ええ、しかしね、それでも。――こうして僕に辿り着ける人間が本当に現れるとは、それも二組も。まるで想像していなかった、こんなに楽しい日は初めてですよ、あなたの考えている通り、これは僕が望んてた事です。復讐者が僕を殺しに来る事。最高ですよ」

 辿り着けるようにしていた、というのが本当のところではないか、と思ったがユーリは必要以上の言葉を紡ぐ気を無くした。

「――お前が連れて来た、そこの娘さんの父親が、お前を探してたのもつまりはお前に殺された兄弟の復讐をする気だったからだったな? じゃあ正確には三組だぜ。それは良い、気になってるだろうから教えてやろう、俺たちの事情ってやつをな。……四日前、酔っ払いが一人、生きたまま身体を食い千切られて殺された。お前の手口そっくりそのままだ。しかもご丁寧に、お前らサークルのマークまで残して行きやがって」

 アイアトンは、ユーリの言葉に怪訝な顔をしている。カレンは残りのサークルのメンバーを眺めながら、ナイフを舐めていた。

「それは、……奇妙ですね、確かに彼を殺したのは僕ですが、わざわざサークルのシンボルマークを残すほど、はしゃいではいませんよ?」

「…………何だと?」アイアトンは嘘を吐いている様子は無い。吐いても何の意味も無い嘘だ。既に欲しかった答えも手に入れたが、――奇妙な違和感が残った。

 ユーリは考えた。血と腸で残された、犯人の――

「……まさか、そう言う事か? トレーシー」

 アレは、快楽殺人者のアイアトンが自身を示すため残した物ではない。

 そうではなく、犯人を示すためにトレーシーが遺した、ダイイング・メッセージだった……としたら。

 今にも死ぬって時に、自分の散らかったはらわたと血でメッセージを残して、満足したのか安らかな笑顔で逝った。

「ふ、ははははは、あっはははははは! そうか勘違いしてたのか、俺たちは、くくく、最高だな、この真実ってやつは」

 ユーリは込み上げてくる愉快を堪える事は出来ず、腹を抱えて笑い出した。アイアトンもカレンも不思議そうに眺めている。

「何を笑ってやがんだよォッ」

「今のうちだ!」

 得物を携えていたルヴェンとアルベルトがユーリに襲いかかろうとしたが、動く前にカレンが投げたナイフで二人とも一瞬のうちに息の根を止められ床へと落下した。

「だぁから、大人しくしてろって言ってたじゃん、話はちゃんと聞こうよ、ユーリを怒らせると恐いんだよぉ?」

「うるせえっ」残ったクラークが銃口をカレンに向けた瞬間、至近距離からユーリのデトニクスがその頭を撃ち抜いた。

「ひっ」逃げようとした受付男の背中にも、ユーリは三発の銃弾を撃ち込む。これで残ったのはエミルのみだ。

「おー、あっという間だ。素晴らしい」仲間が殺されていったと言うのにそれを傍観していたアイアトンは拍手をしている。

「さすがゲス野郎なだけあるなぁ」カレンが再びナイフをアイアトンへ突き付ける。

「あ、あぅ……た、助けて……」残ったエミルは、ユーリの足元へ跪いて命乞い。それにユーリは笑顔で返す。

「安心しろ、俺はアイアトンと違って、女性をいたぶる趣味は無いから」

 それを聞いたエミルは、安心したようにその場にへたり込んだ。

「うわぁ、さすがユーリだな。じゃあ、あたしがぶっ殺そうかなぁ」

「よせカレン、お前それラスト一本だろ。ちゃんとアイアトン見とけよ。さもなきゃ使った分を拾っとけ」それを聞いて、カレンは肩をすくめて見せる。

「なるほど、ユーリ、カレン。それがあなた方の本名と言う訳ですか」

「そう言う事だ。あと言い忘れてた。自己紹介ついでで申し訳ないが、確かに俺は女をいたぶる趣味は無いが――」そして静かにデトニクスの銃口が、へたり込んでいるエミルの頭に当てがわれる。

「え?」

「――殺せないとは言って無い」

 間の抜けた言葉を最期に遺し、額を打ち抜かれたエミルは不思議そうな顔をしたままその場に崩れた。

 これで、残りはアイアトン一人。

 デトニクスに残った弾も残り一発。

「さぁ、必要経費だ。綺麗に使い切ろうじゃないか」

「にはは、やっぱりユーリはユーリだな」

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