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フラグ×メンド  作者: 竹中 とと
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04


 月村さんの紹介後、いくつかの連絡事項を受けたあと、三組では学級委員だけを先に決めることになった。

 あまり時間をかけることなく、委員長は竜崎くん、副委員長はなんと月村さんに決定した。彼女曰く、早く学園に馴染みたいからとのこと。学級委員は雑用を任されることがままあるから、別校舎へ行ったり来たりも多い。体で覚えるという意味だろうか。彼女は率先して動くタイプなのかもしれない。

 ……そうだよね、イケメンと恋愛するには活動的でないとダメだよね。

 今日はこれにて終了である。号令のあと、学級委員の二人は早速駆り出されるらしい、天童先生に続いて教室を出ていった。

 先に終わっていたクラスの生徒達の声が絶え間なく廊下を埋める。その中に紛れるように教室の外へ出れば、こちらを認めた歩夢が手を振ってきた。


「そっちの担任誰だった?」

「天童李星先生。現国担当なんだって」

「うあー! オレンジの髪で眼鏡かけた先生でしょ?!」

「知ってるんだ?」

「うん。かっこいい先生だって評判だよ」


 なんと。そんな評判は聞いたことがなかった。


「だって透、他人がいう他人に対する評価って気にしないタイプじゃん。どんなに真実でもさ。自分が接した時に感じたことしか信じないっていうか」

「…………そうなの?」

「いや、自分のことじゃんか」


 ううん、あまり自覚はないが。とりあえずこの話は置いておこう。

 それよりこの後はどうする? と学生らしい話題に転換する。


「まあ私はゲームの続きが気になるので寮に帰りますが」

「なんで違う話振ったの!? そこはどこか遊びに行かないか誘うとこだと思うんだけど!」

「だって、いちいち外出届出すの面倒だし」

「もー、だから寮はマンションタイプにすればよかったんだよ。遊びもゲームも好きな時にできるのにさあ」

「その代わり家事の一切をやらなきゃダメじゃんか。本来ある学生寮だと寮母さんが受け持ってくれるし楽です」

「その代わりお風呂とか寝る時間とか、色々と決まってるのにぃ?」


 いやいや、私のような怠惰な人間にはある程度の規則があった方が助かるのだ。消灯時間になればゲームもできなくなるけど、寝不足にならずに済むし。

 そういえば月村さんは二種類の寮の内、どちらを選んだのだろう? ゲームでは登下校中に出会える人物が違う程度の影響しかなかったが……明日訊いてみようかなあ。

 結局、どうするなどと聞いておきながら私は寮でゲームをすることを取った。歩夢の方は少々不満そうだったが、帰り道の途中で別れる際にはもう気にしていないようだった。元気に「また明日ね!」と去っていく。

 私は寄り道せずに寮へ行く。

 どこか古めかしい印象の建物が見える。周りが木々に囲まれているためか、よりクラシカルに、そこがまたいい感じの、結構お洒落な寮だ。少なくとも私自身が気に入っていることは伝わったと思う。

 玄関にて寮母さんと挨拶を交わして、部屋に直行。相部屋か一人部屋か好きに選べるが、私が決めたのは一人部屋で、なので開けてただいまーなんて言っても何も返ってこない。

 鞄を勉強机に乗せたあと、外したタグをハンガーに掛けたブレザーのポケットへ仕舞い込む。

 それから手洗いの最中、左腕の関節辺りの皮膚が引っ張られる感覚がして、無意識にそこへ手を当たまま部屋へ戻れば、今朝方ぶりのアルの姿がベッドの隅にあった。

 なにやら眉間に皺を寄せ、床の一点を見つめている。いつものぼんやりした空気がない。


「どーしたの、アルフォンス」


 気になって話しかければ、アルは気難しい表情のまま赤い瞳を私に向ける。数秒見つめ合ったのち、ぶんぶん頭を振った。何でもないということだろう。どのみちアルは喋れないので、話を聞き出すことは不可能だ。

 私はなんとなく、彼の隣に座る。

 アルは目を合わせて、一度テレビに繋がれたゲーム機に視線をやってから、再び私を振り返る。やらないのか? と言いたいらしい。


「やるよー。やるけどさー」


 うーん、と唸りながら後ろに倒れ込む。ぼふんっという音が耳を擽る。

 アルフォンスはこちらを見たまま目を離さない。


「……アルはさ。やっぱりこういう時じゃないと、出てくる気にならない?」


 既に何度か口にしていることを、私はまた声にする。問いかけた相手もやはり変わらず、静かに頷いた。私はそっか、とただ呟いた。

 私のアビリティは、アルフォンス自身だ。能力自体が別に意思を持つ、自立型と呼ばれるタイプである。

 だけど私は一度も彼と戦ったことがない。故にアルフォンスがどれ程の力を持つのかも知らないまま、今日まで過ごしている。

 私と二人きりになれる時以外では、アルは決して出てこない。こちらがどれだけ呼び掛けても、どれだけ意識を向けても、私以外の人間がその場にいては、アルは絶対に応えない。その理由を聞こうにも、アルが言葉を伝える術はないのだ。

 これを学園側には能力が制御できていない・使用できていないみなされ、私は“ディスアビリティ”という判定を受けている。通称D判定というそれは、私自身はいいのだけど、まるでアルフォンスが役立たずだと言われているみたいで少し悔しい。

 でも、アルにはアルの意思がある。喋れない、手も動かせない相手に対して無理矢理にでも言うことを聞かせるのは、ちょっとどうなのと思うわけで。時折ああやって問いはすれど、それ以上は踏み込まなかった。

 今回もここまでだ。ベッドから身を起こして、私はゲームの続きに取りかかる。

 ――さて、一時だけの現実逃避といきますか。



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