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走って、走って、走って。
もうどのくらい走っただろうか。
前足の付け根、矢が突き刺さっている部分の感覚もなくなってきた。
人里からこの森まで走ってきた四本の足も、痺れて使いものにならない。
「…もう終わりか。」
獣は微かに笑いながら呟いた。
刺さった毒矢は、刻々とこの獣の体力を奪っていく。
獣は木の幹に重くなりこれ以上動けない体を横たえ、静かに目を瞑った。
「くそっ…どこだ!必ず見つけ出せ!」
「あンの化けもん、いったいどこへ行きやがった!見つけ出したらただじゃおかねぇ。」
複数の足音が遠ざかり、ふたたび森が静寂に包まれる。
ようやくこの世界ともさらばだ。
獣は静かに意識を手放した。