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第1話:始まりの鐘(4)

【SIDE:川井遥】




高校生生活初日


特に変わったことは無かった。


普通に入学式を終えて、ホームルームを受けた。


その後は迎えの車に乗って家に帰る。



中学の時とほとんど変わりはしない。


こういう生活がまた3年間続くだけ。


その後は2年間の留学をして、お父様に通訳の職に就くためのレールを敷いてもらう。



そしてある程度働けば、お父様の決めた方と結婚して、専業主婦になり子供を産んで何一つ不自由無い生活を送る。



それが私の人生。



不満は無い。

安定した生活と幸せな家庭が手に入るのだから。



よく人は愛があればお金は必要無いと言うが、私はそうは思わない。

お金があってこそそこに平和な日々が生まれ、愛が産まれると私は考えている。


私は今まで人を深く愛したことが無い。

というより人とあまり仲良くなることが無かった。



昔仲の良かった友達はいたがその子は父親の転勤によりアメリカへと引越ししてしまった。



その時は寂しくて悲しくてやりきれずに泣いたの覚えている。




それからと言うものの、人と深く関わることをあまりしなくなった。


そのまま自分のやりたい放題しながら生きてきたから、私はひねくれた性格に育ってしまった。


だから中学の時も周りの人は私を嫌っていたと思う。


自分でも嫌な性格だと思う。




はぁ…

高校ではもっとましな人間になりたいなぁ…




そんな事を考えながら遥は眠りについた。



そして高校生生活2日目。



私こと川井遥はある問題を抱えていた…



筆箱忘れちゃった。

どうしよう…



クラスに知り合いはいないし、いきなり借りるのも馴れ馴れしいと思われそうだなぁ…




そんなことを考えていると前の席の子が不思議そうな顔をして私を見ていた。




「な、何かしら?」


よく見るととても可愛い顔立ちをしている。


自然に茶色がかった髪をウェーブさせ、くりくりとした大きな目に、少し尖らせたような口をしている彼女はどことなく小動物を思わせる。


「いやー、何か困ってない?困ってるよね?どうしたの?」


「えっ、どうして!?」



「何かそういう顔してたよ。」



そんな顔してたのかしら?

でもこれは借りるチャンスだわ。



「ちょっと筆箱を忘れてしまって…

良かったら貸して下さらない?」



「あはは、おっちょこちょいさんなんだー。もちろんいいよ!私もよく忘れちゃうんだ。」



そう言って彼女は自分の筆箱からシャーペンやボールペンなどを取り出して私に渡してくれた。



「ありがとうございます。あっ、申し遅れました。私は川井遥と言います。」



「私は小椋薫だよ。薫でいいからね!」



「じゃ、じゃあ私のことも遥と呼んで下さいます?」



「いいよー!でも敬語禁止!敬語だと壁感じちゃうよ。ねっ遥。」



「わかりま…わかったわ。よろしくね薫。」



「うん。よろしく!遥って綺麗な髪してるよね。黒くてつやつやしてる…手入れとかしてるの?」



私はよく日本人形みたいな髪だと言われる。

手入れも毎日お手伝いの人にさせている。


でも…

そんなこと言ったら薫に距離を置かれてしまうのではないか…


そう考えた私は特に何もしていないと答えた。



「いいなぁ…特に何もしてないのにそんな綺麗な髪して…

私何て毎日朝は鏡の前で格闘してるよ…

雨の日とかは特にね…」




その後も何気ない話を繰り返した。

私はこういう会話を久しくしていなかったので、少し変なことを言ってしまったかもしれない。


でも薫はずっと私の話を聞いてくれて、とても居心地が良かった。




「そういえば遥は部活とか入らないの?今日から1週間見学期間だけど…」



部活か…

私には無理だろうな…

私は周りに合わせることが下手だから、きっと浮いてしまう。

薫みたいな人ばっかりの部活だったらいいけど…



「私は何も考えてないよ。薫はどうするの?」



「私は野球部に入る予定なんだ。」



野球部?

野球ってボールを投げたり打ったりするあの野球?

女の子なのに?



「あっ、もちろんマネージャーとしてだよ。」



なるほどそういうことか。



「でもどうして野球部に?好きなの?」



「いや…あのー…ね、」



うん?

まずいことを聞いてしまったのだろうか。

薫は自分の髪の先を指でくるくると巻きながら、顔を少し赤らめている。



「あのね!私の好きな人が野球部に入るんだ。だからマネージャーとしてその人を支えたい…というか…なんというか…ね…」



(可愛いな…この子はなんでこんなに素直なんだろう…自分の気持ちに正直で、私にはきっとできないな…)



「ねぇ遥は野球に興味ないの?良かったら一緒にしない?」



「えっ、でも私にマネージャーなんてできないと思うよ?」



私は人が頑張ってるのを純粋な気持ちで応援できるのか?

そう考えると自信が無かった。


でも薫もいるなら…

自分を変える良い機会かもしれない。



「でも…ちょっと考えてみるわ。」



その時1時間目のチャイムがなった。





部活か…

どうしよう…






学校でノロウイルスが流行り始めました…


心なしかお腹が痛い気が…




手洗いうがいを徹底しないといけませんね…



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