第1話:始まりの鐘(2)
【SIDE:花岡英一】
入学式をむかえた日、ある人物を見て俺は驚いた。
その時は名前も知らなかった。
最初に見たのは小学生の時、俺が所属していたチームは県大会常連の強豪だった。
その年も県大会は堅いと言われ、そして順調に決勝まで勝ち進んだ。
俺はエースにはなれず3番手のピッチャーだったから決勝には投げられなかった。
そしてその決勝の相手にその男はいた。
小学生とは思えない体格と威圧感があって、初めは誰かの兄だと思っていた。
そして試合が始まると、そいつは俺のチームのエースからホームランを放つなど大活躍を見せた。
結局俺のチームは負け、県大会には出られなかった。
その時から俺はずっとそいつを見ていた。
中学に上がるとそいつは県内の強豪クラブに入り、レギュラーとして活躍したことも聞いた。
俺はエースになりたかったから、クラブチームには入らず中学の野球部に入部した。
だから試合することも無いと思っていた…
しかしある時、俺にチャンスが訪れた。
あるクラブチームの2軍との練習試合が入ったのだ。
そしてその試合にその男はいた。
なぜ?
俺はそう思った。
しかしそれ以上に戦えるのだという気持ちが沸いた。
結果は4打数3安打1HR1三振
最後の打席に三振を奪い一矢報いることはできたが、惨敗だった。
なぜ2軍の試合に出ていたのか。
その後分かったが、骨折が治ったばかりだったという。
自分は怪我明けの本調子ではないやつに負けたのか。
そう思うと正直ショックだった。
しかしそれと同時にいつかリベンジしたいという気持ちも生まれた。
俺の中にある、名前も知らない人間に対してのライバル心はさらに燃え上がったのだった。
そして入学式ーーーーーーーーー
まさかと思った。
きっと名門高校に進んだと思っていたのだ。
「…春見…優……」
やっと分かったその名前
身長も180cmを超えた春見優はさらに威圧感を増していた。
なぜ晴祥に来たのか?
それが知りたかった、だから俺は春見優に始めて話しかけた。
ーーーーーーーーーーー
「これが俺がお前のことを知ってる理由。お前、俺のこと覚えてないだろ?あっ、お前のこと優って呼んでいい?んで優はなんで晴祥に来たんだ?」
「順番に、覚えてない。勝手にしろ。ある人を追って。」
「うほ、女か?」
こんな野球バカみたいなやつでもやっぱり男の子なんだと思い、何だか親近感が沸いた。
「ちげーよ、性別は男」
………前言撤回、ボーイズラブ?
いや、そのやっぱりそういう恋愛感情にも理解は必要なのかな…?
うーん、でもな…
「お前何か変なこと考えてんだろ?だったらちげーぞ」
俺がそんなことを考えていると、優はわずかに笑みを浮かべながらそう言った。
何か恐いな…
あんなこと聞いた後じゃ…
「俺が追ってきたのは男だけど、そっちの意味じゃない。」
オカマポーズをとりながら優はそう言った。
やばい、もうそうとしか見えない…
「じ、じゃあ、どういう意味だよ…?」
「ひでが俺を知っていたように俺もそいつを知っていたんだよ。確かに推薦で来てくれって何校かに言われたけど、俺はどうしてもそいつの球を受けたかった。だから俺はそいつがどこに進学するか調べて…まぁ後は言わなくても分かるよな?」
「あぁ…
何だか悔しいな。」
優は不思議そうな顔をした。
「だってよ、俺は小学生の時からお前をライバルと思ってやってきたのにさ、お前は俺のこと覚えてなくて、しかも別のやつを追って来たなんて言われたらさ…」
「…お前が大したことないからだろ?」
「お前バッサリ言うな…
ん?でもそいつは?どこにいんだよ?」
そう言うと優は指差した。
その先にいるのは…
「俺?」
「違う。ひでの前。」
優が指差した方を見ると、いかにもモテそうな、いかした野郎が、いかした格好で本を読んでいた。
確かあいつは…野村?
でも坊主じゃ無いよな?
長髪っていう訳でもないけど…
とりあえず話しかけてみるか…
「なぁ、野村?」
すると野村は読んでいた本から目を離し…って離さない!
ガン無視!?
「お~い、野村、野村!」
すると野村は今度こそ本から目を離し、こちらを向いた。
「…何だお前?」
「なぁ野村も野球部なんだろ?」
「だったらなに?」
うわぁ、そこまでめんどくさそうにしなくてもよくないか?
何か悲しいんだけど…
「いや、俺らも野球部だからさ…
よろしくな」
すると野村は俺達の顔を見比べるように見た。
「そうか…野球部か…
ならよろしくな」
あれっ?
だから何って聞かれるかと思ったんだけどな?
ちょっと興味が沸いたのかな…?
「なぁ野村」
そんなふうに考えていると、これまで黙っていた優が口を開いた。
うーん、なかなか思ったようには進みませんね…
男キャラしか出てないよ(泣)