つなぐ
「おはよう」
「おはようございます、先輩」
会社に着くと、隣のデスクに座る後輩が花も咲き誇らんばかりの笑顔で迎えてくれた。
他のデスクの主はまだ出勤していない。
定時の一時間前、いつもの風景だ。
「もういいんですか?」
「ええと…昨日、実家に行ったの」
「はい。そんなことだろうと思っていました」
これには苦笑するしかない。
彼は結果を急がず、私から話すのを待っているようだ。
「皆、もの凄く戸惑ってた。健様は帰られていたし、お母様はボケッとしてらして拍子抜けだった。お父様は帰られなかったけど、伝言は残してきた」
その成果に安心したのか、釘宮君は微笑を増した。
「何歩も前進しましたね」
「まだまだ」
埋めなくてはいけない距離はまだまだある。
それをすぐに解決する事は出来ないだろう。
時間はかかるが、できない事ではないと解った。
「私ね、この町が好きなの」
唐突だったかもしれない。
それでも、今は正直に、本当に思ったことを言いたいと思った。
「毎日のようにドンチャン騒いで、温かくて。やっただけの成果を認めてくれる…だから、ねぇ釘宮君」
今は本当に、心から微笑む事が出来る。
「私、後悔なんてしてないよ」
一度は「逃げ」としてここにいることを選んでしまったけれど。
「幸せだから」
信頼できる人がいて、思いやれる余裕が出来て。
「皆に、釘宮君に会えてよかった」
心の底から、そう思える。
「ありがとう」
すべてを受け入れることは出来ないかもしれない。
拒絶したり、されたりするかもしれない。
どんなに恐れようと、拒もうと
変化の可能性を秘めた、明日は来る
涙に濡れようと
酒におぼれようと
世界は決して助けてはくれない
覚悟のある者だけに成果は訪れ
思いやることの出来る者だけに人は集う
優しさと残酷さをあわせ持つ世界は
今日も私たちに問いかける
覚悟は良いか?
完結です。
伏線についてはほかの作品で回収する…かもしれません。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




