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こころ
「あんたなんか生まれなければ良かったのよ!」
血走った目の母は、鬼のような形相で私に言った。
いつもの事ながら、それでも恐怖はぬぐえない。
怖くて怖くて、足がすくむ。
逃げる事すら叶わない私に、母は消えろと叫んで近くにあるものを投げつける。幾つかのものは私に当たって、傷や痣となってその痕跡を残す。
どんなに与えられても、その痛みに慣れる事はない。
身も、心も。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
生まれてきてごめんなさい。
良い子にするから。
言う事をちゃんときくから。
勉強も、運動も、誰にも負けないから。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ここにいることを許して。
愛なんて望まないから。
独りにしないで。
涙はこんなにも熱いのに、私はこんなにも冷たい。
冷たくて、冷たくて、凍えてしまう。
真っ暗な部屋に横たわる絶望、孤独、恐怖。
家を出ても、その空間は同じだった。
逃げ続けても、どこまでもついてくるものだと知っていた。
それでも、私は決着を着けるのが恐ろしかったのだ。




