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めくるめく捲る―2

 僕の家から高校までは近くの別府駅から二つ駅を跨いだ三つ目の田慈宮駅にある。交通の便が最悪ではない所が今の家の一つの救いだ。寧ろ、三つなら良いほうなのかもしれない。僕は交通の利便性を考えてあの家に住んだわけではないのだから。

 周りは家が軒並み建ち並んでいる。ここは山を削り取って造られた住宅街なのだから至極当然ではあるのだが、振り返ればその中で明らかに浮いているおんぼろアパートの破滅的な姿が見えて、とても目立っていた。悪い意味で。

 本当はあの場所も住宅地になる予定だったのだそうだ。けれど、管理人でもある土地所有者の冴葉さんが頑なに突っぱねているらしい。理由は知らないが深い想い出でもあるのかもしれない。


「おーいっ!」


 と、大きな声を朝っぱらから近所迷惑宜しく張り上げて駆けてきた少女。


「おはよー! 大地」

「おはよう、宮杜」


 淡い茶髪のショートカットに笑顔満点の朝からうるさいこの少女は、同校同年同級の、元気印が印象深い宮杜桜(みやもりさくら)だ。彼女に元気のない日があるとすれば法律で元気が罪と決められた時ではないだろうか。家族が死んでも良い意味で直ぐに元気を取り戻しそうな子だ。と僕が思うのは些か自虐的である気もするが。

 左に並んで一緒に登校。帰り道で話しかけられた入学式の日からずっと、登校を一緒にしている。


「今日もいい天気だね! 心が愉快凛々だよ!」


 愉快凛々なんて四文字熟語は聞いたことがない。まあ、彼女はいつもこうやって自作言葉を使うのだ。意味が解るから問題はない為、あえてつっこみはしない。


「宮杜なら雨の日でも愉快凛々なんじゃないか?」


 宮杜の言葉を真似て小馬鹿にしてみる。


「違うよー。雨の日は雨にも負けないぞーって奮起爛々なんだよ!」


 宮杜らしいな、と頬を綻ばせる。


「それなら、曇りの日はどうだ? 憂鬱じゃないか?」

「曇りの日だって負けたりしないよっ。奮起爛々!」

「な、なら台風の日はどうだ?」

「荒れ狂う風に負けるものかーって奮起爛々倍々だね!」


 僕は六文字熟語を産まれて初めて耳にした。


「……雪の日は?」

「雪の日は大遊びの日じゃんっ。楽天霹靂だね!」


 晴天霹靂と掛けているようだ。瞳を無邪気に輝かせているのだし喜楽の意味が特化しているのだとは想像つくけれど。でも、意味合い的にはそれって楽しい時を破る事故だよな。


「宮杜には嫌いな天気の日がないのか?」


 と尋ねると、宮杜は顔を真っ青にして肩を震わせる。


「雷は嫌いなんだよぉ。というか恐いんだぁ。恐怖津々だよぉ」


 良かった。宮杜にも苦手とする日があるのだな。年中無休で元気な人間がいるというのは少し恐い気もする。


「だからそういう日は音楽をヘッドフォンで爆音だね! 音さえ聞こえなければ愉快凛々っ!」


 結局年中無休かよ。絶句しつつも「底なしだな」

 と呟くと「ふぇ?」と小動物のような返事が返ってきた。


「いや、なんでもない」


 静かにしていれば明るく元気な可愛い少女で通るだろうに、彼女はいつだって喋る笑う叫ぶ笑うの四拍子であり、騒々しい女の子という見解が妥当なのだろう。


「そうそう、あのね、大地、お願いがあるのです」


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