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不可思議な道―1

 翌日。四日目の五月一日。ゴールデンウィークも近づいてきて休みの日はどう時間を潰そうかと考えていた。朝なのにそんな余裕があったのは早起きをしたという事実があるからだ。ただそれだけのこと。

 ああ、でもよく考えたらゴールデンウィークの四連休の内の三日は夕方からバイトだ。一日は宿題を片付けないといけないから休めとかなたさんが言ってくれた為に何もない。どうせ宿題はバイトまでの暇な時間で片付けてしまいそうだ。となるとやはり一日がぽっかりと空く。

 考えていて、僕は天変地異にでもあったかのような錯覚を受けた。


「そうだ……咲と遊んだらいいんだよ」


 僕はまだ咲と遊んだことがない。宮杜とも遊んだことがない。というより、家族がいなくなってから友達が離れてしまっていた為、友達と遊んですらいない。だから、その考えに及ぶことが無かった。

 咲に用事があったらお終いな話だが聞いてみるのも悪くないだろう。

 そんな近日の予定を立てている間に登校時間は迫っていた。制服も着ているし今日は昨日の内に高校に行く準備も済ませてある。視界に何かが引っ掛かる。机の上に数学の教科書が出ていた。昨日鞄の中にしまおうと考えて忘れていたのだろうか?首を傾げながらも僕は教科書を鞄にしまった。

 机の上の写真立てを一目見て「行ってきます」と声をかけた。きっと、天国とやらがあるなら「行ってらっしゃい」と返事をしてくれているものだと思う。父さんも母さんも、そして姉さんも、優しくて素晴らしい人達だから。


「あれ?」


 二つある時計の内の一つ、鳥の方の時計が止まっていた。三日前に電池を入れ替えたばかりなのに、もうだ。どうせ入れ替えた電池が古くて放電でもしていたのだろう。

 新しいに電池にまた換えて、僕は学校に向かった。



「おーいっ!」


 毎朝の如く元気の溢れた宮杜が大きな声をあげながら駆けてきた。

 僕の前に回りこんでにこりと一つ笑みを零す陽気な娘。


「おはよー! 大地」

「おはよう、宮杜。今日も元気一杯だな」


 僕の言葉を受けて宮杜が天を指差す。


「そりゃーこんないい天気だもん! 心が愉快凛々にもなるよ!」


 釣られて僕は空を仰いだ。うん、確かに快晴で曇り空のない素敵な日和だ。


「本当にいい天気だな」


 宮杜に目線を戻して伝えると、宮杜は共感されたことが余程嬉しかったのか「うんうん、そうでしょそうでしょ」とご満悦だ。僕が足を進めると宮杜が左側に並んで歩き始めた。余裕はあるけれどいつまでも立ち止まっている訳には行かない。目的は登校なのだし。


「お、そういえば宮杜。五月五日は予定あるか?」

「こどもの日―? うーんと、ねー……確かー、無いよ?」

「そんなに考え込まなきゃいけない程忙しいのかよ」


 少し皮肉めいた言葉を言ってみる。


「私は大地みたいに暇人じゃあないのですよ」


 口の前で人差し指を振り子のように振ってリズムに合わせて舌を鳴らす宮杜。完全に馬鹿にされているよううだ。


「私の予定は基本的に二週間先までは埋まっているからねー。ってあれ? あれれ? 今の流れはもしかしてもしかしなくても、デートのお誘いー!?」


 どうやら宮杜は早速暴走気味のようだ。きらきらと純真無垢な瞳を輝かせている。


「デートの誘いじゃねえよ。咲も誘うつもりだし」

「なーんだ」


 小石も無いのに宮杜は小石を蹴飛ばしたかのような動作をする。


「ま、それでもいっか。いいよいいよ、皆でわいわいしましょーう」


 皆、と言われて天海さんも誘おうかと思いつく。個人的に天海さんと咲が恋人になってくれればなんだか嬉しい訳だし。大きなお節介なのだろうけど、咲は放っておくとどこぞの悪女に騙されかけない。まあ、悪女も咲にかかれば絆されてしまって更正して本気で咲に惚れてしまいそうな気もするけれど。あんなに真剣に信じられては悪女もいちころだろう。


「そうそう、あのね、大地、お願いがあるのです」


 毎度お馴染みの台詞を聞かせてわざとらしく溜息を吐いた。この溜息の内の八割は真剣に溜息なのだけど。


「また宿題を忘れたのか?」

「うにゃはは、そうなんだよねー」

「ちょっとは自分でやろうと思わないのか?」

「大地、そういう姿勢はいくない。まるで先生みたいだよ!」


 関係性を指摘されてしまった。要するに先生のように接すれば宮杜が僕を嫌う、又は勉強をする気がもっとなくなるということだろうか? 完全無欠で子供の言い訳じゃないか。しかも、認識してる分性質が悪い。

 まあ、僕もまだ真剣に宮杜の勉強問題に関わっていないのがいけないのだ。やると決めた以上やらなければいけない。なにより、放っておけない。この無邪気で純粋で無垢で陽気な子供を放っておくことなんて出来やしない。今回は止めておこう。五月五日は勉強会をしてもいいかもしれない。中間テストも近づいていることだし。


「それで、今回は何を忘れたんだ?」

「そりゃ勿論、数学ですよ!」

「……は?」

「だから、数学。私苦手なんだよねー。あの理論尽くしの考え方」

「じゃなくて、数学の宿題?」

「え? うん。あったじゃんかー。なに、まさか大地、忘れてたの?」


 嘘だ、まさか、本当に? 昨日眠る前に確認した時は数学の宿題なんて無かった筈だ。確かに数学の授業はあるのだけど……。


「うん、忘れたみたいだ。ごめんな?」


 実際僕が宮杜に謝る必要はない。ただ、混乱しているせいかつい謝ってしまった。


「謝られる意味がわかんないよ、大地」

「ん、ああ、そうだな」


 寝惚けている訳でもないのに目を擦った。視界が揺れたような奇妙な錯覚を覚えた。焦点の合った視界には別府駅に登校、出勤を理由に集まった人々が見えている。



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