異世界無双 田中くん
「異世界を救ってほしいのです」
なぜか目の前に女神がいた。
「ああ。いいぜ」
ちょっとムカつく顔をした高校生・田中は、学ランのポケットに手を突っ込んだまま、光の中に消えた。
最初の街。
「おい、ガキ。金置いてけよ」
チンピラ三人に囲まれた。
だが、次の瞬間にはチンピラたちが地面にめり込んでいた。どうやったかは誰も見ていない。
道中。
巨大な魔獣が咆哮を上げ、田中を飲み込もうとする。
が、瞬きをした瞬間に魔獣は細切れの肉片に変わっていた。田中の手には何も持っていない。
「魔王を一緒に倒してほしい。俺たちの国を救ってくれ!」
現地の勇者が泣きながら縋り付く。だが、田中は鼻で笑った。
「俺一人で十分だ。足手まといなんだよ」
どこから来るのか不明な自信を背負い、田中は荒野を独り歩む。
村での出会い。
「田中様、行かないで……!」
「悪いな。お前に構っているほど暇じゃないんだ。」
リーザの手を振りほどき田中は歩き出す。
「田中、お前だけは許さねえ……!」
異世界で唯一心を許した親友、ザンパンが剣を抜く。
いつからの付き合いか、なぜ裏切ったのか、全ては闇の中だ。
「……さらばだ、ザンパン。楽しかったぜ。」
理由はわからないが、確かにそう思った。
田中は自らの手で、唯一の戦友を屠った。
巨大竜、四天王。
伝説級の強敵たちが次々と田中の前に立ち塞がる。
だが、田中は無傷だった。返り血一つ浴びることなく、魔王の心臓を貫いた。
その「力」の正体は、女神にも、魔王にも、そして作者にさえも分からない。
王城への凱旋。
沿道の民衆が歓声を上げる中、田中は豪華な馬車で足を組み、相変わらずちょっとムカつく顔で窓の外を眺めていた。
すると、再び光が溢れる。
「あなたの力を必要としている異世界が、まだまだあります」
再び現れた女神の言葉に、田中は深く溜息をついた。
「ふぅ……。やれやれだぜ」
再び光が田中を包み込む。
ちょっとムカつく顔の田中の異世界無双は終わらない。
**(終)**




