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【1−5】アートーレーちゃーん!

 冒険者の登録が済んだアトレは悩んでいた。今日はどこに泊まるか、それとも街を出て先に進むか。

 頭を抱え込み悩んでいると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「アートーレーちゃーん!」

 後ろから何者かが走ってくる音が聞こえたが、振り返る余地もなく、何か重い物が背中にのしかかった。同時に、甘く優しい香りがアトレの鼻をくすぐった。

「アトレちゃん! 久しぶり! どこかお出かけ?」

「え!? ラビナ?」

 声の主はラビナだった。可愛らしいふわふわの服に、チェックの長いスカートを履いていた。そして元気に答える。

「そうだよ!」

「ちょっと重いって」

ラビナは背中から離れ、前に回り込んだ。

「ごめんごめん、久しぶりだったからつい。バルさんもこんにちは」

「ラビナ様こんにちは。今日はどうされたのですか」

「街に買い物をしにきたら、たまたま会って。それでアトレちゃん、今はお出かけ中?」

「ううん、これから街を離れようと思っているの」

「退学したのって本当だったんだ……」

 寂しそうな顔をして呟いた。

「私、これから旅に出るの。ついさっきね、冒険者登録をしてきたところ」

「そっか、本当に街から離れちゃうんだ。ねえ、この後時間ある? 一緒に買い物に行こうよ」

「私はいいけど、じいやはどうするの?」

「わたくしは色々必要なものを揃えてきますので、お二人で楽しんでいらしてください。後でこの広場で落ち合いましょう」

「いいんですか? やったー! アトレちゃん、早く行こ!」

「ちょっと引っ張らないでってば〜!」

そう言い放つと、ラビナはアトレの腕を掴んで離れていった。


「アトレちゃんと二人で遊ぶの、初めてかもね」

 ラビナが嬉しそうに笑顔で話す。

 アトレはお家柄あまり外出が許されていなかった。それに、許されていたとしても、勉強や家内の行事が忙しくて遊ぶ暇なんかなかった。

 学校帰りとかに誘ってくれることもあったが、全て断ってしまっていて二人だけで過ごす時間は限られていた。だから、付き合いが長い二人でもこうした経験は初めてだった。

 それに幸福を感じているのはラビナだけではない。

 アトレもラビナに負けないくらい嬉しかった。

「そうだね! でも、これが最初で最後になると思うとなんか寂しいな」

「そんなこと言わないの! デートは今から始まったばかりなんだから!」

 少ししょんぼりしたアトレとは対照に、ラビナは元気で明るい。きっと、アトレを楽しませるためにいつもより明朗快活としているのだろう。

 そんなラビナを見ると、いつもアトレは元気が出る。

「あっ見て見て! あそこの服屋に新作が売ってる!」

 ラビナはいつも唐突だ。今もそう。

 アトレに話しかけたと思ったら服屋に入ってしまった。

 アトレは困ったなぁと思いつつ、ラビナの後を追いかけるように早足で服屋に入った。

「服ってこんな風に売っているんだ……」

 沢山の服がハンガーにかけられ飾られながら売られている服屋を見て驚く。

 アトレの服は、エマニュエリ家御用達の仕立て屋が採寸、服の仕立てをしてくれるので、こんな光景は見たことなかった。

 アトレから見れば、普通の服屋でも投げ売りされているようにしか見えない。

 興味深く見ていると、ラビナが何やら服を二、三着持って来て走ってきた。


「見て見て、アトレちゃんに似合いそうな服見つけたよっ」


 そう言って、器用に服を両手で持ってアトレに見せた。

 ラビナの持って来ていた服はどれもワンピースばかりだ。アトレのイメージといったら、ワンピースの似合う美しい少女なのだろう。

 アトレ自身、ワンピースばかり着ているが特別好きで着ている訳ではなかった。ただ上下を考えて着るより、何も考えず着れるので楽だからだ。

「この服いいかも。胸のリボンが可愛いね。採寸とかってどこでするの?」

「さいすん? サイズのことかな。それならここに書いてあるでしょ。アトレちゃんは確かバストが七十……」

「なんで知ってるの?!」

 咄嗟にラビナの口を手で押さえて静止させた。ラビナは何かモゴモゴ言っているようだったが、ずっと押さえつけて無視した。

「……なんか恥ずかしいから買うよ、この服」

「やった! 嬉しい!」

 別にラビナの店ではないのだが何が嬉しいのか。それは置いておいて、ラビナは服を何着も買っていた。

 アトレは、自分はあまり着こなしのセンスが無いからな、と思いつつラビナの大量の衣服が入った袋を見ながら二人は店を出た。

 それから、二人はさっきと同じように服屋巡りをした。

 殆ど、ラビナが好きな物や服ばかりだが、アトレはそれでも楽しかった。

 二人だけの時間、いつもより楽しそうなラビナ。アトレも自分自身がいつもより楽しい一時を過ごしている自信があった。


 そうして、過ごしているうちにすっかり日が沈んできていた。

 アトレとラビナは、そこら辺のお店で買ったソフトクリームをベンチに座って食べていた。

「アトレちゃん、今日はありがとう。わたしの買い物に付き合ってくれて」

「こちらこそ、最後に楽しい思い出ができたよ」

「ねえねえアトレちゃん、最後にわたしから何か贈らせて。親友からのお守りってやつだよ」

 ラビナは奥のアクセサリーの露店を指差した。そして食べ終わると、強引にアトレを連れて行った。

「ほら、好きなの選んで!」

 腕輪からネックレス、いろんなアクセサリーが木のテーブルに置いてある。どれも高そうな物ばかりで、中には宝石が装飾されているものまで。

 じっくり悩んだのち一つ選んだ。

「じゃあこのピアスでいい?」

 選んだのは小さな白い宝石が輝く銀色のピアス。パッと見ただけでも高そうなのが分かる。

「さすがお嬢様、お目が高い……すいません、このピアスください!」

「お嬢ちゃん、良い目してるね。このピアスは金剛石を使っているんだ。あまり生産できないから高く付くよ。銀貨五枚と銅貨八枚でどうだ」

 店主の男はそう言うと、ラビナは財布の中を眺めながらお金を渡した。

「まいどあり!」

 ラビナは買ったピアスを手にして、さっきまで座っていたベンチに戻る。

「ねぇラビナ、もしかして高かった? 全部出すよ」

「ダメ! これはわたしからのプレゼントなんだから」

ラビナはピアスを差し出した。暗いながらもラビナの白い手に乗ったピアスの宝石は、沈みゆく太陽の光を四方八方に拡散させて輝いている。アトレはそのピアスを受け取り、耳に重なる髪を避けると、早速自分の柔らかい耳につけた。

「ありがとうラビナ。このピアスは死んでも離さないから」

「そんな縁起の悪いこと言わないで。ほら早くバルさんのところに戻ろう。きっと待ちくたびれてるよ」


 暗くなった街に明かりが灯る。夏だったもので、まだ蒸し暑かった。広場まで戻る途中アトレは大事なことを思い出した。

「どうしよう! 今日の泊まるところまだ決まってない!」

 慌てふためくアトレにラビナは一つ提案をした。

「なら、うちに泊まってく? アトレちゃんまだうちに来たことないでしょ」

「いいの?」

「いいのいいの。ママには何も言ってないけど。今日はアトレちゃんとお泊まり会だ!」

 ラビナは嬉しそうにぴょんぴょんとスキップをした。広場で暇そうに座っていたバルに話すと了承をもらい、三人はラビナの家へ向かった。


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