【1−3】<翠煌の魔女>
アトレは階段を降り、両親に話を持ちかける。
久しぶりに戻った自宅の一階はすごく広かった。
だけどちょうど、両親が居たため探す手間が省けた。
「お、お父様、お母様、少しお話があるので聞いていただけませんか?」
二人は驚いた。引きこもりの娘が久しぶりに部屋から出たと思ったら、急に話があると言うからだ。
二人を席につかせるとアトレは口を開いた。
「私、家を離れて旅に出ようと思うの」
「あら、いいわね旅。私は賛成よ、新しい自分を見つけられるもの」
母が積極的なのは予想通りだった。
「あの……お父様は」
「部屋から出たと思ったら、今度は家を出るだと? そんなこと、今のお前に出来るのか?」
「……わからないわ」
セレオの言うことは至極真っ当だ。
自殺を図った精神的に不安定な娘を旅に出させるなんて、このさきどうなるか不安でたまらない。
だけど、アトレにはどうしても行きたい理由があった。
「でも、このまま殻に閉じこもって大人になっていく方がもっと嫌なの!」
うつむいて叫んだ。
セレオは顔を顰め、悩んだがアトレに答えを出した。
「……そうか、なら条件がある。護衛としてバルを連れて行け」
「いいんですか?」
「このまま暗い奴が当主になってもらっても困るからな」
「ありがとうございます!」
深々と頭を下げた。
「それで、行き先は決まっているのか?」
「それは、これから決めようかなぁ〜っと……」
慌てて目線を逸らす。
「はあ。なら<翠煌の魔女>リトナードの元へ行くと良い」
「<翠煌の魔女>……」
彼女の名は教科書で見たことがある。
若くして旧王朝の宮廷魔法使いの座に就き、たった数年間で歴史上から姿を消した謎の魔女だ。
「彼女は王朝時代最後の宮廷魔法使いだ。革命後、彼女の消息は不明になった。多分まだ生きているだろう」
革命は今から約五十年前。年齢によってはまだ生きているはずだ。
だが、彼女の消息がつかめない以上、目的地が不明の旅になる。
そのことを正直にセレオに伝えた。
「でもそれだと、どこに行けば良いのか分からないのでは?」
「一般人ならな。しかし我々旧公爵家だけは、彼女の居場所を知っている」
少し間を置いて口を開いた。
「東の辺境、リヴィエール地方ベルヌーイ村だ。そこに行けば彼女に会えるだろう。きっとお前の欲しい物を教えてくれるぞ」
いったい何年経てば辿り着くだろうか。
元々同じ国王の配下にあった公国でも、二国間の距離はものすごく遠い。飛行魔法が使えないのならば、山や海ではもっと時間がかかってしまうだろう。
だがアトレは後悔しなかった。
これから自分の、本当の人生の幕を開けるから。
「それでアトレちゃん、いつ家を発つのかしら」
「明日にしようかなと」
「明日……」
流石の母も苦笑いだった。




