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【2−4】年代測定魔法

「アークさん?!」

 アトレはびっくりして、思わず大きな声が出た。

 音もなく、気づいたら後ろにいるもんだからしょうがない。

「あぁっ、ごごごめんなさい! 驚かせるつもりはなかったんですよぉ」

 アークは両手を左右に振って弁明をした。彼がここにいるってことは、この食堂にいる全ての被け……患者の治療が終わったということだ。

 だが一体、彼は何の研究をしているのかさっぱりだ。

 そこでアトレは、どんな研究をしているのかと聞いてみた。

「僕、考古学を専門としているんですよぉ。だから、年代測定魔法系統は一応、使えますよ」

 アークが考古学者とは意外だった。てっきり医療系とか魔術関連の学者かと思っていたからだ。

 でも、それを聞いたアトレは納得した。

 考古学の野外活動は怪我が多い。だからアークがシェイクシーラを使えるのだ。

「それで、その『竜の遺骸』というやらはどこにあるのでしょう〜?」

「これよ」

 アトレはアークにサイの角みたいな骨を差し出した。

 アークはそれをじっくりいろんな角度から見つめた。そして、何か分かったのかニヤニヤしながら頷く。

「これは本物の竜の骨ですよぉ〜! あなたたちよく見つけましたねぇ。今すぐ僕の研究所に行きましょう〜! すぐ近くですから〜」

 アークは嬉しそうに歩いて三人を引き連れた。


 近いと言っても本当に近くて、店の目の前にある石造りの民家だった。

 二階にはカーテンがかかっていて中は見えないが、おそらくそこが彼の研究所なのだろう。

 下の家のボロっちいドアから四人は入り、すぐに木の階段を登った。

 ギシギシと軋む音から、おそらくここは賃貸なんだろうとアトレは思った。

「さあ、ここが僕の研究所です。どうぞお入りください」

 笑顔で掌を上に向けながら部屋のドアを指し示す。

 一番最初に入ったのはラスカだった。

(この人のことだから部屋はとんでもなく汚そう……)

 固唾を飲んでドアを開けた。そしたらびっくり、部屋は明かりがつけられていてとても綺麗。

 真っ白な壁に真っ白な天井。閉められた窓際に少し大きめのテーブルに椅子。上には何も置かれていない。

 さらには本棚にはとても綺麗に大きさ順で並んでいた。もはや、氷の上にいるくらい美しい。

「さあさあ、お入りください。アトレさん、バルさん」

 言われるがまま二人も入った。一番最初に感じたことはラスカと同じく、「美しい」だった。

「アーク様のお部屋はとても綺麗ですね。いつもこの部屋で?」

「はい、そうです。いやぁ〜僕、几帳面なもので〜。いつもはそこのテーブルに顕微鏡を置いて作業をしているんです〜」

 頭を掻きながら笑って照れた。

 どうやら、この部屋に他人が入ることは珍しく、褒められることも少ないらしい。


 アークは「さあ始めますか」と言わんばかりに腕を伸ばし、骨を床の中心に置いた。

 そしてニヤニヤしながら口を開く。

「では今から始めますね〜。年代測定魔法は少し面倒なので、みなさん離れていて置いてください」

 三人は部屋の隅っこに散らばった。周りに人がいないことを確認すると、アーク明かりを消し詠唱を始める。

「……古に生まれしかの者よ、我に教えたまえ。フラシェーリア」

 すると、骨の下に魔法陣が敷かれ、緑色に輝きながら骨を照らす。

 そのままアークが手を前に出すと魔法陣が消えた。そして、明かりをつけた。

「ふう、今ので終わりです」

「えっ、今ので終わり? もっとこう凄いものだと思っていたわ」

 アトレは年代測定魔法が、ここまであっけないものとは思いもしなかった。 

 それもそのはず、特に教科書に載る専門的な魔法は大抵豪華だ。

 長い詠唱を必要とし、派手な視覚効果があるものが多い。

 だけどその中でも地学、考古学に使われる専門魔法は地味で人気がなく、アークのような変わった人が多いと言われていた。

(考古学って案外地味なのね)

 隅っこにいた三人がアークの元へ集まる。そこで、年代測定魔法が気になったラスカは、アークに尋ねた。

「なあ、その年代測定魔法ってやつの原理はなんなんだ?」

 初めて動物をみた子供のように不思議そうに聞いた。学校に行ったことがないので、術式の理解はおろか、存在すらついさっきまで知らなかったのだ。

「簡単に言うと、物質に残存する魔力量の減衰率を調べているんですよぉ。それにより、得意だった魔法、苦手な属性などがわかります」

(あれだけ簡素な魔法でこれほどの情報が分かるなんて凄いな)


 「年代測定魔法」

 全ての生物は魔力を保持している。それが利用できない種でも利用できる種でも。さらには無機物まで少なからず保有する。

 そして、その保持する魔力の中でも、利用できるものを人々がよく知る「魔力量」と呼ぶ。

 それで、残ったカスのようなものが体内に残ったものが「残存魔力」である。

 残存魔力は使うことができず、一生のうちに溜まり続ける。しかしある時を境にそれらが一定の割合で空気中に放出し始める。

 その境が「死」である。

 残存魔力量は空気中の魔力と同じ比率で保有される。そこで放出されていない魔力量を調べることにより死亡の時期、有効な魔法の種類などを導き出すことができるのだ。


「なんか、凄いな!! それで、結果はどうなったんだ?」

 アークが腕を組んで考えるような仕草で話す。

「そうですねぇ〜まず、この骨は竜のもので間違いないです。それもケレースの時代のものでしょぉ〜」

 ケレースの時代、つまり千年くらい前のものである。その竜の遺骸が禍々しい雰囲気を漂っていたのはきっと、漏れ出した魔力によるものなのかもしれない。

「それで、それで! 苦手な属性とかあるの?」

 アトレが前のめりになり、翠緑の瞳が期待の眼差しでアークを見つめた。

「あっ、いやぁ〜そのぉ……ハハ……」

「どうしたのよ! そんなに笑ってさぁ!」

 アトレはアークが急に笑い出すのが面白くて笑ってしまった。


「スゥー……無いです」


『へ?』

 三人の声が揃った。


「無、い、で、す」


 圧がすごい……

「まず、魔法が基本的に効きませんねぇ〜!どうやら彼らには厚い皮膚があってぇ、それが魔法を吸収……とゆうかぁ体内の奥深くまで浸透しにくいらしぃです〜!」

 なぜかアークは目を輝かせ、ニッコニコで早口になって話し始めた。これが変態研究者と言ったものか。

(この人、なんで喜んでいるのかしら……)

 もはや、アーク以外の全員がジト目になって彼を見つめていた。

「あっでもぉ、首とか関節とかの皮膚が薄い部分は魔法が通るかもしれません〜!」

 この学者の暴走は止められないのか、と思いアトレはラスカに小声で「なんとかしなさいよ」、と言った。

「アークさん、アークさん!!」

「こんな素晴らしい発見はあなたたちのおかげでもあります! 今すぐ、論文を書かない、と……?」

 やっと気付いたか。

 自身の暴走に気付いたアークはしどろもどろになって焦り出した。

「ごごごごごめんなさいっ!! 僕ばっかり、はは話してしまって!!」

「大丈夫ですよ、アーク様。あなた様はわたくし達のお役に立っていらっしゃっていますので」

 アークはほっとしたのか一息ついて椅子にもたれた。


作中に出てくる「年代測定魔法」とは、実際に使われている放射性炭素年代測定と大体同じ原理で書かれています。


それと、地学、考古学は地味な学問ではありません。特に、この国の学者達が、異常なまでに変わった人が多いだけです。現実の学者に対しての偏見ではありません。

最後に、決して地学、考古学を地味な学問と思わないであげてください。


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