第8話 帽子を作った人
【帝都・商業地区】
通りに面した、レストランのテラス席。
料理を一通り食べ終え、ナオたち4人は食後の紅茶を注文していた。
ナオ「ほんで明日やねんけど、昼前には帝都を出発しようか思うんやけどどうやろか?」
紅茶をひと口飲んで、ナオが軽い調子で切り出す。
ステラ「そうね〜。馬車を使うとしても、丸一日はかかるし」
ノノ「や...やっと帰れる...」
帰れるという安心感からか、ノノはテーブルの上でヘナっと項垂れる。
カイ「あ、じゃあ俺持って帰りたいものあるんすよ!」
ナオ「ん?なんや?」
カイ「今朝、工房の案件で親方が作ってた魔道具に、冷気魔法の符呪を施したんすよ。自動的に冷気を放って、食い物の鮮度を保つ小さな氷室みたいなやつっす!それを試作品として持って帰りたくて」
ステラ「へぇ〜便利そうじゃんそれ!『ミルミル亭』に置いたら絶対喜ばれるわよ」
ノノ「……そ、それって、野菜とかお肉も保存できるんですか……?」
カイ「バッチリっすよ!開けた瞬間、冬の朝みたいにひんやりしてましたし」
ナオ「カイくんもなかなかおもろいもんつくるやん!ほな、それも積んで帰ろか。壊れモンぽいし、気ぃつけて運ばんとな」
カイ「任せてくださいって。俺の作品なんで、責任持って運びますよ!」
そう言って笑うカイに、三人もつられて笑った。
ナオ「ほな決まりやな。明日は昼前に出て、夕方には街道沿いの宿場町で一泊しよか。みんな帝都で買いたいものあったら早めに済ませときや」
ステラ「そうね〜。旅の軽食とか、道具の補充もしときたいし。……ノノ、これから一緒に買い物いく?」
ノノ「えっ……あ、はいっ!ぜ、ぜひ……!」
嬉しそうに立ち上がるが、未だ帝都の人の多さに不安げな表情のノノ。
ステラはそんな彼女の腕を軽く引いて、にかっと笑う。
ステラ「よし、じゃあ決まり!ほらノノ、置いてくわよ!」
ノノ「ひゃっ……!ま、待ってくださいステラさん〜!」
二人の賑やかな声が、商業地区の通りへ吸い込まれていった。
カイ「じゃ、自分は工房に一度戻るっす!さっきいってた試作品、梱包もしときたいんで」
ナオ「おー、気ぃつけて行きや!道中壊れたら元も子もあれんからなあ」
カイ「任せてくださいって!あれ、一応俺の自信作っすから」
そう言って軽く手を振り、彼もまた足早に去っていく。
テラス席に残ったナオは、少し冷めた紅茶を口に運ぶ。
ナオ「……明日からまた忙しいのお、これは」
大聖堂の鐘が帝都中に鳴り響き、鳥たちが一斉に羽ばたいた。
穏やかな午後の陽光が、ナオの被るシルクハットのシャムロックのバッジに反射して鮮やかな緑色の光をかえしていた。
【帝都・元老院 応接室】
同時刻。
嵐が過ぎたあとのような静けさが、大理石造りの広い部屋に満ちていた。
ギュースケンは机の上の書類をまとめながら、ぐったりと肩を落とす。
ギュースケン「今日ほど……公務で疲れた日は、ないかもしれません……」
ハヌス「フハハハハ!まだまだ若いな、ギュースケンくん!」
ギュースケン「いやいやいや!お言葉ですが、ハヌス様の方がおかしいと思いますよ!?あんな混沌を会談中に見せられて、平然としていられる方が異常です!」
フハハハと豪快に笑うハヌス。
そんな彼を見てギュースケンは深いため息をつく。そして、ふと気になった疑問を口にした。
ギュースケン「あの……ハヌス様」
ハヌス「ん?どうした、ギュースケンくん」
ギュースケン「先ほど。『二十年前に来たジパング使節も、同じ帽子を被っていた』とおっしゃっていましたよね。それで、当時も珍事件が起きたとか……」
その問いに、ハヌスは懐かしむように口髭を手で整えながら目を細める。
そして次の瞬間、あまりにも衝撃的な事実を、何気なく口にした。
ハヌス「ああ、そうとも。なにせあのトンデモない帽子を作ったのは、当時のジパング国の外交官、 "杉原センポ” 卿本人だからな!!フハハハハハ!!」
ギュースケン「……………………はい?」
書類を整えた姿勢のまま、ギュースケンは目を点にして完全にフリーズしていた。




