表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/76

第76話 橋渡しという使命

【エサリカ村・ジパング大使館】

葉巻の煙が揺れ、ハードボイルド男のバイクのエンジン音が響く中――ナオは静かに口を開いた。


ナオ「ヨシムネ様は、今のジパング国はまだ世界に通用できるほど強い国ではない、と言い切ってはります」


グラバー「ほう?」


ナオ「自分一人だけが強いだけの国家に、ほんまの意味での強さはない、とも」


ナオは静かに言葉を続けた。


ナオ「実際、ジパング国は長い長い鎖国の中で、独自の文化を育ててきました。大陸の争いや厄介ごとに深く巻き込まれない、泰平の世も築いてきた。

せやけど、その代わりに遅れてしもたものもあります。そのひとつが、魔術の発展です」


ナオはもう一度、卓上の刀に触れる。


ナオ「刀をはじめとする武の分野においては、世界各国にも引けを取らんだけの力はあると自負しています。

……ですが、魔術という点においては。正直、まだ大きな差があると言わざるを得ません」


そこまで言うと、顔を上げて窓の外を見渡す。


ナオ「それに、ジパングの民の九割は人間種です。

大陸では当たり前に共に生きとるエルフやドワーフ、オークのような多種族に対して、慣れも理解も十分とは言えない」


再びグラバーの方に目を向ける。


ナオ「……正直に申しますと、自分もノノも、この地に初めて来た頃は、多種族の方々を前にして畏れを隠しきれませんでした」


ノノもその言葉に、申し訳なさげにこくりと頷く。


ナオ「そしてもうひとつ驚かされたんが……。魔術や魔導工学が、なんら特別なものやなく、文明の中にごく自然に組み込まれとることです」


ナオは一瞬だけ、襖の方に視線を移す。


ナオ「私の使節団にも、人間とドワーフの血を引く魔導工学技士がおります。彼の作る魔道具の数々を見るたび……自分は未だに驚かされます」


その言葉を聞いて、襖の向こうのカイは思わず背筋を伸ばした。


ステラとリラは顔を見合わせ、カイをちらりと見る。

ノノは小さく頷き、どこか誇らしげに目を細めていた。


ナオは、静かに息を整え言葉を続ける。


ナオ「あの方は、武力で人を強制的に従わせることを良しとしないお方です」


そう言うと、卓上に置いた刀を手に取り、グラバーに示す。


ナオ「その統治で生まれるのは……人々の僻みや恐れです。恐れで縛られた国は、長くは持ちません」


グラバー「ふむ」


葉巻の煙をくゆらせる。


ナオ「せやからあの方は、他国と対等に手を取り合える共存の道を探りよるんです」


再び刀を卓上へと置いた。


ナオ「その理想があるからこそ、ヨシムネ様は……いえ、ジパング国は、開国に踏み切ったんです。そして、私はその両国間の橋渡し役として、この地におるんです」


そこまで聞いて。


グラバー「ハハハハハッ!!」


葉巻を手に持ち、グラバーは豪快に笑った。


グラバー「いや失礼。覇王殿が武力よりも共存を重んじる理想主義者ということは、元から知っていて聞いてみたのだが……」


そう言うと、吸い終わった葉巻を灰皿に落とす。


グラバー「なるほど……。ほんとに主君に対する忠誠心が高い男なのだな、君は」


ナオ「恐縮です」



その時。


ブルン……ブルルルン……


帽子の上で、ハードボイルド男がバイクのスロットルを回した。


ハードボイルド男「行くか……。夜明けはまだ遠い」


店員「いやお客さん……だから今、真昼間なんですけど……」


ガソリンスタンドの店員のツッコミをよそに、ハードボイルド男は静かにハンドルを握る。


ドドドドドドドド……!


次の瞬間、バイクは勢いよく発進し、そのまま帽子の中へと滑り込むように消えていった。

開いたクラウンの奥から、エンジン音だけが遠ざかっていく。


ドドド……ドド……ド……


やがて、その音も小さくなった。

しばらくして。


店員「店長、あの人ハイオクって言い張ってましたけど……あのバイク、レギュラー車っすよね?」


店長「ああ、俺も分かってた。だがな、新入り。そういうのは合わせるもんだ」


そう言うと店長は腕を組み、ドヤ顔で言い放つ。


店長「『ハイオクは男のロマン』ってやつだ」


店員「なんで店長、ずっとあの人側なんすか……」


そのやり取りを最後に、二人の姿もまた帽子の奥へと引っ込んでいった。



パタン



帽子が静かに閉じる。

やかましいエンジン音が響き渡っていた応接室に、静寂が戻った。

外からは、小鳥のさえずりだけが聞こえている。


グラバー「……フッ」


肩を揺らし、小さく笑う。


グラバー「魔術が遅れているとは言うが」


グラバーはナオの被る帽子を指さす。


グラバー「そんな代物は、我が国の技術でも作れんぞ?ハッハッハ!!」


ナオは帽子を脱ぎ、両手でそっと抱えた。


ナオ「それは……センポさんの技術力だけが、異次元レベルなだけですわ」


二本目の葉巻を取り出しながら、豪快に笑う。


グラバー「ハハハハハッ!それは違いない!」


ナオは、ふっと肩の力を抜いて笑う。


ナオ「それにこれ、センポさん曰く――空間魔法の研究段階で生じた副作用が、制御しきれてへんらしいんですわ」


グラバーはマッチを擦り、葉巻に火をつける。


小さく煙を吐き出してから、口元を緩めた。


グラバー「ああ……本人も、そんなことを言っていたな。……懐かしいねえ」


足を組み直し、どこか遠くを見るように天井を仰いだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ