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第74話 敬愛する主君

【エサリカ村・ジパング大使館】

ハードボイルド男の言葉を聞いて、ノノはぎゅっと手を握った。


ノノ「あ……あの……」


ノノは一度だけ視線を落とし、すぐに顔を上げた。


ノノ「……梅原様の剣の腕は……。たしかに、侍衆の方々に比べたら……劣るのかもしれません……」


ナオ「ハハっ、正直に言うてくれるなあ」


ノノは小さく首を振る。


ノノ「で、でも……!戦わずに、話し合いで場を収めようとする……梅原様のやり方の方が……」


少しだけ言葉が詰まる。


ノノ「……私は……刀を振るえるより、ずっと強いと思います……!」


グラバーはソファに背を預け、カイゼル髭を指で撫でる。


グラバー「外交官の本質は、相手との『終わらせない関係』を保つことだと私は考えている」


口角をあげて、ノノを見る。


グラバー「茅森くん、いや……ノノくん」


ノノ「は、ひゃい!?」


グラバー「今の君の言葉は――それを、実に的確に表している」


ノノ「……!」


グラバーはゆっくりとナオへ視線を向ける。


グラバー「ふむ、なるほどナオくん。君は『刀を抜かぬために刀を持つ』男というわけか」


ナオ「……大層なもんやないですけどね」


苦笑いを浮かべる。


ナオ「できることなら、最後まで抜かんで済むようにしたいだけですわ」


グラバーはふっと口元を緩める。


グラバー「いい考え方じゃないかね」


カイゼル髭を撫でながら続ける。


グラバー「しかし……あの覇王殿が、そのような約束を交わさせるとは少々意外だな。

武をもって国を治めた御方と聞いていたが……ずいぶんと『理』を重んじる一面もお持ちのようだ」


ナオはわずかに目を細める。


ナオ「ええ…。ヨシムネ様は国民一人一人の才能を尊重し、それぞれが自らの力でそれを開花させ、その上で世界に通用する国家をつくることを理想として掲げておられるお方です」


そこまでいうと一度窓の外を眺めた。


ナオ「正直、あの方なら力だけで治めることもできたはずやのに……。それでも『力なき者たちをどう生かすか』を選びはるお方なんです」


ナオは静かに笑う。


ナオ「せやから、自分らみたいなんでも……こうして役目を与えていただけたんやと思います」


グラバー「ハハハ。君は覇王殿を随分と敬愛しているのだな」


ナオは苦笑いを浮かべたまま、わずかに視線を落とした。




応接室の外では。


ステラ(小声)「正直意外だわ……ナオちゃんってあんなに忠誠心高かったんだ」


カイ(小声)「軽い感じに見せてますけど、ちゃんと芯ある人なんすね」


リラ(小声)「はい……。言葉の端々に、それが出ていました」


ステラは少しだけ口元を緩める。


ステラ(小声)「……ノノも、かっこよかったわね。今の」


カイ(小声)「普段のノノさんでは……なかなか見れないっすよね、ああいうの」


リラ(小声)「はい……ノノちゃん。とても、まっすぐでした」


ステラは少しだけ口元を緩める。


ステラ(小声)「……やるじゃない」


カイ(小声)「ちょっと見直しましたよね」


一瞬、穏やかな空気が流れる。


ステラ「……でも」


ステラは半目になり、そっと襖の隙間をのぞき込む。


その視線の先――

ナオの帽子の上では、ネイキッドバイクに跨ったハードボイルド男がエンジンをふかし続けている。



ブルン……ブルン……



その横では、いまだにガソリンスタンドの店員たちが平然と佇んでいた。


ステラ「……あいつらのせいで、全部台無しになってるのよ」


カイ(小声)「いやほんと、なんでまだいるんすかあれ……」


リラ(小声)「……むしろ、さっきより存在感増してませんか……?」




グラバーはスーツの内ポケットから葉巻を取り出した。


グラバー「ナオくん、すまないが一本吸っても構わんかね?」


ナオ「ええ、ご遠慮なく。ノノ、灰皿を」


ノノ「は、はい!」


慌てて灰皿を差し出す。

グラバーはマッチを取り出そうと、ポケットを探る。


その時。



カチッ



グラバーが目を向けると、自分のすぐそばまで腕を伸ばしたハードボイルド男の姿があった。

手元には、一本のオイルライター。


ハードボイルド男「……フッ、いい葉巻だな」


グラバー「ハハッ!君こそ、実に愉快な魔道具を持ち合わせているようだね!では遠慮なく、拝借しよう」


グラバーは葉巻に火をつけ、煙をくゆらせる。

ゆっくりと煙を吐き出した。


ハードボイルド男はライターを閉じ、何事もなかったかのように元の位置へ戻る。


店員「お、お客さん!!ここガソリン扱ってるんで火気厳禁なんですよ!!マジで危ないんで!!」


カイ(小声)「さっきから気になってたんすけど、その『ガソリン』てなんなんすかねえ…」


襖の向こうで、受話器を耳に当てたままカイは呟いた。


グラバー「覇王ヨシムネ殿――」


天井を見上げながら、思い出すように語りだす。


グラバー「400年以上東の果てで鎖国体制を貫いてきたジパング国から、突如、君の師でもあった先代外交官・杉原センポがこのバロアの地へ訪れたのが、ちょうど20年前のことだ」


懐かしむように目を細める。


グラバー「あのじいさんがやってきた時も、元老院は大層驚いていたさ」


葉巻を口に咥え、ナオたちへと向き直る。


グラバー「だがそれ以上に、議員たちが恐れを抱いた理由があってね」


ノノは思わず、唾を飲みこんだ。


グラバー「その使節団の背後にいる‟覇王‟と呼ばれる男が……もし噂通りの存在であったなら」


グラバーはわずかに口元を引き締める。


グラバー「この大陸の勢力図すら、書き換えかねん……とな」


応接室内に少し張り詰めた空気が落ちた。

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