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第73話 将軍との約束

【エサリカ村・ジパング大使館】



‟覇王‟――豊臣ヨシムネ。



グラバーがその名を口に出した瞬間、応接室内だけでなく、襖の向こうの三人までもがほんの少し背筋を伸ばした。


ステラ「豊臣……ヨシムネ」


思わず目を見開く。


ステラ「初めて聞いたわ……。ナオちゃんの主君の名前」


リラ「結局あの時、将軍様のお名前……聞けませんでしたものね……」


カイは受話器を耳に当てたまま、小さく息を吐く。


カイ「覇王って……なんだか、ただならぬ異名っすね」




応接室内では。


ノノ「ひっ!!?」


先ほどまで必死になって帽子のクラウンを閉じようと押さえていたノノも、その名が耳に入った瞬間ビクリと肩を震わせた。


ノノ(こ、こんなところで……う、上様のお名前が……)


顔がみるみる青ざめていく。

遠目からでもわかるほど、足ががくがくと震え出していた。


カイ(小声)「の、ノノさんどうしたんすかねえ……?妙に顔色悪い気が……」


ステラ(小声)「あー……ほら、前にいたでしょ?ギルド総出で倒した四メートル級のトロール」


カイ「ああ、いましたね……旧鉱道を住処にしようとしてた……」


ステラ「ノノ曰く、将軍様はアレがまだマシに見えるくらい怖いって」


カイ「ええ……」


思わず共鳴板を襖に押し当てたまま、絶句する。


リラ(小声)「……でも、それだけすごい方ということ、なんですよね……」


ノノのその反応を横目で見てから、ナオは続ける。


ナオ「ええ…。この刀は私がバロアへ発つ折に、ヨシムネ様から賜わったものなんです」


ナオは卓上に置かれた刀へ、そっと手を添えた。


ナオ「その時、あの方はこうおっしゃられました」


グラバー「ほう?」


ナオは一度、わずかに視線を落とす。


ナオ「『この刀を、脅しや力の誇示のために抜くことは断じて許さぬ』」


室内に静かな間が落ちる。

ナオはゆっくりと顔を上げた。



ナオ「『言葉で果たせぬ時のみ抜け』と……」



その言葉は静かでありながら、揺るがぬ重みを帯びていた。

ナオは卓上の刀にそっと指先を添えたまま、穏やかな口調で続ける。


ナオ「……さっきは、武器を抜かずに腹を割って話せるように、なんて言いましたけど」


帽子のツバを軽くつまもうとして、止める。


ナオ「このオームスの世界には……どうしても、話だけやと収まらん相手もおるんが現実です」


グラバー「ふむ。盗賊やネクロマンサー、話し合いを最初から拒む手合いも少なくない。魔獣ともなれば、そもそも言葉が通じない」


軽く頷く。


グラバー「理想だけでは立ち行かん世界というわけか」


ナオ「ええ。せやからこそ。最後の手段として、これがあるんです」


そっと刀の鞘を握る。


ナオ「ですが……これを抜いた時点で、‟話し合える余地‟はなくなると思っとります」


グラバーはわずかに前のめりになり、顎に手を添えた。


ナオ「ですので私は、この刀を‟抜かないこと‟を前提に携えているんです」


そこまで言うと、ふっと力を抜くように、口元を緩めた。


ナオ「それに」


首筋をぽりぽりと掻きながら、ニッと笑う。


ナオ「自分の剣の腕前なんて、“中の下”言われるような半端者ですので。できることなら、戦闘は避けたいんですわ」


ノノ「そ、そんなこと……!」


思わず声を上げかけて、慌てて口を押さえる。


ノノ「あ……いえ……その……」


その時、帽子の上でバイクに跨ったハードボイルド男が、口を開いた。


ブルン……ブルン……


ハードボイルド男「ノノ嬢、言葉が詰まるってのは別に悪いことじゃねえ」


ノノ「ひぇっ!?」


ゆっくりとサングラスを押し上げる。




ハードボイルド男「女とバーボンはな……無理に言葉を足すと、味が濁るんだ」




室内に微妙な空気が流れた。


ノノ「……あ、味……?」


ナオ「いや意味わからへんねんけど。お前もう黙っててくれへん?」


半目になって、真上のハードボイルド男にツッコむ。


店員「いや本当、何の話なんすかこれ」


店長はなぜかうんうんと頷く。


店長「フッ……深いようで浅いな」


ナオ「あと自分もさっきからなんやねんな、その俯瞰キャラ」


グラバーはそのやりとりを見て。


グラバー「ブハハハッ!!」


また腹を抱えて笑い出した。


グラバー「いや本当に、帽子から出てくる者たちは……面白い連中だな!」



襖の外の三人。


ステラ(小声)「もういい加減、帰ってくれないかしら…あの三人」


カイ(小声)「なんでこの状況で、平然と常駐してるんすか…」


リラ(小声)「でも……あの方たちが出てくると、場の空気が少しだけ柔らかくなるのも……確かですよね」


ステラ(小声)「どこがよ!?むしろ場をかき乱してるでしょ!!」


カイ(小声)「柔らかくなってるんじゃなくて……形を崩してるって感じっすよね……」


呆れながらも、三人は受話器に再び耳を当てる。




だが、ハードボイルド男は気にせず続けた。


ハードボイルド男「ノノ嬢…」


サングラスが光の反射でキラリと光る。


ハードボイルド男「『言いてぇことがあっても、言葉が出てこねえ』ときは、無理に捻り出すより黙っときゃいい」


ノノ「……」


少しだけ、ノノの呼吸が落ち着く。


男「……本当に伝わるもんはな、焦って足した言葉じゃねえ」


ハードボイルド男は少し口角をあげる。


男「自然と出てきた分だけで、十分伝わるもんなのさ」


店員「なんでちょっとまともなこと言い出すんすかこの人」


その言葉を聞いて、ノノはぎゅっと手を握った。

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