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第70話 盗み聞き三人衆

【ジパング大使館・応接室の外】

ナオたちが対談している応接室の襖の外。

そこに、三つの影がぴたりと張り付いていた。


ステラ、カイ、リラの三人である。


ステラ「……どう?聞こえる?」(小声)


カイは襖にぴたりと押し当てた、丸い金属の器具を調整していた。

それは聴診器に似た形をしているが、縁には細かな魔術紋様が刻まれている。


器具から伸びる細い管の先には、小さな受話器のような装置。

三人はそれぞれ片耳にそれを当てていた。


カイ「聞こえるっすよ。けっこうクリアっすね」(小声)


器具の側面に付いた小さなつまみを回す。


カイ「もう少し感度上げましょうか?」(小声)


リラ「い、いいんでしょうか……? 私たちこんなことして……」(小声)


ステラは腕を組んだまま、襖に額を寄せる。


ステラ「でもさ、リラも気になるでしょ?どんな人か」


リラ「それはまあ……はい」


少しだけ視線を泳がせながら、リラは小さく頷く。

それを見て、カイは少し得意げに笑った。


カイ「この日のために作っといて正解だったっすね」


襖に押し当てた器具を軽く叩く。


カイ「“音拾い”の魔道具っす。壁の振動から声の音波だけを拾う仕組みになってるんすよ」


そう言うと、つまみを少し回した。


カイ「ほら、今ちょうど声来ましたよ」


受話器の奥から、かすかにナオとグラバーの声が流れてくる。

三人は同時に身を乗り出した。


ステラ「お、聞こえる聞こえる」


リラ「ほ、本当だ……」


カイは襖に貼り付けたままの器具を指で示す。


カイ「この共鳴板が壁の振動を拾って、魔石で音波を増幅してるんす」


少し誇らしげに言う。


カイ「簡単に言うと、‟壁越しの盗み聞き専用魔道具‟っすね」


リラ「さ、さらっと言わないでください……!」


ステラはくすっと笑い、リラにウインクする。


ステラ「いいじゃないリラ。便利なもんは使うべきよ」


そう言って、再びステラは襖の隙間からグラバーを覗きこむ。


ステラ「だけど、ほんとに……予想以上にフランクな人ね、グラバーさん」


カイ「そうっすねぇ……あの帽子から出てきたお茶を平然と飲み干すあたり、只者じゃないっすよ」


リラ「正直……元老院の高官の方には、あまり思えないですね……」


ステラは襖の隙間から応接室の様子を覗きながら小さく息を吐く。


ステラ「もっとこう……威圧感のある人かと思ってたわ」


カイ「ですよね。帝国の偉い人って、もっとこう……そこにいるだけで空気がぴりつく感じだと」


リラ「それはそれで怖いですね……」


ステラは小さく笑った。


ステラ「でも、あのノノがそこまで緊張してなさそうなのも意外よね」


カイは受話器を耳に当てたまま頷く。


カイ「たしかに。ノノさん、わりと普通に話してるっすね」


リラもそっと襖に耳を寄せた。


リラ「ナオさんが一緒だから……でしょうか?」


ステラ「それもあるだろうけど……」


襖の向こうをもう一度覗き込む。


ステラ「グラバーさん自身が、あんまり威張るタイプじゃないからじゃない?」


カイ「ですねぇ……」


カイは受話器の位置を少し調整しながら言う。


カイ「むしろナオさんと対等に雑談してるっすよねぇ」


リラ「確かに……。どことなく……ナオさんに似てる気がしますね、あの人」


ステラは小さく吹き出した。


ステラ「カオスの受け入れ具合は、ナオちゃん以上だけどね」


カイ「わかるっすけど、それいいことなんすかねえ?」


三人は顔を見合わせ、苦笑いを浮かべる。


そのとき――

受話器の奥から、グラバーの声がはっきりと聞こえてきた。


三人は同時に姿勢を正した。


ステラ「……静かに」


カイ「来ました」


リラ「……」


三人はさらに襖へ顔を寄せる。

受話器の奥から、落ち着いた声が流れてくる。


グラバー『君は常に刀を携えているようだが……』


三人が思わず息を呑む。


グラバー『武器を持った外交官という者に、私はこれまで会ったことがなくてね』


グラバーは刀を指さして続ける。


グラバー『これは単なる飾りなのかね?それとも、実際に振るうこともあるのかね?』


襖の外。

三人は顔を見合わせた。


カイ(小声)「刀の話来ましたね……」


ステラ(小声)「まあ、そりゃ気になるわよね」


リラ(小声)「ナオさん……どう答えるんでしょう……」


受話器の奥で、わずかに衣擦れの音がした。



【ジパング大使館・応接室】

ナオ「ええ、確かに。我々ジパング人の侍にとって、刀は権威の象徴でもありますので」


ナオはそう言って、腰に帯びた刀へ軽く視線を落とす。


ナオ「ただの武器というよりは……文化の一部、と言った方が近いでしょうか」


グラバーはカイゼル髭を指で撫でながら、興味深そうに眉を上げる。

ナオは穏やかな口調のまま続ける。


ナオ「鍛冶の鍛錬技術、鋼の美しさ、そして持つ者の礼節。そういったものが、すべて一振りに込められております」


そこまで言うと、ナオは刀の下緒をほどき、刀を腰から外した。

そして鞘に収めたまま、両手で静かに差し出す。


ナオ「ですので、こうして携えることでジパングという国の“武の美学”を、少しでも知っていただければと思いまして」


グラバーは差し出された刀を、興味深そうにじっと眺めた。

磨き上げられた鞘、整えられた柄、そこに宿る静かな威厳。


グラバー「……なるほど」


低く呟くと、口元にわずかな笑みが浮かぶ。


グラバー「武器でありながら、同時に芸術品でもある……というわけか」


応接室に、静かな空気が流れる。

ノノは少し緊張した面持ちで二人の会話を追っていた。


グラバーはもう一度刀へ視線を落とすと、ふっと軽く笑った。


グラバー「しかし、やはり気になるな」


ナオ「と、いいますと?」


グラバー「実際にそれを君は武器として振るうことがあるのかという話だよ」


少しだけ、グラバーの目が鋭くなる。


グラバー「私は是非、それを知りたい」


ノノは思わず喉を鳴らした。

襖の向こうの三人も思わず背筋を伸ばす。


ナオは穏やかな口調のまま口を開こうとした。


ナオ「正直に申し上げますと――」


ナオが言葉を続けようとした、その瞬間だった。



パカッ



何の前触れもなく、ナオのシルクハットのクラウンが再び、パカリと横に開いた。

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