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第7話 使節団の技術者

【帝都・商業地区】

大通りに面したレストランのテラス席。

通りの向こうから、大きく手を振りながら3人の方へ歩いてくる青年がいた。


アッシュブラウンの髪に紺色の作業服。

右肩には革の肩当てをつけ、頭には使い込まれた溶接ゴーグル。

歩くたび、腰のポーチに差したガラス製の小瓶に入ったポーションが、ちゃりんと軽い音を立てる。


???「おーいナオさーん!ステラさーん!……お、ノノさん、変身解いてるじゃないっすか〜!」


声に気づいた三人が揃ってそちらを見る。

最初に口を開いたのはステラだった。


ステラ「あ、カイじゃん!もう遅いっての!」


カイ「いや〜〜、ほんとすんません!大事な日だっていうのに参加できなくて...」


ナオ「おー、カイくん。なんや朝からえらい大変やったみたいやな。まあ、とりあえず座りぃ」


椅子に腰を下ろしながら、青年は肩をすくめて苦笑した。


カイ。

ここ帝都出身の“魔導工学技師”。

魔道具の製作や整備、魔導機構の調整を専門とする職人で、ドワーフの父と錬金術師の人間の母を持つハーフの青年である。


本来は使節団とは無縁の職種だったが、ナオの被る帽子の不可解な構造に興味を持ったことをきっかけに、今ではすっかりジパング西洋使節団の技術者枠として随行している。


カイ「いや〜〜朝さ、元職場の工房に寄ったら……。案件まみれで地獄みたいになってて。

“おいカイ!手ぇ貸せ!!”って親方にガッツリ捕まっちゃいまして」


ステラ「あー……うん、なんか想像つくわ」


ノノ「お、お疲れ様です……」


ナオ「まあ、会談に絶対おらなあかんかったのは俺とノノやしな。しゃーないしゃーない。無事でなによりやで」


カイ「いやぁほんとすんません!……あ〜それにしても、腹減った〜〜!」


そういうとカイは手を挙げて、店員を呼び止める。


カイ「あ、おねえさ〜ん!俺、この特製ハンバーグステーキとガーリックトーストお願いします!

あ、そうだ。今日会談いけなかった分のお詫びに、みんなの分まとめて俺払いますよ!親方から報酬たんまりもらいましたし!」


ステラ「え、マジ!?カイえらい!!」


ノノ「うわぁ……!ありがとうございます……!」


ナオ「ええんかカイくん?ほんま気ぃ遣わせてすまんな!ありがとう」


注文を終えたカイは、ふーっと息をつきながら興味深そうに3人をみる。


カイ「で、会談どうだったんすか?

……まあ、多分聞かなくても帽子が何かやらかした気はしてるんすけど」


ステラ「やらかしたにも程があるわよ!!」


ナオ「まあ……相手方が懐の広い人で助かったけどな〜」


ノノ「か、河童が……きゅうり巻きのみのお弁当を……」


カイ「うん、もうその時点で意味わかんないっすね」


やっぱり、という顔で額に手を当てるカイ。

しばらく3人から会談での出来事を聞く。


数分後。


カイ「はぁ〜〜〜……マジでわけわかんないっすね、ナオさんの帽子……」


ハンバーグステーキを頬張りつつ、それでも頭を抱えて深いため息をつくカイ。


ステラ「でもさ〜カイ、あんた魔道具に関しては専門家なんだからさあ。ナオちゃんのこの帽子なんとかできないの?」


カイ「いや無理言わないでほしいっす!俺、帽子の物理的な損傷は一応直せるっすけど...」


彼は額を押さえて、ため息を吐く。


カイ「そのパカっと割れた部分から、わけのわからないものが飛び出してくる現象だけはどう頑張っても説明つかないんすよ!」


ノノ「……や、やっぱり……普通じゃ、ないですよね……?」


カイ「いやほんとに!この前ナオさんに言われて、帽子預かってたときにクラウン(帽子の山の部分)の直径測ったけど、30cm弱しかないんすよ!?」


ナオ「まあ、そらそうやろな。これ見た目はほんま普通のシルクハットやし」


ナオは自身の被る帽子を指差しながら答える。


カイ「いや、普通のシルクハットで済まさないでほしいっす...。物理法則が仕事して無さすぎなんすよ、それ」


ナオ「ハハハ、まあ空間魔法の作用なんちゃうか?...としか言いようないわなあ」



彼らの暮らす世界、オームスではあらゆる魔術が体系化され、実用化されている。

攻撃・防御・強化バフ・幻惑・回復・召喚……メルフェリア大陸に分布する多くの国で、日々魔術に関する研究が進められている。


一方で、梅原ナオと茅森ノノの故郷であるジパング国では、魔術の普及は大陸ほど進んでいない。

その代わりに「忍術」と呼ばれる独自の技を一部の者たちが使用しており、帝国の学者たちの中には魔術から派生したものだと唱える者もいる。


そんな整った魔術体系の中でも、いまだ未解明で理論も制御方法も分かっていない魔術が存在する。


それが、空間魔法。


原理も制御法も確立されておらず、大学の学者たちですら「理論上は存在するはずだが実用化は不可能」とまで言い放つ未知の分野。


......にもかかわらず。梅原ナオの帽子は、その空間魔法が施されており、内部は“ほぼ無限”に近い容量を持つ異空間となっている。


カイ「いやまあ……理解しがたいっすけど。物理法則をガン無視してるのは、まだ『空間魔法の作用』ってことで説明できるかもしれないっすよ?」


そう言ったあと、彼はハンバーグを刺したフォークを持ったままゆっくりと天を仰いだ。


カイ「けど!ちょくちょく『明らかこの世界のものじゃない存在』が出てくるのは、マジで説明つかないんですって!!しかも一貫性ゼロ!!」


ステラ「一貫性がないのには、激しく同意するわ...」


ノノ「...こ、この前は......サングラスをした顔がついたタマネギが出てきてました」


ナオ「あ〜あったなぁ、そんなこと。やたら渋いおっさんボイスの奴やろ?」


そういうとナオはまるで、他人事のように笑いながら魚の香草焼きを食べる。


ナオ「美味いなあ、これ!ちょい塩気濃ゆいけど」


ステラ「いや平然と食べながら言うな!!なんでそんなに慣れてるのよ!!」


カイ「そう!その慣れきってるのが一番ヤバいんですって!ナオさん!!」


二人のツッコミが炸裂し、店内のテラス席には騒がしくも賑やかな光景が広がっていた。

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