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第65話 応接室の掃除をしよう!

【エサリカ村・ジパング大使館】

明後日に迫った東方貿易圏調整官ーーグラバーとの面会に向け、梅原ナオ・茅森ノノ・ステラ・カイは応接室の整えに追われていた。


木造平屋建ての和風の大使館。

その中で、この部屋だけが少し異質である。


白壁に磨かれた木の床、帝国式の応接椅子と丸卓。

ジパングの空気と、西洋の形式が、無理なく同居している洋室である。


ナオは脚立に乗り、壁の装飾を整えながら呟いた。


ナオ「やっぱ花とか飾るべきやろかな?」


床を拭いていたノノが顔を上げる。


ノノ「は、はい……!あったほうが、柔らかい雰囲気にはなるかと……」


椅子を動かしていたステラが振り向いた。


ステラ「でも相手は 『肩書き抜きで話したい』って言ってるんでしょ?あんまり格式ばると、逆に硬くならない?」


カイは窓辺の埃を払いながら頷く。


カイ「それは言えてるっすね。飾るとしても、豪華すぎない……背景に溶け込むくらいの感じがいいんじゃないっすかね」


ナオは脚立から降り、部屋をぐるりと見回した。


ナオ「なるほどのぉ……」


顎に手を当て、少し考える。


ナオ「それこそシナツレがあればええのになあ。飾りすぎん淡い色やから、雰囲気ええのに」


ステラ「でも、それってジパングにしか咲いてない花なんでしょ?」


そのとき、ノノが小さく手を挙げた。


ノノ「え、えっと……市場のお花屋さんに、白い小花の束がありました……。派手すぎず、でも清潔感はあるかと……」


ナオは帽子を軽く押さえ、にこりと笑う。


ナオ「ほぉ、ええのおそれ。ほんなら、その辺の飾りつけのセンスはノノに任せようかいな」


ノノ「は、はいっ!」


元気よく返事をすると、ノノはパタパタと応接室を出ていった。

ステラはその背中を見送りながら、ふっと笑う。


ステラ「にしても……ほんと落ち着いてるわね、ナオちゃん。

緊張しないの?」


ナオ「まあ正式な会談やないだけで、幾分かは気楽やさかいな。それに――」


ナオは執務机の上に置かれた手紙を取り上げ、ひらひらと揺らした。


ナオ「結構気さくそうなお方やん?グラバー卿」


ステラ「いやまあ……それはそうなんだけどさぁ」



――二日前。

ミルミル亭にて。


使者が帰ったあと、ナオたちは受け取った手紙を開いていた。




梅原ナオ殿


君のことは帝都でも噂になっていたよ。

東方の島国から来た若い外交官が、奇妙な帽子を被り、そこから妙な生き物が出てくるとね。


私はこういう突拍子もない話が大好きでね!


先日のハヌスくんとの会談でも、ずいぶん議場を騒がしくしたらしいじゃないか。


もし本当なら――

その混沌を、ぜひ私にも見せてくれ。


安心してほしい。

私は退屈な会談より、面白い出会いのほうが好きな男だ。


近いうちに君を訪ねる。


外交官という肩書きは抜きで、気楽に話そうじゃないか。


元老院外務局・東方貿易圏調整官

ジェームズ・グラバー


P.S.

帽子から酒場が出てくるのは歓迎だが、海賊が出てくるのは勘弁してくれたまえ。




ミルミル亭のテーブルに、しばし沈黙が落ちた。

手紙を読み終えたナオは、ゆっくりと紙を折りたたむ。


ステラが腕を組み、椅子の背にもたれた。


ステラ「一応、確認なんだけど……この人、元老院の偉い人なのよね?」


ナオ「せやで。ジパング国だけやなくて大陸の東方諸国の貿易とか外交の窓口を担当してるお方やからな」


ステラはしばらく黙り込み、手紙を見つめる。そして、勢いよく顔を上げた。


ステラ「そんな人がなんで『帽子の混沌見せてくれ』って書いてくるわけ!?」


ノノ「ハヌスさんが……言ってた通り……変わってますね……」


カイは腕を組んで、苦笑いを浮かべる。


カイ「まあでも、帝都で“帽子から人間とか変な生き物が半身乗り出してくる外交官”って噂になってたら……。そりゃ一回見てみたくなる気持ちは分かるっす」


カウンターの向こうで話を聞いていたリラが、くすっと笑った。


リラ「でも、帝国の偉い方がそれを楽しみに来るって……ちょっと面白いわね」


ステラ「いやいやいや!?帝国の外交トップが“帽子のカオスが見れるの楽しみにしてます”ってどういう状況なのよ!!」


ナオは帽子の縁を押さえながら、苦笑した。


ナオ「俺、もしかして帝都で変なサーカス団の団長みたく思われとるんか?」



そして現在。


ナオ「まあ怖いもんみたさかわからんけども、話はしやすそうな人やな」


ナオは手紙を机の上に戻し、帽子のつばを軽く整えた。

ステラはまだ半信半疑といった顔で腕を組む。


ステラ「いやぁ……どうかしらねぇ。あたしからすると“笑いながら爆弾投げてくるタイプ”にも見えるけど」


カイは窓の外をちらりと見ながら肩をすくめる。


カイ「でもまあ、帝都の偉い人って普通もっとこう……固いイメージありますよね」


ナオ「せやな。普通は“帽子から何が出てくるかわからん外交官”に会いに来る前に、止める人がおるやろな」


ステラ「止められなかったのか、誰も止めなかったのか……」


ナオ「どっちもちゃうか?少なくとも、ギュースケン殿は頭抱えてそうやな」


そういいながらナオは帽子のツバを摘んで笑った――その矢先。


パカッ


唐突にナオの被る帽子のクラウンが開いた。


全員「あ」


ゴゴゴゴゴゴゴ……


重々しい機械音と共に、帽子の中から何かの席のようなものがゆっくりとせり上がってくる。


金属のフレーム、両脇にはレバー、正面には無数の計器とランプ。


カイ「ええ……」


それはどう見ても――


巨大な機械の操縦席だった。


ステラ「いやいやいや!?世界観いよいよおかしいでしょ!!なによこれ一体!!」


そして、その操縦席には。


操縦桿を握り、必死な表情を浮かべたピッチリしたパイロットスーツ姿の女性が半身乗り出して座っていた。

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