第6話 会談後の美味しいひととき
【帝都・商業区画】
石造りの建物が連なる帝都の中でも、最もにぎわう場所がこの商業区画である。
レストランの客引き、市場の活気、吟遊詩人の演奏。昼下がりの日常の賑わいが三人を包み込む。
会談を終え、元老院を後にした三人は
遅めの昼食を取るためこの区画へ戻って来ていた。
ステラ「あ〜〜〜〜!肩こった〜〜!!!アタシみたいなのには、あの場は固すぎるわ!」
ノノ「き、緊張が……終わった反動で……あぅぅ……」
ボワン
ノノの身体が淡いピンクの煙に包まれ、あっという間にプルプル震えるタヌキの姿に変わる。
ステラ「あーあー、ノノったらまた変身しちゃったよ!」
ナオ「ははは!ノノ、よう頑張ったなあ」
ナオはタヌキになったノノの頭を優しくぽふぽふ撫でる。ノノは「ヒャッ」と声を上げ、プルプル震える。
ナオ「二人とも、今日はほんまお疲れさんやったのお。ほだら、どっかで飯でも食おかいなぁ」
ステラ「賛成〜〜!もちろんナオちゃんのおごりで!」
ナオ「いやなんでやねん!まあ、かめへんけどよ」
ノノ(ごはん...お腹は空いたけど、人が...いっぱい)
三人は気取らない庶民向けの食堂へ入った。
店内では肉のこんがり焼ける匂いと香草スープの香りがふわりと漂ってくる。
ステラ「やっぱこういうとこが一番落ち着くわ〜〜!ギルド仲間と帝都に来たときは、だいたいココなのよね!」
ノノ「お、おいしそう……。お腹…もうぺこぺこで……」
ナオ「俺もさすがに緊張したから腹減ったわ。何食おうかいな」
三人は通りに面したテラス席について、注文を済ませる。
しばらくすると、赤ワインで牛肉をトロトロに煮込んだシチュー、野菜がたっぷり入った素朴なスープ、香草を乗せて焼かれた魚料理、軽く焼かれたパンが運ばれてきた。
ステラ「う〜〜〜〜〜ん!やっぱこのシチュー好きだわ〜!濃厚でパンに合うんだよね〜」
ノノ「……スープも、すごく優しい味。……美味しい……」
変身を解いて元の姿に戻ったノノは、一口飲んで頬をほころばせる。
ナオはパンをちぎりながら話し始めた。
ナオ「せやけど、ハヌス卿。あの人、見た目の厳つさのわりに懐の広い人やったなぁ」
ステラ「いやほんとそれ!普通、会談中にきゅうり巻きぎっしりの弁当仕込んでる河童が出てきたら、絶対固まるでしょ!!あの状況で普通に見てたの逆に怖いよ!」
ノノ「ほ、ほんとに...国際問題に……発展しなくて……よかった」
ステラ「ていうかねナオちゃん...ちょっと聞いていい?」
ナオ「ん?なんや?」
テーブルをバン!と叩いて思わず立ち上がるステラ。
ステラ「あんたら。会談中に普通の顔してきゅうり巻き食べ始めてたよね!?どういう神経してんの!?」
ナオ「いやだって、せっかく河童たちが置いていったから...ほんでも、やっぱ醤油なしの時きつかったわ〜」
ステラ「いや味の話じゃなくて!!!」
ノノ「は、ハヌスさんも...何食わぬ顔で食べてましたよね...」
ステラ「そう!!そこが一番おかしいの!あの重苦しい雰囲気で、ナオちゃんと帝国の高官が“しれっと寿司をつまんでる”絵面が一番ヤバいの!!ギュースケンさん頭抱えてたからね!?」
ノノ「あの人の反応が...一番まともですよね」
二人の怒涛のツッコミを受け流しながら、ナオはパンを頬張りつつ答える。
ナオ「ほんでも、醤油だしたら喜んでくれたで?」
ステラ「だから味の話じゃなくて!!」
ツッコミ疲れたのか、ステラはゆっくり椅子に座り直しながら深いため息をする。
ステラ「......でもさ」
ナオ「ん?」
ステラ「ナオちゃん。よくあの状況から、輸入の話に持っていけたよね。あれ見て……ああ、この人やっぱれっきとした外交官なんだって思った」
ノノ「梅原様......すごかったです!」
ステラ「普段ちょっと頼りなさげなゆるふわ兄ちゃんて感じなのにさ〜」
ナオ「おうなんやなんや?急に褒めてくるやんかいな〜」
ステラ「いや褒めてないから!!ただ……そういうところは、本当に頼りになるなってだけ!」
ノノが小さくクスッと笑う。
ナオ「なんや……ちょっと照れくさいやんかいな……」
3人がそろって笑った、その瞬間。
パカッ
ナオの帽子が、またしても軽快に開いた。
そこから小さなヤシの木がにょきっと生えてきて、ピンク色の変な生物がよじ登ろうとする。
???「ブタもおd――」
ナオ「アカンアカンアカン!?それ以上やると、いろんなところから“おしおき”されてまうやろがい!!」
反射的にナオは帽子のクラウンを押し戻して、勢いよく閉める。
パタンッ
ステラ「いや今の何!?!?」
ノノ「ま、また……変なのが……」
ナオ「俺もなんや知らんけど、あれ以上は……本能がいろんな意味でやばいと感じてな……」
その光景を見ていた、周囲の客たちがざわざわと視線を送る。
「今……帽子からなにか……?」「気のせい?」「いまのどういう仕掛け?」
そんな小声があちこちから漏れていた。
そのざわめきをすり抜けるようにして、帝都の街路から工具カバンを肩にかけた青年が歩いてくる。
3人を見つけるなり、緩い笑みを浮かべて。
青年「おー……ハハっ。相変わらず“やってる”っすねぇ〜」
軽い調子で呟きながらも、まっすぐ彼らの席へ向かってきていた。




