第5話 公務の一区切り
【帝都・元老院の応接室】
東方の島国・ジパングの外交官である梅原ナオ。
彼の帽子が、会談中にすらカオスを起こしながらも引き続き議論は続いていた。
ナオ「……つきましては、二十年前に取り決めました条約内容におきまして、我が国も他国と同等の条件で通商を行えるよう、貿易関税の平準化をお願いしたく」
ハヌス「ふむ……。関税に関しては元老院でも意見が割れておってな。だが、そなたらが提示した航路安定案と釣り合わせて提示すれば、理解を得ることも難しくはあるまい。議員たちへの説得は、私が引き受けよう」
ナオ「ありがたきお言葉でございます」
ギュースケン(ほんとに……同じ人たちなのか……?さっきまできゅうり巻きを無表情で食べ比べしてたとは思えん……)
ハヌス「それと、先ほど議題に上がった海賊対策について、こちらにも提案がある。
我が国が運用している“海路魔導認証システム“を導入してはどうかな?そなたらの船団に付与する認証符と、港の沖合に備え付けている魔導機構が共鳴したときのみ、港湾の結界が解呪し、船の通行を許す仕組みだ。偽装船では決して突破できん」
ナオ「魔術を用いた通行許可証ということでしょうか?」
ハヌス「平たくいえばそうだ。我が国のドワーフ技師たちが開発したものでな。これを用いれば、海上で認可が降りるまでの“待ちぼうけ”によって生じる時間損失や人員の負担を大幅に削減できる。交易の効率化にもつながろう」
梅原「素晴らしきご提案にございます。
ジパングは魔術に関しては未だ発展途上の国でありますゆえ……。帝国の魔導機構の進歩には、いつも驚かされております」
ナオの隣で、ノノは巻物に会談内容を書き留めながらコクコクと頷く。
背後に控えるステラは、腕を組んでじっと二人を見つめていた。
ステラ(ナオちゃん、普段はあの帽子に振り回されまくるゆるふわ外交官なのに……こういう場ではちゃんと背負ってる顔になるんだよね)
それから20分後。
条約改訂の内容がまとまり、会談は締めの段階へと入っていた。
ハヌス「いやはや、今日は実に有意義な時間であった。まだ若いが……そなたは確かに国を背負う者の背中をしておる」
そう言って、ハヌスは立ち上がり、ナオへと手を差し伸べる。ナオも椅子から静かに立ち、笑顔でその手を握り返した。
ナオ「私こそ、多くのことを学ばせていただきました。本日は誠にありがとうございました」
すっかり調子を取り戻したギュースケンが二人の間にそっと割って入る。
ギュースケン「お二方、お疲れ様でございました。梅原殿、こちらが今回の改訂内容を記した資料でございます。ご参考にしていただければと」
ノノはその資料をちらりと覗き込み、思わず小さく声を漏らす。
ノノ「す.......すごい。あの短時間で...ここまで綺麗に」
彼女の素直な驚きに、ギュースケンは柔らかな微笑を見せる。
ギュースケン「いえ。それに……会談中のあなたの記録も、簡潔で非常にわかりやすいと感じました。将来が期待できる文官だと思いますよ」
ノノ「ふえっ!?......あ、あの、そんなこと...ありがとうございますぅ!」
耳まで真っ赤にし、湯気を出しながらもぺこぺこと何度も礼をするノノ。
その姿をみて、ステラは思わず吹き出しそうになっていた。
ハヌス「そうそう。今後の帝国側の外交応対だが、これからは"東方貿易圏調整官"の男に引き継がれることになっておる。……まあ、だいぶ変わり者ではあるが、悪い奴ではない」
ステラ(変わり者って……あなたもだいぶだったけどね!?)
ノノ(と、とうほう...?肩書きだけですっごく強そう...こわい)
こうして、バロア帝国とジパング国の外交会談は帽子の混沌に見舞われつつも無事に幕を閉じた。
午後の柔らかな陽光が、変わらず元老院議事堂の中を照らしていた。
最後にもう一度、三人は揃って一礼をして応接室を後にする。赤い絨毯の上を、来た時と同じ静かな足取りで歩き出す。
外へ出た瞬間、ノノがホッと息を吐いた。
ノノ「……お、終わりました……」
ステラは肩を回しながら苦笑した。
ステラ「いやぁ……胃にくる会談だったわね」
ナオは帽子のつばにそっと手を添え、穏やかに微笑んだ。




