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第49話 東方貿易圏調整官

【帝都・元老院議事堂】

ハヌスの執務室に、妙にハイテンションな帝国の官僚、ジェームズ・グラバーが訪れていた。


ハヌス「それで、今日は何用かね?いつも以上にテンションが高いが」


グラバー「お~、そうだそうだ! 二人とも、これを見たまえ!」


グラバーは机の上に新聞をどんと広げた。

一面いっぱいに、いくつもの見出しが並んでいる。


ハヌスは新聞を手に取り、視線を走らせ、その中の一つにぴたりと目を止めた。


ハヌス「……ほう」



『帝都波止場地区の人気パン屋、北方のベリーを使った新作パン販売! 早朝から長蛇の行列』



ハヌス「ほう、あそこのパン屋はハズレ商品が全くないな。私も近いうちに買いに行かねばならんな」


グラバー「違う違う違う!!そっちじゃない!!なぜ数ある見出しの中から、それを選ぶのだね!?」


グラバーは勢いよく新聞を叩き、一面の中央を指さした。


ハヌス「む?」


ハヌスは視線を少しずらし、ようやく一面の中央を見る。



『エサリカ村近郊で超大型トロール出現!謎の“鉄の大蛇”が戦場を横断 事態収束』



ハヌス「鉄の大蛇……?」


ギュースケン「あれ、ちょっと待ってください!エサリカ村っていうと……」


彼は、何かに思い当たったように目を見開く。


ギュースケン「例のジパング国の使節団が駐留している村では……?」


グラバー「その通りだよ!ギュースケン君!!」


なぜかグラバーは、その場でくるりと一回転した。


グラバー「ハヌス君。私が何を言いたいか……もう分かっているんじゃないかね?」


ハヌス「……例の帽子が、また派手に暴れたと?」


グラバー「ご明察!!」


グラバーは楽しそうに新聞を指で叩く。


グラバー「見たまえよ!全長二百メートル近くの、鉄でできた巨大な蛇が、ドラゴンよりも速いスピードで戦場を駆け抜けていったと書いてある!」


ギュースケン「……到底、蛇とは思えないんですが……」


グラバー「だろう!?普通の魔術や召喚で、そんな真似ができると思うかい?」


ハヌスは顎に手を当てて唸る。


ハヌス「まあ、そんな魔術や召喚獣がいるなんて話は聞いたことがないな」


グラバー「そう!明らかにこのオームスではありえない現象!そんなぶっ飛んだ芸当ができる存在なんて」


彼はニヤリと笑い、帽子のツバを摘まむようなジェスチャーをする。


グラバー「あの杉原センポの帽子以外、ありえないと思わんかね?」


ギュースケン「なんだか、考えるだけでまた胃が痛くなってきましたよ…」


ハヌス「……ふむ。で、それがどうした?」


その問いに、グラバーは待ってましたとばかりに両手を広げた。


グラバー「決まっているじゃないか!」


一歩前に出て、楽しげに宣言する。


グラバー「私はこれから、エサリカへ行こうと思っている」


ギュースケン「……え?」


ハヌス「ほう?」


グラバー「あいつの弟子――センポの帽子を預かっているという青年だ」


ハヌス「梅原ナオ、だったか」


グラバー「そう、その男だよ」


グラバーは新聞から手を離し、どこか楽しげに続ける。


グラバー「私はね、あの面白おかしい、トンデモない帽子を被っている男が、一体どんな人間なのか……。それを見てみたいんだ」


ギュースケン「……人間、ですか」


グラバー「そう。帽子がどうこうじゃあない。あれだけ場を引っかき回す混沌の代物を頭に載せて、それでも平然と外交官をやっている男」


彼はそこまで言うと、にやりと笑う。


グラバー「正直、興味が湧かない方がおかしいだろう?」


ハヌス「秩序を司る立場にある者が、秩序が破綻しているとしか思えん魔道具を被っている。フハハ!たしかに、なんとも皮肉な話ではあるな」


そういうとハヌスは両手を目の前で組んで続ける。


ハヌス「しかしあの青年、少なくとも混沌に呑まれて暴走する類ではなかった」


ギュースケン「……会談中も、終始落ち着いていましたね」


ハヌス「うむ。むしろあの混沌を逆手に取り、私に対してジパングの特産品を売り込んできた」


わずかに口元を緩める。


ハヌス「相手の立場を踏まえ、場の流れを読みながら話を進めていたよ」


グラバー「ほう?」


ハヌス「外交官としての基礎は、すでに身についていると私は感じた」


それは評価だった。

飾り気のない、だが重みのある言葉。


グラバー「なるほどねえ!君がそう言うなら、それなりの男だということか」


ハヌス「それなりどころか、年齢を考えれば、かなり上出来だといえよう」


ギュースケン「……」


ギュースケンは内心小さく驚いていた。

ハヌスが、ここまで明確に人を評価するのは珍しい。


グラバー「ますます興味が湧いたよ!!」


楽しそうに笑い、軽く指を鳴らす。


グラバー「帽子から何が出るかじゃない。その男が、そこから溢れ出した混沌をどう受け止め、どう使い、どう振る舞い、どう状況を転がすか。交渉の場で、活かすか、殺すか」


一歩前に出る。


グラバー「私はね、『一国の外交官として、どれほどの器の男なのか』それを、この目で確かめたい」


ハヌス「……君は本当に、人を見るのが好きだな」


グラバー「へへっ!仕事だからね」


あっさりと言い切る。


グラバー「あいつが作った帽子を被る、案外まともな外交官。是非とも、直接会って話してみたいからねぇ!」


ハヌスは小さく息を吐き、苦笑した。


ハヌス「……確かに。君の言う通りだな」


その様子を、ギュースケンは黙って見ていた。


(……ああ。こりゃあ、また記録書類が増えそうだ。先に胃薬、飲んでおくか……)


ギュースケンは心の中でそう呟きながら、机の上に積まれた羊皮紙の束を、そっと見つめた。

これから、それがさらに分厚くなるであろうことを考えないようにしながら。

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