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第48話 元老院の変わり者

【帝都・元老院議事堂】

バロア帝国の首都・『帝都』。

湖上に浮かぶ城塞都市の中央区画に聳え立つ大理石の建物、元老院議事堂の一室。


赤い絨毯が敷かれ、神々を象ったステンドグラスに光が差し込む執務室。

そこには、机にどっかりと腰掛けた男と、その傍らに立つ眼鏡の青年の姿があった。


ハヌス「最近はなんとも大きな事件もなく、暇だなぁ。ギュースケン君」


エドワード・ハヌス。

帝国外務局における高官であり、以前ナオたちとこの場で会談を行った、帝国側の代表である。


ギュースケン「いやまぁ……平和であるということなんで、いいことなんですけど。帝国の高官が軽々しく暇とか言わない方が……」


ドナルド・ギュースケン。

ハヌスの秘書官であり、ナオたちとの会談では書記官も務めた男。

しかし彼は、会談中に起こった 『帽子の混沌』をいかに記録へ落とし込むかで、相当頭を悩ませることになった人物でもある。


ハヌス「ううむ。だが、帝国はどこかと戦争しとるわけでもないし、各国との通商関係も安定しておる。なんというか……この前のジパング国の使節との会談みたいな刺激が欲しいのだよ」


ギュースケン「勘弁してくださいよ、ハヌス様!あんなのがしょっちゅう身近に起こったら、私の胃が持ちませんよ!!」


それを聞いて、ハヌスは腹を抱えて大笑いする。


ハヌス「フハハハハハ!!そういえば、あのあとギュースケン君、珍しく二日ほど休暇を取っておったなぁ」


ギュースケン「あの『河童とかいう緑色の生物の寿司屋』を、どう記録すればいいのかわからず、胃を痛めたんですよぉ!!」


ギュースケンは頭を抱えたまま、遠い目をする。


ギュースケン「正式な外交記録にですよ?『使節団長の帽子より突如として出現した、緑色の寿司職人らしき存在が、きゅうり巻きのみの弁当を仕込み始める』……こんな文章、誰が信じますか」


ハヌス「信じるも何も、起きたことを書かねば記録にならぬだろう?」


ギュースケン「それが問題なんです!!」


机の上に積まれた書類の束を、ギュースケンは勢いよく指さした。


ギュースケン「この一件だけで、特記事項欄が二枚目に突入した挙句、羊皮紙にぎっしり書く羽目になったんですよ!?しかも、会談内容と全く関係ないですし!!」


ハヌス「うむ。実に実り多い会談だったではないか」


ギュースケン「どこがですか!!」


ギュースケンの嘆きが、執務室いっぱいに響き渡った。

その時。



―――コツ、コツ。



執務室の扉の向こうから、誰かが歩いてくる音が聞こえ始めた。

二人は巡回中の衛兵の足音だろうと思い、気にせず会話を再開しようとする。

だが。



―――コツ、コツコッ、コッ、コツ、コッ。



ハヌス「ん?」


ギュースケン「え?」


明らかに歩き方がおかしい。

普通に歩いているというより、扉のすぐ向こう側でタップダンスでもしているかのような、小気味よいリズムの足音だった。

それを聞いて、ハヌスは何かを察したように、はぁ……とため息を吐く。


ハヌス「またアイツか……。まったく、普通にはできんのかね」


直後。


――コンコン。コン、コンココン、コン!


リズムよくドアをノックする音が響く。


ギュースケン「だ、誰でしょうか…?」


ギュースケンが扉を開けに行こうとするが、それをハヌスが制止した。


ハヌス「良い。構わん、ギュースケン君。ドアなら開いておるぞ、入ってきたまえ」


すると



バーーーン!!



勢いよくドアが開け放たれる。

ドアの向こうには、一人の男が立っていた。



???「ハ~~ヌスくぅぅぅぅぅん!!お邪魔するよ~!!」



クルクルと身体を回転させ、スキップまで挟みながら執務室へ入ってくる、妙に陽気な男。

金髪のウェーブヘアに濃い金色のカイゼル髭。鋭い青い目を持ち、グリーンのスーツと白シャツ、やや崩した赤いシャボタイを着用した中年紳士。

年齢は40代後半~50代前半といったところだろう。


ハヌス「君はもう少し、落ち着いて入ってくるということはできんのかね?」


???「堅苦しいこと言うなよ、ハヌス君!保守的ではなく、変化を受け入れるべきだと、君もいつも言っているではないかね」


ハヌス「君は型破りがすぎると言っとるんだよ。帝国の官僚として、最低限のマナーぐらいは」


???「ははは!相変わらず手厳しいなぁ!」


そのやりとりを眺めながら、ギュースケンは大きくため息をつき、口を開いた。


ギュースケン「それで、グラバー様。本日は一体、どのようなご用件で…?」


グラバー「ああ!!そうだそうだ、と。その前に」


そう言うと、グラバーと呼ばれた男は、こちら――今これを読んでいる我々の方へ向き直り、くるりと踵を返して名乗りを上げる。



「改めて名乗ろう!バロア帝国・東方貿易圏調整官――ジェームズ・グラバーだ!よろしくぅ!」



名乗りを上げ、こちらに向けてピースサインを突き出した。


ジェームズ・グラバー。

帝国外務局の高官の一人であり、ジパング国を含む大陸東方の諸国や島国との通商外交を担う、『東方貿易圏調整官』である。

おおよそ帝国の官僚とは思えない、エキセントリックな性格の持ち主で、良くも悪くも――「型破り」という言葉が、これ以上なく似合う男。


ギュースケン「一体誰に向かって、名乗ってるんですか…‥?」


ギュースケンは呆れた表情のまま、明後日の方向を向いて名乗りを上げるグラバーへ、淡々とツッコミを入れた。

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