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第44話 外交活動報告書

【エサリカ村・ミルミル亭】

トロール討伐の一件から、数日後。

エサリカ村は、拍子抜けするほど平和だった。


ナオは窓際のテーブル席に一人座り、本国へ向けた報告書状を書こうとしていたが、筆先は止まったままだった。


ナオ「ええと……『日没する国より、日出る国に書す』…………なんか、しっくりこんなあ」


カウンター席にはステラとノノが並んで座り、向こう側ではリラがコーヒーを淹れている。


ステラ「ナオちゃん。さっきから、もう30分は筆動かしてないわよ?」


半目で、容赦なくツッコむ。


ナオ「せやねん、聞いてくれる?『日没する国』って西の帝国のこと書こう思ったんやけど、これやとバロア帝国が沈みゆく国みたいに捉えられへんかなあって、ちょっと気になってな」


ステラ「……はあ。そこ気にする?」


リラ「それってジパングに送る報告書なんですよね?わざわざ、そんな書き出しになくても…」


ナオ「分かっとらんなあ、二人とも」


そう言って、ナオは筆をくるりと回す。


ナオ「こんなん、事務的に書いたかて味気ないやろ?事実を、いかに面白く、分かりやすく書いて上に届けるか。それも立派な外交術の一つやで」


ステラ「いやいや!?活動報告に面白さとか、絶対いらないでしょ!?」


ノノ「な、なんだか……すごく……どこかで聞いたことのある理屈なような……」


ノノが小さく首を傾げる。

リラはコーヒーをカップに注ぎながら、くすっと笑った。


リラ「でも……ナオさんらしいですね。真面目な書類なのに、読んで楽しいものにしたいなんて」


ナオ「やろぉ?読む側かて人間や。どうせ読むなら、ちょっとくらい楽しい方がええやん」


ステラ「……それで、その『楽しい報告書』に帽子からでてくるあれこれをどう書き連ねる気でいるのよ」


ナオ「そこは割愛」


ステラ「割愛すんな!事実を書け、事実を!!」


ステラのツッコミが店内に響く。

カウンターでグラスを拭いていたリラが、ふと手を止めてナオに問いかける。


リラ「ところでナオさん、今回のその報告書に書く内容って、この前の帝都の会談の件ですよね?」


ナオ「まあ、それが主だった内容やな」


リラ「その報告書って、ジパングの誰が読まれるんですか?」


ナオ「ああ、将軍様やで」


その名を言った瞬間、ノノの肩は小さくビクリと震えた。


リラ「将軍……様……?」


ステラ「こっちでいう騎士団長みたいな立ち位置の人なの?」


ナオ「いやいや、『将軍』て肩書ではあるけど、こっちでいえば皇帝にあたる人やで」


ステラ・リラ「こ、皇帝!!?」


二人は思わず声をそろえた。


ステラ「皇帝レベルの人が読む報告書なら、それこそ普通に書きなさいよ!!」


ナオ「せやから、内容は普通というか、ちゃんとした事実は書くで?」


ステラ「だったら、なおのこと普通に『ここにご報告申し上げます』でいいじゃない」


ナオ「堅っ苦しい文書読まされても、印象残らんやんかいな」


ステラ「どこを目指してるのよアンタは……」


ツッコミ疲れたのか、ステラはカウンターに頬杖をついた。

その様子を横目に見て、リラはノノへと視線を向ける。


リラ「ねえ、ノノちゃん。文官としては、こういう報告書ってどうなの?形式とか、やっぱり大事なのかしら」


ノノ「え……えっと……事実が、正確に伝わるのであれば……特に、決まった形式にこだわる必要は……ないかと……」


その言葉を聞いた瞬間、ステラが勢いよく顔を上げる。


ステラ「ほら見なさいよ!」


指先でナオを示しながら、ぴしっと言い切る。


ステラ「文官のノノが問題ないって言ってるんだから、アンタのその余計なこだわり、完全に蛇足でしょ」


ナオ「ほんでも、『形式が決まってない』なら、『自由に書いてもいい』ってことやろ?」


ステラ「屁理屈言うな!普通に書けって言ってんの!!」


そこへ、ノノが遠慮がちに、言葉を選ぶようにして口を挟んだ。


ノノ「で、でも……あ、あのお方なら……案外……面白がるかも、しれません……」


ナオ「せやろぉ?」


嬉しそうに頷き、ノノの方を見る。


ナオ「あの方はな、『国民一人一人の個性』を大事にしとるお方や。型にはまった文章より、書いた人間の顔が見える方を好まれる」


それを聞いて、ステラは大きく息を吐いた。

はあ、と分かりやすいため息。


ステラ「考え方はご立派だけどさ……」


再び頬杖をついて、ナオを見る。


ステラ「後で『活動報告は普通に書け』って返事が返ってきても、あたしは知らないからね?」


ナオ「その時は、その時や」


ステラ「まったく……」


呆れた声を漏らしつつも、どこか諦めたように視線を逸らした。

その一方で、ナオはすっかり気を取り直した様子で、筆を構える。


ナオ「お!ええ書き出し思いついた!!じゃあ早速…」


と、その時。



パカッ



ナオの被る帽子のクラウンが、軽い音を立てて開いた。


全員「………あ」


誰もが言葉を失い、視線だけがそこに集まった。

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