第43話 私は持ち帰り派
【エサリカ村・冒険者ギルド】
ナオの帽子から、半身乗り出して現れたのはにこやかな笑顔のピザ配達員だった。
酒場中から、ほぼ同時にツッコミが炸裂する。
ハンス「いや誰だよコイツ!?」
ステラ「届けに来たとしても、なんでそこから出てくるのよ!!」
ティナ「召喚でも……ない?え……ま、魔力反応が……ありません……?」
ドラーク「……理解が、追いつかん」
リラも思わず口を押さえ、その場で固まっていた。
そんな空気などまるで意に介さず、配達員は伝票を確認しながら、続ける。
ピザ配達員「えーっと……ジパング西洋使節団の梅原さんの帽子で、お間違いなかったでしょうか?」
ナオ「おー、合っとる合っとる。すまんなあ、急ぎでってせかしてもうて。そのままこのテーブルに置いてくれる?」
そう言って、ナオは自分たちの卓を指さした。
ピザ配達員「いえいえ、全然大丈夫ですよ!では、こちらに置かせていただきますね」
そう言うと配達員は帽子からさらに身を乗り出し、三つ重ねた白い箱をテーブルの上へ置いた。
ステラ「今、『帽子で』って言ったわよね!?配達先としてカウントされてるの、その帽子!!?」
一方で。
リラ「あ……でも……」
ふわりと漂う香ばしい匂いに、思わず声が漏れる。
リラ、ハンス、ノノは揃ってテーブルに置かれた箱へ顔を近づけ、小さく鼻を動かした。
ハンス「……うおぉ……すっげえいい匂いするじゃん……」
ノノ「……お、お腹が……鳴りそうです……」
混乱と警戒と食欲が、同時に酒場を支配し始めていた。
そのとき、菊左衛門が、どこからともなく紙切れを取り出し、すっと配達員の前に差し出した。
菊左衛門「このクーポンとやら、使えるでござろうか?」
ノノ「……な、なんで……クーポンなんて……持ってるんですか……?」
配達員「あ、はい!一枚半額クーポンですね!もちろん使えますよ!」
全員「使えるんだ……」
さらりと肯定され、酒場に一瞬の虚無が流れる。
配達員「それから、こちらキャンペーン中ですので、コーラを一本サービスでお付けしてます!」
そう言うと配達員は、帽子の中から一リットル入りのペットボトルを一本、ひょいと取り出した。
黒く透き通った液体が、きらりと光る。
リラ「こ、コーラ……?初めて聞く飲み物ですね……」
ステラ「なんか……めちゃくちゃ黒いけど……大丈夫なの、これ!?」
カイはペットボトルを手に取り、素材を確かめるようにじっと見つめる。
カイ「クロイツの時の覆面男が持ってた、金属の筒といい……見たことない材質だ。どういう錬金配合なんだ、これ……?」
ノノは恐る恐るボトルを覗き込み、小声でナオに問いかける。
ノノ「梅原様……こ、これ……醤油では……?」
ナオ「いやちゃうちゃう、大丈夫や!この前俺も飲んでみたけど、これめっちゃうまいで」
ノノ「そ、そうなんですか……?」
そんなやり取りをよそに、配達員は淡々と伝票を確認する。
配達員「えーっと……それでは、お支払いの方を……」
菊左衛門「カードでお願い致す」
そう言って菊左衛門は、懐から硬質な一枚のカードを取り出した。
要するに、クレジットカードである。
ステラ「いやいやいやいや!!過去一、情報が大渋滞してるんだけど!!なにその支払い方!?普通、金貨とか銀貨でしょ!?」
菊左衛門「後払い可能な、魔法の札にござる」
ティナ「ご、護符……!?い、いえ……材質が違いすぎます……!も、もう……何が何だか……」
配達員は慣れた手つきでカードを受け取り、何事もなかったかのように清算処理を済ませると、にこやかに頭を下げた。
配達員「ありがとうございます!それでは、またのご利用お待ちしてますね!」
その言葉を最後に、配達員は帽子の中へと引っ込んでいった。
しばらく、卓に沈黙が流れる。異世界の酒場に、デリバリーピザとコーラのペットボトル。
あまりにもシュールな光景だった。
ティナ「……空間魔法は……自らが作り出した異空間を……」
理論を繋ぎ直そうとするように呟きながら、ティナは目をぐるぐると回し、完全に混乱している。
ハンス「なあ……純粋にその帽子の中、どうなってんのか見てみてえわ」
ドラーク「やめた方が身のためだろうな。常人が覗けば……気が狂いかねん」
ナオは卓に置きっぱなしになっていた黒電話を帽子の中に引っ込め、穏やかに笑った。
ナオ「まあ……とりあえずや。考えるんは後にして、冷めんうちに食べましょうや」
その一言で、全員の警戒の糸が解けたような気がした。
ハンス「……だな。もう腹減ってきて仕方ねえよ」
誰よりも早く、ハンスが白い箱に手を伸ばした。
ハンス「理屈は知らねえけどよ……腹は正直だ」
箱の蓋が開いた瞬間。ふわっと、さらに濃い香ばしさが酒場に広がった。溶けたチーズ、焼けた生地、肉と香草の匂い。
「おお……」「なんだこれ……」「うまそうだな……」
周囲の冒険者たちも、思わずざわめく。
警戒半分、興味半分でステラも覗き込み、次の瞬間、言葉を失った。
ステラ「……見た目は、確かに……おいしそうね」
リラは両手を頬に当て、目を輝かせている。
リラ「すごい……!南部にあるピザとはまた違った感じですね…!」
ナオは嬉々として、ピザの一切れ持ち上げた。
ナオ「いっただきや~す」
そして、ひと口。
ナオ「ああ…これやっぱたまらんのぉ」
その様子を見て、ノノがおそるおそる手を伸ばす。
ノノ「……で、では……わたしも」
小さくちぎって、口に運ぶ。
ノノ「……っ!?」
目を見開いたまま、固まる。
ノノ「……あ、あつ……でも……お、おいしい……!」
ハンスは我慢できずに、がぶりと頬張る。
ハンス「……っは!!なんだこれ!!」
ドラークも一切れ受け取り、一口。
ドラーク「……ほお、うまい。油と塩味が、戦いの後の身体に染みる」
ティナはまだ混乱した顔のまま、コーラを注がれた杯を見つめていた。
ティナ「……黒い……」
ナオ「まあまあ。騙された思て飲んでみいて」
意を決して、一口飲んでみる。
飲んだ瞬間、ティナは思わず顔をしかめた。
ティナ「~~~~っ!?なんですかこれ!?すごいシュワっとします!……あ、甘い…」
ハンス「ハハハ!!なんだその顔!!」
ステラもコーラを口にし、思わず目を見開く。
ステラ「うわっ!?エールの比じゃないわね。このシュワっとする感じ。でも、すごくおいしいわ」
ステラたちの反応をみていた、周囲の冒険者たちが集まってくる。
「なんだそれ!」「俺も食っていいか!?」「見たことねえ飯だぞ!」
リラは慌てて手を振るが、笑顔は止まらない。
リラ「ちょ、ちょっと!みんな順番に……!」
菊左衛門は徳利を置き、満足げに帽子の上で腕を組んだ。
菊左衛門「ふふ……宴とは、かくあるべきよ」
いつの間にか、酒場のあちこちで白い箱が開かれ、ピザが分けられ、コーラが回り、笑い声が弾む。
異世界の理屈も、空間魔法の矛盾も、帽子の引き起こす混沌も今は誰も気にしていなかった。
ただ、うまい飯と、無事を祝う笑い声だけが、エサリカ村の冒険者ギルドに響き渡っていた。
今回で『調査クエスト編』が一区切りいたします。
次回からも、帽子からふざけた混沌が暴れるのは変わりません!




