表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/76

第42話 空間魔法のバグ

【エサリカ村・ギルド集会所】

菊左衛門が帽子の中から取り出した、黒光りする電話機。

それがテーブルに置かれた瞬間、酒場の空気が一斉に凍りついた。


ステラは無言のままそれを見下ろし、やがてゆっくりと口を開いた。


ステラ「……ナオちゃん。それ、何?」


ナオ「いや俺もよく知らんねんけどな、デンワっていう道具らしいで」


ハンス「……デンワ?」


ノノ「で、でんわ……?」


ドラーク「……魔導具……なのか?それは」


ドラークは顎に手を当てて、カイに問う。


カイ「いや、俺も見たことないっすよこんなの!?どう使うんすかこれ……?」


リラも不思議そうに、無言で黒電話を見つめる。


ナオ「まあみといてみぃ。これ、なかなか便利やねん」


ナオは手慣れたてつきで、黒電話の受話器を取り上げ、耳に当てる。

コトン、とダイヤルに指をかける。


ジー……

カラカラカラ……

ジー……


酒場に、聞き慣れない機械的な音が響く。


リラ「え……詠唱しても、ないですよね……?」


ティナ「ええ……そもそも、この道具からは、一切の魔力を感じません……」


最後の数字を回し終え、ナオは満足げに頷いた。しばらくして…。




ナオ「あーもしもし?あ、どーも梅原ですけどもぉ」


「!!!?」


酒場にいた全員が、同時に息を止めた。




ハンス「はっ!?なに……?誰かと喋ってるのか、この人!?」


ナオ「すんませんけど、ミックスクワトロ、Lサイズ三枚お願いしますわ。届け先?あ、この帽子でええです」


全員「「「帽子!?」」」


ナオ「はいはい。あ、急ぎでお願いします。今ちょうど打ち上げ中なんですわ」


カチャン


受話器を置く音が、やけに大きく響いた。


ステラ「な、ナオちゃん!?今の何!!? だれかと話してたの!?」


梅原「ん?あーうん。しばらくしたらピザ来る思うから、ちょっと待っといてーや」


ステラ「来るって何!?誰がくるの!?さっき、この帽子でって言ったわよね!!?」


ドラーク、ティナ、カイ、リラは、無言のままテーブルに置かれた黒電話を覗き込む。


ティナ「オームスには……声を媒介にした遠距離通信の魔法は……古代遺跡の文献に、わずかに記述がある程度で……」


カイ「いや、これマジでどうなってんすか!?ナオさんがさっき耳に当ててたこれで、本当に声が聞こえてたんすか!?」


カイは受話器を握りしめ、ナオに問いかける。酒場の視線が、再びゆっくりとナオと、その帽子に集まっていく。


ナオ「ああ、聞こえとったで。まあ俺も一体どこにつながってるか、わかってへんのやけど」


ステラ「わかってないまま、よくわからないところにピザを注文してたの!?」


ナオ「結果オーライいうやろ?」


ステラ「言わないわよ!!」


そこで、ノノが意を決したように、ナオに声をかける。


ノノ「う、梅原様……そ、それって……もしかして……センポさんが言ってた……」


ナオは一瞬だけ視線を泳がせ、それから帽子を軽く押さえた。


ナオ「……ああ。多分やけど、帽子の空間魔法の副作用やと思うわ」


その言葉に、ティナが思わず声を上げる。


ティナ「く、空間魔法!?あ、あの……未解明な魔術分野の!?」


ティナは驚きのあまり、テーブルに身を乗り出す。


ハンス「空間魔法?なんだそれ」


ハンスが首を傾げる。ティナは慌てて言葉を選びながら説明を始めた。


ティナ「……ええと……空間魔法というのは……異空間に干渉することができる魔術、です……」


カイ「異空間への……干渉?」


ティナ「は、はい……!転移、収納、結界内空間の展開……いずれも、術者が『意図して作り出した空間』を扱う魔術なんです……」


ドラーク「つまり、自分だけが使える別の空間を作れる、ということか」


ティナは指先で空中に図形を描くような仕草をしながら、続ける。


ティナ「はい。つまり……空間魔法とは……既存の世界の中に、別の空間を作り出して干渉する魔術であって……」


そこで、ティナの言葉が止まった。

自分の説明と、目の前の現実。その間にある、はっきりとした矛盾。


ティナ「あ……あれ……?で、でも……それだと……」


視線が、帽子から半身を乗り出している菊左衛門へ向く。


ティナ「菊左衛門さんも……このデンワという道具も……さっきの鉄でできた怪物も……」


帽子を見ながら、目をグルグル回して混乱する。


ティナ「……明らかに……オームスに存在しえないものが……その帽子の中に作られた空間から、出てきていることへの説明が……」


言葉にした瞬間、自分の理論が破綻していることを、ティナ自身が理解した。





\ピンポーン/





そのとき、場違いなやけに軽い音が酒場に響いた。

全員が一斉に音の方を見る。音の発生源はやはりというべきか、ナオの帽子。


全員「............は?」


カイ「な、なんすか...?今の音」


菊左衛門「む?梅原殿、ピザが届いたようでござる!」


ナオ「おー、思いのほか早いなあ」


すると、帽子から半身を乗り出している菊左衛門のすぐ横。その隙間を縫うようにして、ぬっともう一人の人物が顔を覗かせる。


「……え?」


誰かが、間の抜けた声を漏らした。


ピザ配達員「こんばんはー!ご注文いただいた、ミックスクワトロ三枚、お届けに参りました~!」


キャップを被り、黒と赤を基調とした制服姿。両手に白い箱を抱え、にこやかに会釈するその姿は。

どう見ても、普通のピザ屋の配達員。


全員「「「いやいやいやいやいや!!??」」」


酒場中から、ほぼ同時にツッコミが炸裂した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ