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第40話 今宵は宴ぞ!!

【エサリカ村・冒険者ギルド】

ステラが乾杯の音頭を取ろうとした、その瞬間だった。

ナオの被る黒いシルクハットが、パカッと小気味よい音を立てて開く。


酒場にいた全員が、笑顔のまま固まった。


ステラ「……ナオちゃん」


カイ「このタイミングでですか……」


ナオは思わず額に手を当て、天井を仰ぐ。


ナオ「頼むから……今日はもう大人しくしといてくれや……」


しかし、その願いをあざ笑うかのように。


カン。

カン、カン。


乾いた、規則正しい木を打つ音が、帽子の奥から響き始めた。

一定のリズムを刻む、あまりにも聞き覚えのある歌舞伎のツケ打ち。


「……今の、なんだ?」「太鼓か? いや、違うな……」「木の音がしたぞ?」


冒険者たちがざわつく中、ナオだけが深いため息をつく。


ナオ「……しかも、よりによってあいつかいな……」


帽子の内側で、何かがずずずっとせり上がってくる。ツケ打ちが、さらに一拍。


カンッ!


「控えおろう!」


よく通る、無駄に張りのある声が、酒場に響き渡った。


「ここは戦の後の祝宴。杯を掲げる晴れの場にて、無言で固まるとは」


カン、カン!


「おい誰か出てくるぞ!?」「噂には、聞いてたけど……人まで出るのか、あの帽子?」


ツケ打ちの音とともに、黒いシルクハットの内側から、ぬっと半身を現してきたのは。


黒い着流し、赤を基調とした隈取、鋭い眼差しと、やけに決まった見得を切る男。


菊左衛門「なんとも!あ、野暮というものよ!」


カカンッ!!

帽子の住人こと、菊左衛門だった。


ナオ「いや、お前が固まらせたようなもんやからな?なんちゅうタイミングで出てきとんねん、菊左衛門」


ステラはジョッキを掲げたまま、半目になって大きく息を吐く。


ステラ「……また現れたわね、帽子の住人」


ハンス「な、なんだ!?あの変なメイクの男」


ドラーフ「謎に圧があるな……。できる…」


ティナ「ぼ、帽子の住人って…?え、ええと……住んでる人がいらっしゃるんですか…?その帽子の中に……?」


三人は、それぞれまったく違う方向で困惑していた。


ナオ「ほんでお前、何しに出てきたねん」


菊左衛門は、隈取の奥で目を細め、さも当然という顔で答える。


菊左衛門「無粋な問いにござるな、梅原殿!戦の後に集いし者どもが、杯を掲げようとしておるッ!!」


そう言うと菊左衛門は帽子の中へと腕を突っ込みずるっと何か壺のようなものを引っ張り出す。

出してきたのは、『大吟醸』とでかでかと書かれた徳利だった。


「おい、酒まで入ってんのかよ!?」「その帽子どうなってんだ!?」


ざわめく冒険者たちをよそに、菊左衛門は得意げに徳利を掲げる。


菊左衛門「ならば、その音頭を取る者が必要であろう?」


ナオ「せやからやな?今まさにステラが取ろうとしてたところをお前が邪魔して、この変な空気になっとるねん」


菊左衛門は一瞬片眉をあげて、ふっと笑った。


菊左衛門「……ほう?ならば尚のこと、この菊左衛門が引き受けねばなるまい」


ナオ「話聞いてたか今!?」


ステラはジョッキを持ったまま、深く、深くため息をついた。


ステラ「……ナオちゃん、もういいわよ。どうせ止めても聞かないでしょ」


カイ「完全に主導権持ってかれてますね……」


ノノは徳利を見つめ、小さく呟く。


ノノ「……あの……そのお酒……どこから……?」


菊左衛門「ノノ殿!細かいことは気にするなかれ!宴とは、勢いでござるッ!!」


菊左衛門は徳利を高々と掲げ、酒場をぐるりと見渡した。


菊左衛門「さぁ諸君!杯は手にしておるか!」


なぜか全員、反射的にジョッキを持ち直してしまう。


ナオ「……なんで皆、普通に従ってもうてんねん……」


リラ「ふふ。まあまあ、菊左衛門さんも楽しそうですし」


菊左衛門「今宵、ここに集いしは剣を振るいて、悪を成敗し!村を護りし英雄たちよ!!」


冒険者たちの背筋が、なぜか伸びる。


「……言い方は大げさだが」「ま、まあ悪い気はしねえな」


菊左衛門は勢いそのまま、畳みかける。


菊左衛門「ステラ殿たちが見せし、刃の冴え!恐れを呑み込み、前に立ち続けたその胆力!」


カン、カン!


菊左衛門「呼応するがごとく集いし勇士らの、息の合った援護と連携!剣も、槍も、魔術も!一つとして無駄な働きはなかった!!」


一拍、間を置き。


菊左衛門「そしてノノ殿よ!」


その名を呼ばれた瞬間、ノノの肩がびくりと跳ねる。


菊左衛門「武を振るわずとも!刃を持たずとも!走り、叫び、村を守らんと駆け抜けた。その勇姿ッ!!」


ノノの顔が、湯気が出そうなほど真っ赤になる。


ノノ「え、え……!? そ、そんな……!」


カンッ!


菊左衛門「それこそがっ!この戦で最も尊き働きでござる!!」


一瞬の静寂。そしてほどなくして、どこからともなく拍手が起こり始める。


「よくやったぞ!」「頑張ってくれてたわね!」「小鳥に変身してたのびっくりしたぞ!」


ノノは両手で顔を覆い、完全に固まっていた。


ノノ「や、やめてください……!ほ、褒められるの……慣れてなくて……!」


ステラはその様子を見て、思わず苦笑する。


ステラ「……まったく、やりすぎよ」


カイ「……なんで無駄に口上うまいんすか、この人……」


菊左衛門は、その言葉を誉め言葉として受け取り、満足げに腕を組んだ。


菊左衛門「褒めるときは、全力で褒めねば無粋であろう?」


ナオ「まあそれは同意見やな」


ナオは帽子のツバを軽く摘まみ、まっすぐノノを見て微笑む。


ナオ「今日のノノはな、ほんまに……最高にかっこよかったで!」


ノノ「そ、そんなぁ!?う、梅原様まで……やめてくださいいい!!」


両手で顔を覆い、わたわたと身を縮めるノノ。

その様子に、酒場からどっと温かな笑い声が上がった。


「ははっ、照れてる照れてる!」「いいじゃねえか、今日くらい!」「かわいいー!」「ほら、誇れ誇れ!主役なんだからよ!」


ステラはその光景を眺めながら、柔らかく微笑みながらリラに声をかける。


ステラ「……いい夜になりそうね」


リラも、木製のトレイを手に持ったまま、ほっとしたように笑った。


リラ「ええ。こんなふうに笑える結果になって……ほんとによかった」


その言葉を待っていたかのように、菊左衛門は徳利を再び高く掲げた。


菊左衛門「さぁ皆の衆!改めて、今宵は祝いの宴よ!飲めや!踊れや!笑えや!」


そして、くわっと隈取の奥の目を見開き。


菊左衛門「乾杯ッ!!!」


カンッ



「「「かんぱーーーーーーーーーい!!!」」」



こうして、エサリカ村・冒険者ギルド集会所二階酒場にて、超大型トロール討伐の打ち上げは、賑やかに幕を開けたのだった。

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