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第39話 乾杯の音頭は誰の手に!?

【エサリカ村・冒険者ギルド 二階・酒場】

報告を終えたステラたちは、ギルド二階の酒場へと上がってきていた。

木の階段を踏みしめるたびに、笑い声と酒の匂いが濃くなっていく。


酒場ではすでに、援護に駆けつけた冒険者たちが各卓を占拠し、ジョッキを掲げていた。


「お! 来た来た、主役の登場だ!」「待ってたぜステラ! 無事でよかったな!」「トロール相手にあそこまで粘るとは思わなかったぞ!」


一斉に向けられる声と視線に、ステラは一瞬だけ目を瞬かせてから、苦笑いを浮かべた。


ステラ「まったくみんな大げさよ。ただの調査クエストのつもりが、ちょっと厄介になっただけだし」


「そのちょっとが普通じゃねえんだよ!」「落雷魔法のあと、一気に畳みかけた動き、見事だったぜ!」


ドラークは無言で頷き、ハンスは照れもなく片手を上げる。


ハンス「まあな! 俺の槍も、今日はいい仕事したぜ!」


ティナは少し顔を赤らめながら、小さく頭を下げた。


ティナ「み、みなさんの援護があったからです……」


その控えめな声に、周囲から柔らかな笑いが起こる。


「後衛が踏ん張ってくれたから、俺たちは安心して前に出られたんだよ!」「立ち話はそれぐらいにして、飲もうぜ!」


ティナは戸惑いながらも、ほっとしたように胸の前で手を重ねた。

ジョッキの音と笑い声が交錯する中、カウンターの奥から、軽やかな足音が近づいてきた。


「みなさん、お疲れさまです」


その柔らかな声に、ステラたちは振り返った。


エプロン姿のリラが、木製のトレイに料理を載せて立っている。

いつものミルミル亭の制服よりも、少し動きやすそうな簡素な給仕姿だった。


リラ「今日はみんな大変だったでしょう?急でしたけど、お手伝いに来られてよかったです」


そう言いながら、次々と卓に料理を並べていく。

焼きたての肉の香ばしい匂いと、温かいスープの湯気が、酒場の空気をさらに和ませた。


「おお、リラじゃねえか!」「ミルミル亭の飯だ!」「今日は豪勢だな!」


リラはくすっと笑い、軽く頭を下げる。


リラ「冒険者ギルドさんから依頼の依頼なんです。今日は打ち上げ用に、いつも以上に腕を振るってますよ」


その言葉に、あちこちから歓声が上がる。

ステラはその様子を見て、ふっと表情を緩める。


ステラ「ありがとう、リラ。ただの調査のつもりが、大事になっちゃったわね」


リラ「なに言ってるのよ、ステラちゃん。村のために頑張ってくれたんだから、これくらい当然よ!」


その視線が、順にドラーク、ハンス、ティナにも向けられる。


リラ「皆さんも、無事で戻ってきてくれてよかったです。本当に……」


それを聞いて、三人は静かに笑った。

直後、階段を上がってくる足音が、今度は複数重なって聞こえてきた。


ステラ「……あ、来たわね」


ステラがそう呟くのとほぼ同時に、酒場の入口に姿を現したのは、黒いシルクハットを押さえながら息を整えるナオと、その後ろに続くカイ、そして少し遅れてノノだった。


「お、外交官殿も来たぞ」「例のトンデモ帽子の人だ!」「今回出てきたのはいつも以上に衝撃だったなぁ!」


一斉に向けられる視線と声に、ナオは帽子のつばをつまみ、穏やかだが少しばつが悪そうに微笑む。


ナオ「いやぁ…さっきはすんませんなぁ。とりあえず、全員怪我はなくって…よかったですわ」


どこか歯切れの悪い挨拶に、周囲からくすくすと笑いが漏れた。

そのとき、リラがトレイを抱えたまま、三人に気づいて声をかける。


リラ「あ、ナオさん、カイさん、ノノちゃんも!みんなお疲れさま」


柔らかく、いつもの調子で。


リラ「今日は本当に大変だったでしょう?さあ、ちゃんと座って。あったかいもの、すぐ持ってくるから」


ステラ「そうそう!もう終わったわけだし、楽しみましょ!」


その一声に、酒場の空気がふっと軽くなる。


「そうだそうだ!」「せっかくの勝利だ、飲まなきゃ損だろ!」「今日は浴びるほど飲むぞー!!」


誰かがそう叫ぶと、笑い声が一気に広がった。それを見て、ノノが思わず小さく呟く。


ノノ「あ……あの……私も……参加していいのでしょうか……?」


ステラとリラは一瞬きょとんとした顔を見せる。だがすぐに、それは揃って柔らかな笑みに変わった。


ステラ「なーに言ってるのよノノ! そんなの、いいに決まってるじゃない!」


にっと笑い、続ける。


ステラ「それどころか、今日の主役はノノよ?」


ノノ「え、ええっ!?」


ノノの声に、周囲の冒険者たちも一瞬きょとんとした顔を向けた。

だが次の瞬間、あちこちから笑い声が上がる。


「何言ってんだよ!」「村に応援を呼びに行ってくれたの、あんただって聞いたぜ?」「いなきゃ、今ごろ村もどうなってたかわからんぞ!」


ノノは、思わず目をぱちぱちと瞬かせる。


ノノ「そ、そんな……私、走り回ってただけで……」


ステラはノノの肩にぽんと手を置き、にっと笑った。


ステラ「それが一番大事なの。ノノが必死に呼びに行ってくれたから、みんなが来てくれたし、ナオちゃんたちも避難の指示を出せたんだから」


カイ「まあ、その途中で帽子からとんでもないものが出て、戦況が盛大に狂ったんすけどね」


カイは半目でにやつきながら、ナオと帽子を交互に見やる。


ナオ「いや、それで一応勝てたねんからええやんかいな!!掘り返さんといてや!」


酒場にドッと大きな笑い声が響く。


リラ「さあ、みんな座って! お料理が冷める前に、飲み物も持ってくるわ。ノノちゃんにはオレンジの搾りジュースを持ってくるわね」


ノノ「あ、ありがとうございます!」


ノノはそう答え、少し照れたように、でも嬉しそうに笑った。


リラが手際よく飲み物を配り終えると、卓の上にはそれぞれのジョッキや杯が並んでいく。

泡立つエール、果実のジュース、薄い琥珀色の帝国産の蒸留酒。


ステラはジョッキを手に取り、軽く咳払いをした。


ステラ「じゃあ、改めて」


自然と、酒場の視線が彼女に集まる。


ステラ「みんなで村を守れたことに。そして、ノノの勇姿に」


そう、乾杯の音頭を取りかけた、その瞬間。



パカッ



聞き覚えのありすぎる音が、妙に乾いて酒場に響いた。

酒場のあちこちで動きが止まり、全員が笑顔をひきつらせる。

そして、視線は一斉にナオの頭上の、黒いシルクハットへと向けられた。

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