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第38話 地獄の報告会

【エサリカ村・冒険者ギルド】


「えっと……すいません。もう一度、お願いできますか……?」


受付嬢は、手にした報告書と、目の前に並ぶ面々を交互に見比べながら、困惑した笑みを浮かべていた。


ステラ、ドラーク、ハンス、ティナ。

そしてその後ろに、気まずそうな表情のナオ、ノノ、カイが控えている。


「……どこから説明すればいいんでしょうか」


ティナが、かすかな声で呟いた。


「そりゃまあ最初からだろ」


間髪入れず、ハンスが答える。


「ふむ。だが最初から話すとだな」


腕を組んだドラークが、真顔のまま続けた。


「『夜に不審な音がするため調査に向かった』から始まり、途中で『高速で走る鉄の大蛇が戦場に突っ込んできた』という話になる」


受付嬢のペン先が、ぴたりと止まる。


「て、鉄の……大蛇……?」


「ええとですね」


ナオが一歩前に出て、軽く咳払いをした。


ナオ「まあなんちゅうたらええんやろねぇ。まず、ステラたちがうちのノノ連れて、旧鉱道の調査クエストに向かったんですわ」


受付嬢「はい、たしかに今日の昼間に受注された案件ですね」


受付嬢が、報告書を確認しながら、こくりと頷く。


ナオ「で、坑道の中に、あのめっちゃデカいトロールがおったんやんな、ステラ?」


ステラ「ええ、あいつが坑道の内部を岩で広くして、自分の住処にしていたみたい」


受付嬢「はい。その点につきましては、他の冒険者の方々からも報告が上がっております」


ノノ「そ……それで……わ、私が……村に戻って……応援を呼びに行きまして……」


ティナ「そうです。その結果、ギルドの冒険者さんたちが援護に駆けつけてくれました」


受付嬢「ええ。そこまでは、状況として理解しております。…ですが」


受付嬢はペンを持ったまま視線を上げ、眉をひそめた。


ハンス「まあ、問題はここからだよな」


ステラ「ほらナオちゃん。説明、続けて」


ナオ「あ、はい」


ナオは一度深呼吸してから、続けた。


ナオ「ええとですねえ。自分が村で避難の対応をしとりましたら、またこの帽子が勝手に開きまして」


その瞬間、受付嬢は何かを悟ったように、額を押さえた。


ナオ「ほんでですねえ。私の帽子から、『鉄でできた道』みたいなんが旧鉱道の方に向かって伸び始めまして」


一拍おいて、ナオは苦笑いを浮かべる。


ナオ「その上を……帽子から出てきた、全長二百メートルほどの鉄の塊が……」


言葉を選ぶように、間を置き。


ナオ「……見たこともない速度で、通過しました」


ギルド内の空気が、完全に凍りついた。


「……すいません。一応、確認なんですが……」


受付嬢は、ゆっくりと顔を上げた。


受付嬢「それは……魔物、ではなかったのですよね……?」


カイ「魔物ではなかったっすね……。一瞬しか見えなかったっすけど、たぶん何かの魔導機構だと思います」


受付嬢「……被害は?」


ナオ「人的被害は、ゼロです」


受付嬢「……建物の損壊は?」


ナオ「奇跡的に、無傷やったわ」


そこまで聞いて、受付嬢は思わず大きく息を吐いた。


受付嬢「……トロールは、討伐されたとのことですが。倒し方は?」


ステラ「その鉄の怪物が起こした突風でよろめいているところに、援護に来てくれた魔術師が落雷を入れて。そこへ前衛が総攻撃しました」


沈黙。

受付嬢は、しばらくペンを握ったまま動かなかったが、やがて覚悟を決めたように、ゆっくりと報告書を閉じた。


受付嬢「……本件、上にどう報告すればいいのか。正直、私にも分かりません……」


「ですよね~~~~」


全員が、心の底から同情の声を上げた。


ハンス「ちなみに、なんだけどさ」


受付嬢「はい?」


ハンス「これ、『トロール討伐成功』ってことで、ちゃんと報酬は出ますよね?」


一瞬間があったが、受付嬢は報告書を確認し頷く。


受付嬢「あ、はい。それはもちろんです!今回は『調査』クエストの報酬に加えて、『超大型トロール討伐』としての追加報酬が特別支給される手筈になっています」


ステラとハンスは、顔を見合わせ


「しゃあああ!!」


同時に、ガッツポーズを決めた。


ドラークは腕を組んだまま、静かに頷く。


ドラーク「命を張った甲斐はあった、ということだな」


ティナも胸に手を当て、ほっとしたように息を吐いた。


ティナ「よ、良かった……。本当に……」


受付嬢は再び報告書を開き、ゆっくりと視線を下ろす。


受付嬢「本日の件は『旧鉱道周辺にてトロールを確認、調査中に戦闘へ移行』、『増援合流後、魔術および前衛連携により討伐成功』……という形で、まとめさせていただきますね」


「助かります!!」


その場の全員が、即座に食い気味で頷いた。


受付嬢は一瞬だけ言葉を切り、視線をナオに向ける。


受付嬢「……なお」


ナオ「はい」


受付嬢「途中で発生した『謎の現象』につきましては……備考欄に、最大限やんわり書きます」


ナオは、深々と頭を下げた。


ナオ「ほんま、ありがとうございます……」


受付嬢は、ふっと苦笑いを浮かべる。


受付嬢「まあそれでも備考欄だけで、3枚目埋まりそうではありますが…」


ナオ「それはほんますいません」


そのやり取りを最後に、ギルド集会所の空気はようやく緊張を解いた。

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