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第37話 無駄に丁寧な言い逃れ

【エサリカ村外れ・森の中】

4メートル級のトロールが倒れ伏した戦場へ、複数人が駆けてくる足音が近づいてくる。その気配を感じ取った瞬間、ステラは思わず深く息を吐いた。


ステラ「……来たわね。元凶が」


「びっくりしたぁ!!なんやねん今の、ほんまに!!カイくん、これ帽子裂けてへん!?なあ、裂けてへん!?大丈夫!?」


半ば叫びながら森を飛び出してきたのは、黒いシルクハットを押さえた青年・ナオだった。

その隣で、息を切らしながら必死についてくるカイが、即座に叫び返す。


カイ「いやいやいや!今それどころじゃないでしょナオさん!!あんなの人にぶつかったら死ぬっすよ!?トロールどころの話じゃないっす!!」


二人のやり取りを横目に、その横を小鳥の姿のまま並走する影が一つ。


ノノ「す、ステラさんたちに……お怪我がなければ……いいんですが……」


羽ばたきながら、必死に声を振り絞るノノ。ステラは剣を肩に担いだまま、三人(と一羽)をじっと見据える。


ステラ「……ナオちゃん」


声は静か。だが、明らかに怒りを圧縮した音だった。


ステラ「今、ここで納得いくように説明してもらえるかしら?」


ナオは、ようやく青筋を浮かべて見据えるステラの視線に気づき、ぴたりと動きを止めた。


ナオ「あ、ステラ……。あ、いや、ステラ様……」


その場で、カイもノノも完全に固まる。

ノノは思わず変身が解け、人の姿に戻ったまま、ぶるぶると震え出した。倒れ伏すトロール、焦げた地面。そして呆然と立ち尽くし、成り行きを見守る冒険者たち。

ナオが、そっと帽子を押さえながら口を開く。


ナオ「ええっとなぁ、とりあえず言い訳よろしいか?」


ステラ「ダメ」


にっこりと笑って即答する。その一言に、周囲の冒険者たちやハンス・ドラーク・ティナまでもが一斉に察した。


(…ああ。これ、トロールより怖いやつだ)


ステラは、ゆっくりとナオに歩み寄った。剣はもう鞘に収まっている。

それが逆に怖い。


ナオ「ええとなんと説明すれば、よろしいかわからへんねんけど…。ああ、いや、わからないんですがね…」


ステラ「大丈夫。自分のペースで、ゆっくり説明して」


言葉は優しい。だが、トーンは低い。


ナオ「村で避難の呼びかけしよったら、また勝手に帽子が開きまして…」


ステラ「でしょうね」


ナオ「そしたら、今度変な『鉄の道』が帽子から森の方に向かって伸び始めましてね?」


ステラ「うん」


ナオ「ほんでまぁ…なんと言いますか。その…ね?あのでっかい鉄の塊が…猛スピードで帽子から飛び出してきまして……」


そこまで聞いて、ステラは再び深いため息を吐いた。


ステラ「それで、その鉄の怪物が私たちの元に突っ込んできたと?」


ナオ「その通りでございます」


顔を引きつらせながら、苦笑いを浮かべるナオ。ステラは無言で一歩踏み出し、ナオの頭上へと手を伸ばした。

すっと、シルクハットを脱がせる。


ステラ「ノノ。これちょっと持ってて」


ノノ「は、ひゃい!?」


声を裏返しながら帽子を受け取るノノ。ステラは、拳にふぅっと息を吹きかけた。

次の瞬間。


ガツンッ!!


ステラはナオの頭に思い切りゲンコツをお見舞いした。


ナオ「いってええええええ!?」


ステラ「アンタの帽子、ほんとどうなってるのよ!?」


ステラの怒声が炸裂する。


ステラ「結果的にトロールを倒す隙が作れたから、良かったものの!逃げ遅れたら、私たちアレに撥ねられてたのよ!?わかってるの!!?」


カイ「いやそれはほんと…全面的に同意見っす……」


カイが遠慮なく頷く。ナオは頭を押さえながら、涙目でステラを見る。


ナオ「いや俺もやで…?まさかあんなもん出てくると思わんから、防ぎようなかったんやって。帽子のバグやねん」


ステラ「そのバグが致命的にヤバいから管理しろって言ってるの!!」


周囲の冒険者たちがざわめく。


「あれ、さっきの外交官だよな?」「え、あの鉄の大蛇あの帽子から出てきたの!?」「召喚魔法とも違う……魔力を全く帯びていませんでした……」


二人の間に、ノノが恐る恐る割って入る。


ノノ「あの……梅原様……」


ぎゅっと手を握りしめ、上目遣いで尋ねる。


ノノ「……そのバグって……ちゃんと、直る……んですかね……?」


ナオは、ほんの一瞬だけ視線を逸らした。そして、背筋を伸ばし、口調を切り替える。


ナオ「ええ、非常に重要で。かつ、慎重に扱うべきご質問だと思いますので回答を述べさせていただきます」


ハンス「嫌な前置きだな……」


ティナ「きゅ、急に外交官っぽくなりましたね…」


ハンスとティナが小声で呟く中、ナオは気にせず淡々と続ける。


ナオ「今現在、持ち主である私自身においても、この帽子による謎の干渉現象を完全に制御できる手立ては、残念ながら持ち合わせておりません」


周囲の冒険者たちが、ざわっと息を呑む。


ナオ「しかしながら」


間を置いて、ナオは続ける。


ナオ「帽子による現象の再発防止に向けましては…。前向きに、かつ、継続的に検討していきたいと。そのように考えております」


一拍。

次の瞬間。


「「ダメな政治家みたいな回答するじゃん!!」」


冒険者たちのツッコミが、一斉に炸裂した。

ステラは、はぁ……ともう一度深いため息を吐き、半目でナオに視線を向ける。


ステラ「前々から、その……おかしなものが飛び出してくる現象が治らないってのは何度も聞いてるしね」


そう言いながら、ノノに預けていた帽子を受け取り、ナオの頭に、そっと被せ直す。


ステラ「まあ、これのおかげでトロールを倒せる好機を作れたのは事実だし、村も守れたんだから……今回は、これ以上は何も言わないわ」


ナオは、ほっとしたように肩の力を抜いた。


ナオ「す、すまんかったなぁステラ。村を守ってくれて、ありがとうな」


ステラ「ただし」


ステラは指を立てる。


ステラ「ギルドへの報告には、ナオちゃんも一緒に立ち会いなさいよ」


ナオ「は、はい……」


即答だった。

周囲の冒険者たちは、どこか納得したように頷き合う。


ハンス「まっ!あんな混沌とした戦況結果、説明役が必要だよな」


ドラーク「どこから何をどう説明すればいいのか……正直、わからんがな」


ティナ「そこはもう……外交官様にお任せしましょう…」


夜の森には、倒れ伏したトロールと、焦げた地面、そして、ようやく訪れた戦いの終わりがあった。

こうしてステラたちが受けた『夜間の旧鉱道に響く不審な音を調査せよ』というクエストは、誰も予想しえなかった形で、完了したのだった。

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