第35話 村を守り抜け!
【エサリカ村はずれ・旧鉱道前】
坑道入口近くの森で、ステラたちは必死に4メートル級のトロールを引きつけていた。
地面を揺らすその巨体に対し、ステラは剣を低く構え、獣の視線をひきつける。
「こっちよ、デカブツ!村へは行かせないわ!」
挑発に応じるように、トロールが唸り声を上げて踏み出す。ステラは深く踏み込みすぎず、間合いに入りすぎないよう、斬っては離れ、離れては斬るを繰り返す。
やがて、トロールの意識が完全に彼女へ向いたとき、ステラが叫ぶ。
「今よ! 左脚を叩いて!」
合図と同時に、横からオークの斧使い・ドラークが踏み込んだ。
「……倒れろ」
振り下ろされた大斧が、トロールの膝を叩く。巨体がわずかに揺れ、獣の悲鳴が森に響く。
「ふうむ、浅いな……。だが、これで動きは鈍る」
「こっちを見やがれ!!」
今度は背後から、槍使い・ハンスが突進する。長槍を低く構え、腹部へ鋭く突き出した。
だが、深くは刺さらない。
「チッ……皮が分厚いな!」
それでもハンスは引くことなく刺して、引いて、間合いの外へ跳ぶ。ステラもまた、同じ動きを繰り返し、決して正面から踏み込まない。
怒りに任せたトロールが、二人に向かって腕を大きく振りあげた。
「防御、展開します!」
後方から、エルフの僧・ティナが叫ぶ。
「嵐の神よ、守りの祝福を!」
淡い光と渦巻く風が、ステラとドラークを包む。直後、丸太のような腕が叩きつけられたが、二人は吹き飛ばされることなく、踏みとどまった。
「助かったわ、ティナ!」
「回復も続けます! 無理しないでください!」
森の木々がなぎ倒され、地面が抉られていく。もう、長くはもたない。
ここにいる全員が、それを理解していた。
(くそ……このままじゃ……突破される)
トロールがパーティを叩き潰そうと拳を振り上げ、ステラが歯を食いしばった。
その時、一本の矢がどこからか飛んできた。矢はトロールをかすめただけだが、ステラたちに振り上げられていた拳が一時的に止まる。
続いて森の奥から、複数の足音がはっきりと混じり始めた。一つや二つではない。
トロールもまた動きを止め、別方向を警戒するように唸る。
「ひょっとして……!?」
「前衛、展開!!」
張りのある号令が夜の森に轟く。たいまつの灯りが、木々を照らしながらギルドの冒険者たちが姿を現した。
「遅くなった!」
剣士が叫び、トロールの視界に割って入る。
「話は外交官殿から聞いてるわ!」「俺たちも加勢するぞ!!」「目標! 超大型トロール一体!!」
戦況は、一気に変わった。
「いくわよ、バケモノ!」
人間の魔術師が杖を掲げる。
地面が淡く光り、そこから魔力の鎖が何本も噴き出した。
他の魔術師たちもそれに続き、鎖はトロールの胴、腕、脚へと絡みつく。完全には止まらないが、確実に動きが鈍る。
「長くはもたない! 一気に畳みかけろ!!」
誰かの叫びが戦場を切り裂く。ステラは小さく息を吐き、剣を握り直した。
「……ノノ。信じてたわよ」
そう呟き、前へ出る。
「皆、来てくれてありがとう!」
「礼は後だ!」「まずはこいつを倒す!」「援護は任せて!!」
冒険者たちが一斉に応え、総攻撃が始まる。
剣士が左右から斬りかかり、斧が肩へ叩き込まれ、槍が腹部へ突き立てられる。空からは矢が降り、魔術師の火球が巨体の中央に命中した。
爆発と衝撃が重なり、トロールの身体が大きくのけぞる。
だがトロールの目が、怒りで赤く染まった。
グウウウウウウウオオオオオオ!!
耳を裂く咆哮。
魔力の鎖が、一本、また一本と引きちぎられていく。
「鎖が……っ!」「ダメだ、力が強すぎる!」
魔術師たちが苦悶の声を上げ、膝をついていく。トロールが大地を強く踏み鳴らす。
「なんて馬鹿力だよ、こいつ!?」
「みんな、聞いて!」
エルフの魔術師が叫ぶ。本を開き、足元に魔法陣を展開していた。
「奴を完全に止めるには、気絶させるしかない!私が落雷の魔術を詠唱する、その間時間を稼いで!!」
全員が応じ、さらに引きつけに向かう。だが、地面をトロールが踏み鳴らした衝撃でティナが後方で倒れ込み、周囲の冒険者たちも杖を取り落とした。
「きゃあっ!?」
「しまった!? 後衛が!」
トロールの視線が、はっきりと後衛組を捉える。
「まずい、狙いを変えたぞ!!」
地面を砕きながら、トロールが突進する。
ステラ「ティナ、逃げて!!」
ティナ「ぼ、防御を……! このままじゃ……!」
地面の揺れで、身体が思うように動かない。
トロールの巨体がすぐそこまで迫り、後衛たちは思わず頭を抱えた。
カン、カン、カン、カン、カン……
その時夜の森に、規則正しい聞き慣れない音が響き始めた。鍛冶屋の金槌とも、武器の音とも違う無機質な金属音。
「……なに、この音?」「どこから……?」「それより、トロールは!?」
冒険者たちが見ると、トロール自身も音に戸惑うように周囲を見回している。さらに村の方向から、ゴォオオオオ!!という轟音。
彼らにとっては未知の音。だが、それは我々の世界では、ごく日常的な音である。
「お、おい……あれ、なんだ!?」
弓使いが叫ぶ。
村の方から、眩い光を放つ何かが、猛スピードで迫ってきているのが見えた。




