第34話 たまには役立つ魔道具
【エサリカ村・広場】
ノノの知らせを皮切りに、広場にいた子供たちと村人たちは慌ただしく避難を始めていた。そんな中、帽子の上から、思わぬ助っ人の申し出が落ちた。
リラ「協力してくださるのは、ありがたいですが……」
カイ「一体、何をする気なんすか……?」
レッド「そのギルドとやらに知らせに行くのだろう?だが、今から走っていては時間がかかりすぎる」
怪人「そこでだ。……ちょっと、いいものがある」
そう言うと怪人の男は、ためらいもなく帽子の奥へと腕を突っ込んだ。
ずぼっ
カイ「いや、ちょ……。人が半身そこから出てくるだけでも十分異常なんすけど、今度は何を」
怪人「お、あったあった」
引き抜かれた手に握られていたのは、小さなチャイムと、帽子の中へと繋がった一本のマイク。
カイ「……え?」
リラ「……それ、なんですか……?いったい、どこから……」
ナオ「……ほんま俺もこの帽子の中、どないなっとんか把握しきれへんわ」
怪人役の男はマレットを掴み、躊躇なくチャイムを鳴らした。
ピンポンパンポンパーーーーン
澄んだ音が、夜の村に響き渡る。続いて、ヒーロー男ことブレイバー・レッドがマイクを握り、スイッチを入れた。
レッド『緊急連絡~、緊急連絡~』
広場に、そして村全体に、はっきりとした声が響く。
レッド『ギルドのみなさまに、お知らせいたします。村はずれ、旧鉱道付近にて大型トロールが暴れております』
村の空気が、一瞬で凍りついた。
レッド『現在、冒険者数名が現地で足止め中。至急、武装の上、旧鉱道前までお集まりください。繰り返しお知らせいたします…』
放送が終わり、しばしの沈黙が続いたが。
カイ「……え、これ……普通にめちゃくちゃ有能じゃないっすか!?」
リラ「ええ……想像以上に」
ノノ「……た、多分……村中の人に……聞こえたと思います」
怪人役「ふふん!どうだ、役に立っただろう?」
レッド「正義は、迅速さが命だからな!」
ナオ「なんでコイツ(帽子)は極まれに、めっちゃええ仕事するんや」
そう呟きながらも、ナオは二人を見上げ、ほんの一瞬だけ目を細めて笑った。
ナオ「……せやけど、助かったわ。ほんまに」
帽子を、深く被り直す。
ほどなくしてギルド集会所のある東通りの方から、複数の人影が駆けてきた。大剣を背負った人間の剣士、詠唱を口にしながら走るエルフの女性魔術師、弓を抱えた獣人の冒険者。
装備を整えた、ギルドの冒険者たちだった。
「今、天からの知らせが聞こえたのだが!?」「旧鉱道って、あの閉鎖された鉱山だよな!」「ステラたちが調査で入ってるはずだ!」
カイ「ナオさん…」
ナオ「ん?」
カイ「俺、今だけは……その帽子のこと、ちょっと見直したっすよ」
それを聞いたナオは、思わず吹き出した。
ナオ「ハハハ!それ聞いたら、センポさんも空の向こうで笑いはると思うわ」
そう言ってから、ナオは一歩前へ出る。集まった冒険者たちの前に立ち、背筋を伸ばした。
ナオ「ギルドの皆さん。お集まりいただき、感謝申し上げます」
柔らかな口調だが、その声にははっきりとした芯がある。
ナオ「さっき聞こえた、天の声(放送)の通りです。今、ステラ率いるパーティーが、村を守るために必死に戦って足止めしてくれております」
帽子のツバを、わずかに持ち上げる。
ナオ「ジパング国の外交使節として…。そして、このエサリカ村の一村人として。どうか、ステラたちの援護をお願いいたします」
そう言って、深く頭を下げる。帽子の上から、正体不明の怪人と赤いヒーローが半身乗り出している、どう見ても異常な光景で頼んでくる青年。
しかし、その目は真剣そのものだった。
リラ「ナオさん……」
一瞬の沈黙の後、冒険者の一人が無言で大剣を肩に担ぎ直す。
「どうやら、本当にまずい状況みたいだな…」
別の冒険者が、フードを深くかぶり直しながら前へ出る。
「ステラが手こずるレベルってんなら、放っておけねえな!」「しかもでけえトロールだろ?村にやってきたら、えらいことになる」
「相変わらず頭の上が、わけわかんねえことになってるが...」「あぁ、でもあの外交官殿がこれほど真剣なら、冗談じゃねえな」
ざわめきは次第に、覚悟を帯びた空気へと変わっていく。エルフの女性魔術師が、ナオに向かって問いかける。
エルフの魔術師「外交官殿、指揮は誰が?」
ナオ「現場では、ステラの判断を最優先でお願いします。俺も……後から合流します」
カイ「ナオさん……?」
ナオは帽子を押さえ、静かに続ける。
ナオ「まずは村の混乱を鎮めます。危険な役回りになりますが……みなさん、頼みます!」
その言葉に、数人の冒険者が頷いた。
「よし、行くぞ!」「旧鉱道前で合流だ!」「夜明けまでにはケリをつける!」
武器の音を響かせながら、冒険者たちは次々と駆け出していく。その背中を見送りながら、ノノが小さく呟いた。
ノノ「……梅原様……わ、わたし……」
ナオ「ノノ。よう知らせてくれたな」
そう言って、優しく微笑む。
ナオ「俺らは、俺らでできることをやるで」
その言葉に、ノノ、カイ、リラは気を引き締める。
そして帽子の上では、怪人の男とブレイバー・レッドが、なぜか一番得意げな顔で、深く頷いていた。




