第32話 決死の足止め
【村はずれ・旧鉱道内】
トロールがティナの仕掛けた魔法の罠を踏み抜いた瞬間、トロールの足元で小さな爆発が起こる。その振動により、岩盤が崩れ落ちたことで、一行とトロールの間に壁が築かれる。
一同は足を止め、息を切らしながら振り返った。
ドラーク「……すんでのところだったな」
ハンス「でも助かった〜!!これでさすがに、追ってこれねえだろ?」
しかし、ステラは即座に首を横に振る。
ステラ「ダメよ。相手はこの鉱道を叩いて広げるほどの怪力を持ってる。この程度で止まるはずがないわ」
その言葉の通り。
ゴウン……!ゴウンッ!!
崩れた土砂の向こうから、鈍い衝撃音が響く。
ハンス「おいおい……嘘だろ!?」
ノノ「……と、突破されます……!みなさん、逃げて!!」
ノノの叫びを合図に、一行は再び出口へと走り出した。
ステラ「出口が見えたわ!ひとまず外へ出るわよ!」
一同が出口付近まで戻ってきた、その瞬間。
ドゴオオオン!!
背後で岩盤を薙ぎ払う轟音とともに、怒り狂ったはぐれトロールが姿を現す。
ハンス「とんでもねえバケモンじゃねえかよ!?」
ドラーク「……村に近づかせるわけにはいかんな。外に出たら、応援が来るまで引きつけるしかあるまい」
一行は鉱道を脱出し、夜の森へと飛び出した。空はすでに暗く、木々の向こうにはエサリカ村の灯りが、点々と浮かんで見える。
ステラ「みんな、陣形をとって!迎え撃つわよ!!」
前衛にステラとドラーク、後衛にハンス。そのさらに後ろで、ティナとノノが控える。
ノノは思わず、ティナの裾をぎゅっと握りしめた。
ノノ「……き、きます……!」
グウウウウウオオオオオオ!!
怒りの咆哮とともに、トロールが旧鉱道から外へ完全に姿を現す。改めて目の当たりにするその巨体に、全員が息を呑んだ。
ハンス「こんなの、勝てるのかよ!?」
ステラ「倒すのは無理ね……。私たちだけじゃ」
ステラは振り返らず、はっきりと告げる。
ステラ「ノノ!!」
ノノ「は、はい!?」
ステラ「急いで村に応援を呼んで!それと、念のため村人たちに避難を呼びかけて!」
ノノ「……で、でも……み、みなさんを置いていくのは……」
ハンス「足止めぐらいなら俺たちがなんとかする!!」
ドラーク「どのみち、我々だけでは全滅しかねん。ノノ、任せたぞ」
ティナ「ノノさん!お願いします!!」
ノノはティナの裾から手を離し、ぎゅっと拳を握る。
ノノ「……わ、わかりました!!す、すぐに……呼んできます!!」
慌てて一歩下がり、震える指で印を結ぶ。足がガクガクする中、ノノは必死に念じた。
ノノ「変身の術!!」
ボワン、とピンク色の煙が弾けノノを包む。煙が晴れたそこにいたのは、小さな小鳥だった。
ティナ「ノ、ノノさん!?」
ドラーク「ほお……ジパングに伝わる忍術、というやつか」
ノノ(小鳥)「す、すぐに呼んできます……!みなさん……それまでどうか耐えてください!!」
ステラ「ええ、わかってるわ。頼んだわよ、ノノ!」
小鳥は羽ばたき、夜空へと飛び立っていく。残された一行は、改めてトロールへと向き直った。
ハンス「へっ……こいつぁギルドに、報酬を倍にしてもらわねえとな」
ステラ「同感ね。もはや『調査』じゃなくて『討伐』よ!!」
ドラーク「全員、気を引き締めろ。ティナ、強化呪文を頼む」
ティナ「は、はい!!」
全員が武器を構え、巨大な魔獣を正面から迎え撃つ。4メートル級のトロールが再び怒りの咆哮を上げた。
一方、その頃。
【エサリカ村・広場】
エサリカ村の広場には、子供たちの笑い声が響いていた。ナオが帽子を使って人形劇を見せるのが、この村ではすっかりおなじみの光景となっている。
だが今回は、明らかに様子がおかしかった。
帽子の中から、ぬっと姿を現しているのは、いつもの魔法で動く人形……ではなく、ヒーローショーで見かけるような、派手な怪人の格好をした男。
怪人「ガーッハッハッハッハッハッハーーー!!この村は今日から俺様の支配下だぁ!!さぁ、ここにいるよい子たちを人質にしてやるぞぉ!!」
「きゃーこわいー!!」「なにあれー?」「いつものおにんぎょうは?」「でもこれも面白そう!!」
子供たちは大盛り上がりだが、広場に集まっていた親御さんたち、そしてカイとリラは、そろって微妙な表情を浮かべていた。
カイ「……ナオさん。それ、絶対用意してた劇の内容と違うっすよね?」
リラ「……これ、人形劇っていっていいのかしら?」
ナオは帽子の縁に手を添え、少し困ったように笑う。
ナオ「いやな……一応そのつもりやったねんけど。またコイツ(帽子)が勝手に、変なもん出力してきててな……」
カイ「じゃあなんなんすかこの人!?新手の魔族かなんかっすか…?」
怪人「どうやら皆、恐怖で手も足も出ないようだなぁ!!さぁて、どの子を人質にしてやろうか」
怪人は大きく手を広げ、子供たちを見やる。
「きゃーーー!!」「ママみて―!おもしろーい」「たすけて~~!」
悲鳴とも歓声ともつかない、無垢な声が広場に響く。と、その時。
???「待てぇーーーーーーーー!!!!」
突然、帽子の中から、別の声が響いた。




