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第30話 工房 on stage!

【エサリカ村・カイの工房】

ステラ、ノノたちののパーティが旧鉱道へ踏み込もうとしていた同時刻。

工房の奥では、金属を打つ乾いた音が一定のリズムで響いていた。


カン、カン、カン――。


炉の熱で揺らぐ空気の中、鍛冶エプロンをつけたカイは作業台に向かい、細かな部品の調整をしている。


カイ「……よし。これで一旦、安定するはずだな」


カイの工房。

エサリカ村西通りの端に建つこの工房は、カイの住まいでもある。帝都から越してきた際、村人たちの好意で使われていなかった空き家を一棟貸し与えられ、今ではすっかり彼の道具制作の拠点となっていた。

そんな工房のドアを、コンコンと誰かがノックする。


カイ「はーい、開いてますよ」


扉が開き、見慣れた人物が顔を出す。


ナオ「邪魔すんで~」


カイ「ナオさん、邪魔するなら帰ってほしいっす」


ナオ「あいよ~~~、って何言わすねん!」


軽くツッコミを入れながら、ナオはぬるりと工房の中に入ってくる。


ナオ「カイくん、いやほんまに大した用事ではあれんのやけどな」


カイは半笑いで、答える。


カイ「まあここに来る時点で、大体予想つくっすよ。帽子のことでしょ?」


ナオ「ご明察やな!せやねん、これ見てくれへん」


そう言ってナオは近くまで歩み寄り、帽子を脱いで差し出す。


ナオ「ここやねんけど、帽子の開く内側のヒンジ部分」


帽子のクラウンをパカッと開けて見せる。


ナオ「最近、高頻度でわけわからんもんが、定員オーバー気味ででてくるやろ?そのせいかしらんけど、キィキィ変な音鳴るようになってきてな」


カイは帽子を覗き込み、ヒンジに指をあてる。


カイ「あー…金属同士が擦れてる音っすね。動き自体は問題ないんで、交換はしないっすけど」


そう言って、彼は工具棚から小さな瓶を取り出す。


カイ「一応、油さしとくっすね」


ナオ「冷静に考えたら、帽子に油さすって意味わからんよな?」


カイ「ナオさんがそれ言いますか…」


半目でツッコミながら、額のゴーグルをつけて油をさしていく。


ナオ「今のぉ。ステラがノノ連れて、旧鉱道の音の調査をしに行っとんよ」


カイ「マジっすか?あの村外れにあるトンネルっすよね。ノノさん、よく了承したっすね」


ナオ「本人、全力で拒否しとったけどな」


それを聞いて、カイは思わずハハハッと笑う。


カイ「そりゃそうっすよね。俺でもあそこに入るのは渋りますし」


ナオ「まあステラもおるし、『調査』が目的やから大丈夫や思うけどな」


カイ「常に隣に"何が出てくるかわからない"帽子被ってる人がいるから。ノノさん、意外と気づいてないだけで肝は据わってるかもしれないっすよ?」


ナオ「おうカイくん、人を『歩く災害』みたいに言うのやめーや」


二人で軽く笑いあう。

数分後。


カイ「よし!ヒンジに油させたっす!あと、少し綻びがあったんで、ついでに仕立て直してるっす!」


ナオ「おお、仕事はやいなぁ。助かるわ」


帽子を受け取り、ナオが帽子の開け閉めを確認しようとした。

その瞬間。



パカッ



帽子がひとりでに開いた。

ライブ会場で見かけるようなカラフルなスポットライトが、開いた空間の両端から伸び、スモークが一気に焚かれる。その中から、ヒラヒラのついた革ジャンを着た、顔がデフォルメされたウマとカメの男女が、両手にソフトクリームを持ってせり上がってきた。


二人は舌を出し、顔を左右にぶんぶん振りながら舐め始める。


メスのカメ(?)「とっても~~~~おいし~~~~♪」


ウマのオス(?)「ふわふわ~~~トロトロ~~~~♪」


見た目はロックダンサー、歌声はオペラ。工房いっぱいに、無駄に壮大なビブラートが響き渡る。

ナオとカイは、死んだ目でその光景を見つめる。スポットライトがぐるぐる回り、スモークはさらに濃くなる。


ナオ「…なあ、カイくん」


カイ「はい」


ナオ「直してもらった直後で悪いねんけど、この帽子…溶接できへんかな?」


カイ「そんなんで、この混沌が収まると思わないんすけど…」


ナオ「まあ…せやな」


帽子の上の、謎ライブステージは続く。


ウマ(?)「♪しあわせは~コーンの先に~♪」


カメ(?)「♪この冷たさ~それは~あなたのやさしさ~♪」


ナオは深いため息をつき、諦めたように帽子を被った。


ナオ「菊左衛門の芝居といい……。誰が仕込んどんのや、このステージ」


カイ「ナオさん、やっぱり『歩く災害』だと思うんすけど」


ナオ「否定できんのが、なんか悲しいわ」


そう言ってナオは、天を仰ぐような仕草をする。

カイの工房で行われたこの混沌ステージは、その後も約10分、誰にも止められることなく続いた。

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