第29話 調査クエスト『音の正体を突き止めよ!』
【村はずれ・旧鉱道内】
トンネルの中に潜入した5人のパーティは、一歩ずつ足元を確かめながら、奥へ奥へと進んでいた。
ハンス「やっぱり中は、外で見るよりも気味わりぃな」
ステラ「そうね。息するだけで、気分が重くなるわ」
松明を持って、先頭を行くステラがそう返す。
壁際に打ち付けられた古い支柱はところどころ歪み、天井からは細かな砂利が時折、ぱらりと落ちてくる。
ドラーク「何者かが頻繁に出入りしてるような足跡はないな。少なくとも、山賊団のアジトではなかろう」
ティナは小さく頷き、周囲に視線を走らせる。
ティナ「魔力反応も……特にありません。ノノさん、大丈夫ですか?」
ノノ「うぅぅ……は、はい。怖いけど……だ、大丈夫……です」
ノノはティナのローブの裾を摘まみながら、同じ歩調で歩いていた。その様子を確認するように、ステラが立ち止まって振り返る。
ステラ「クエストの依頼には、『正体不明の音がする』って書いてたわよね?」
全員が同時にうなづく。
ステラ「……で、みんな。何か聞こえた?」
ハンス「いんや全然。埃っぽいだけのただの寂れたトンネルって感じ」
ドラーフ「俺も何も聞こえん。今のところ、我々の足音だけだ」
ステラはノノに視線を向けた。
ステラ「ノノはどう?何か聞こえた?」
ノノ「……あ、いえ……音は……特には、聞こえない……です」
しかしノノは、言葉を続ける。
ノノ「……で、でも……おかしく……ないですか?」
ティナ「何がですか…?」
ノノは、恐る恐る周囲を見回す。。
ノノ「……さっきから……トンネルの幅が……少しずつ……広くなっている気が……」
全員が、改めて天井と壁を見渡す。古い木の支柱の位置よりも外側まで、坑道の壁が不自然なほど深く、えぐれていっている。
ハンス「言われてみりゃ確かに…。こんな掘り方、人間ができるもんか?」
ドラーク「爆発の呪文を使ったのだとしても不自然だ。この削れ方はまるで…」
ステラ「……抉られてる、わね」
ハンス「いやいやいや!抉られてるって、手掘りってことか!?だとしたらデカすぎやしねえかこれ?」
と、その時。
ノノがびくっと肩を震わせ、ティナの裾を強く握りしめた。
ティナ「ノ、ノノさん!?どうされました…?」
ノノ「……き、聞こえる……」
その言葉に、全員が黙って耳を澄ました。
ゴン……
坑道の奥で、鈍い音が一度だけ響いた。全員の動きが止まる。
ゴン……ゴン……
さらに二度、同じ音が響いてくる。
ステラ「何…この音……?」
ハンス「奥で何かが、風でぶつかってるとかじゃねえのか?」
ノノ「い……いえ……あれは…」
彼女は唾を飲みこみ、暗闇の奥を見据える。
ノノ「……あの音……岩を…叩く音です…」
ドラーク「なるほどな」
ドラークは静かに背中に背負っていた大きな斧を構える。
ドラーク「ここは、何かに……住処として、広げられている」
ステラは松明を強く握り、低く声をかける。
ステラ「みんな、気を引き締めて。このクエスト、どうやらただの『調査』じゃ済みそうにないわ」
その言葉に全員が身構える。みんな、口に出すとも、わかっていた。
『この暗闇の先に、間違いなくデカい何かがいる』
ドラーク「しかし、見事だなノノ。我々だけでは、気づくのがもっと遅れたであろう」
ノノ「……い、いえ。そんな……たいしたことでは……」
ステラ「だから言ったじゃない」
そう言って、ステラはノノの肩をポンと叩き、ニッと笑う。
ステラ「この子は『調査』に向いてるスキルを持ってるって」
ノノ「……っ!」
ノノの顔が、一気に赤くなる。
ハンス「まあ、確かに観察眼が鋭いのは確かだな」
ノノ「い…いえ!そ、そんな……」
ハンス「で、気になるんだが」
彼は顎で、暗闇の奥を示す。
ハンス「向こうとの距離感は、どのくらいかわかるか?」
ノノ「……お、おそらく……まだ、こちらの存在には……気づいてないです」
ティナ「……どうして、そう思うんですか?」
ノノは、耳に手を当てるような仕草をした。
ノノ「……さっきから……音の大きさが、ずっと同じなんです」
ハンス「同じ?」
ノノ「はい……。間隔に、少し違いはありますけど……叩く強さは、変わってません」
ドラーク「あくまで……作業をしている、というわけか」
ノノ「……たぶん……。少なくとも……今は……」
ステラ「じゃあ音を立てなければ、こちらに意識が向く可能性は低いわね」
ティナ「この辺りに、足止め用の魔法の罠を仕掛けます!」
ハンス「こんな狭いトンネルで捕まったら、洒落にならねえからな」
ステラ「任せたわ、ティナ。みんな、今のうちに態勢を整えて」
ティナはこくりとうなずき、地面に魔法陣を描き始める。
ハンスも槍を構えて、暗闇の先を見据えた。
ゴン……ゴン……
一定ではない間隔で、音は暗闇の奥から響き続けていた。




