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第27話 ノノの決意

【エサリカ村・ジパング大使館】

帽子から溢れていた満員電車の混沌が去り、庭には静寂が戻っていた。


ステラ「ほんと…嵐が去ったような気分だわ」


ティナ「初めて噂の外交官様の帽子を拝見しましたが……とてつもないインパクトでした……」


ノノ「あ…あの……」


ノノの声に、皆が一斉に振り向く。彼女は恐る恐る息を吸い込み、胸の前で手を握りしめた。


ノノ「旧鉱道って聞いただけで、変な音とか、暗さとか……頭の中で勝手に想像が膨らんで……」


ステラ、ハンス、ドラーフ、ティナは、黙ってノノを見つめる。ナオもまた、閉じた帽子を軽く押さえ、深く被り直した。


ノノ「……だから、きっと行ったら、足も震えると思いますし……役に立たないかもしれません」


ぎゅっと拳を握り直し、顔を上げる。


ノノ「それでも……さっきの……帽子の中の人たち……」


視線は、ナオの帽子へと向けられる。


ノノ「文句も言ってて、嫌そうで……でも、ちゃんとどこかに向かおうとしてて。……逃げたい気持ちがあっても、みんな行かなきゃいけない場所があるんだって……そう、思いました」


ステラが、ふっと口角を上げる。


ノノ「だから……調査だけなら……行きます」


ハンス「おお……!!」


ノノ「ただし……!一人で先に行くとかは、絶対に嫌です!あと、変な音がしたら即止まってください!無理だと思ったら、すぐ引き返します!」


ティナは必死な様子に、思わず小さく笑みをこぼす。


ノノ「……あ、あと……ステラさんの近くにいさせてください……!」


ステラは一瞬きょとんとした後、肩の力を抜いて笑った。


ステラ「はいはい。条件、全部飲むわ」


ドラーフが腕を組んだまま、低く頷く。


ドラーフ「理にかなっている。慎重であることは、踏み込みすぎず正しく退く判断ができるということだ」


ティナ「ご一緒できて、心強いです。ノノさん」


ナオは帽子のクラウンを軽く押さえながら、やさしく笑う。


ナオ「今のノノ、最高にかっこええぞ」


ノノ「……が、がんばります……!」


ステラ「けどまあ、ナオちゃんもよくあの死んだ目の集団を引き合いに説得できたわね」


半ば呆れたように視線を向ける。


ナオ「一応、本職は交渉や説得をするのが仕事なもんで」


ナオはニッと笑って答えた。ししおどしが、カコンと鳴る。


ステラ「じゃ、話はまとまったわね。一度、集会所に戻って正式に依頼を受け直しましょ」


ハンス「よし、じゃあ行くか!」


ドラーク「無駄な時間は使うべきではない。日が落ちる前に動くのが賢明だ」


ティナ「私は聖堂に寄って、簡単な護符だけ用意してきます。すぐ戻りますね」


それぞれが自然に動き出す中、ノノは縁側に立ち上がり、ナオに声をかける。


ノノ「……そ、それじゃあ梅原様…行ってきます!」


ナオ「おー、頑張ってきいやノノ!」


ナオは優しい表情で、ノノを見送る。ノノは門の前まで先に進んでいたステラたちの方へ、小走りで向かっていった。

そのとき帽子が再びパカッと開き、二人の男が半身を乗り出してくる。ワイシャツ姿の眼鏡の男と、帽子の住人・菊左衛門。


眼鏡男「彼女だけで、ほんとに大丈夫でしょうか…?」


菊左衛門「心配は無用でござる。我々が思っているより遥かに、ノノ殿は芯の強い女子おなごであるが故」


眼鏡男は門の向こうへ消えていくノノの背中を、まだ不安そうに見つめている。


眼鏡男「……でも、ああいう人ほど、無理を溜め込んでしまうものです。嫌だと思っても、周りに合わせて……」


菊左衛門「ノノ殿は、己が無理と感ずれば、声をあげられる御仁でござる。此度の件も、己の意思にて行くと決意を固めた。それこそが、彼女なりの勇気と存ずる」


眼鏡男「勇気…ですか。私も…彼女を見習わなければなりませんね」


ナオ「なあ。すごいええ話しとるところに、水差すようで悪いんやけど」


ナオは半ば呆れた表情で、視線を真上に向ける。


ナオ「菊左衛門はわかんねん、菊左衛門は」


一拍置いてから、吐き捨てるように。


ナオ「お前、誰やねん」


カコンと、再びししおどしが鳴った。

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