第25話 クエストを受注しよう!
【エサリカ村・冒険者ギルド】
集会所一階の壁一面を埋め尽くすクエスト掲示板の前で、ステラは腕を組んで立っていた。
ステラ「ん~……何がいいかしらねぇ」
羊皮紙が何枚も貼られた掲示板を、上から下へとゆっくり眺める。討伐、護衛、採取、調査…。どれも見慣れた依頼ばかりで、今ひとつピンとこない。
「ステラ、良さげなクエストあったか?」
背後から声をかけてきたのは、短く刈り込んだ赤毛の若い槍使いだった。
両手を頭の後ろで組み、気楽そうな調子で話しかけてくる。
ステラ「いいと思えるのは、全然ないわね……。ハンスは何か見つけた?」
ハンス「いんや、まったく!ゴブリン討伐はこの前やったしさぁ、もっと強い魔物を狩りてぇよ」
「それは同意だな」
低く落ち着いた声が割って入る。大きな斧を背負ったオークの男が、立派な髭を指で撫でながら頷く。
ハンス「だよな~、ドラーク!やっぱ男は派手にやんねえと!」
ドラーク「採取や調査ばかりでは、身体も鈍るからな」
「……貴族様の護衛、などはどうでしょう?」
控えめにそう提案したのは、白いローブに身を包んだエルフの僧侶の少女だった。
ステラ「ああ、ティナ。前のクエストの報告、助かったわ」
ステラはニカッと笑って、手を振る。
ステラ「護衛ねぇ……。この前、ろくでもない連中の護衛をしたばっかりだから、あまり気乗りしないのよ」
ハンス「あ~、あの変な帽子被ったヘンテコ外交官だろ?」
ステラ「否定はしないけど、言い方」
ステラは半目になって、ハンスを見る。
ハンス(槍使い)「いやいや、変じゃんあんなの!帽子から人出てくるし、たまに中から声するし!」
ドラーク(オーク斧使い)「……あれは混沌を味方にする武器だ。少なくとも普通の魔道具ではあるまい」
ハンス(槍使い)「どっちみち怖えよ!」
ティナ(エルフ神官)はくすっと小さく笑い、掲示板に視線を戻す。
ティナ「でも……確かに護衛は当たり外れが大きいですね。精神的に、ですが……」
ステラ「でしょ?戦えないのにふてぶてしい貴族の相手するの、胃にくるのよね」
ハンス「外交官も、ある意味貴族じゃねえのか?」
ステラ「そういえば……ジパングの役人って、帝国だとどのくらいの立場になるのか、聞いたことないわね」
少し首を傾げてから、ステラは軽く息を吐く。
ステラ「でも、アイツは立場を振りかざして威張るような奴じゃないわ。そういう意味じゃ、結構とっつきやすい」
ハンス「じゃあ、やっぱどのみち変な奴なんだな」
ドラーク「だが評価としては、悪くない」
四人は顔を見合わせ、思わず笑い合った。そのまま、ステラは再び掲示板へと視線を戻す。下段に貼られた依頼書へ目を走らせたとき、一枚の羊皮紙の前で、ぴたりと動きを止めた。
ステラ「ん…?」
ハンス「お、なんだ?なんかいい依頼見つけたか?」
ステラは紙を指で押さえ、声に出して読む。
ステラ「村外れ・旧鉱道付近にて、夜間に不審な音。未確認の魔物の可能性あり。調査求む……」
ステラが依頼書から視線を上げると、自然と三人の顔がこちらを向いていた。
ハンス「……おいおい、これもしかするとアタリじゃねえの?」
口元を歪め、楽しそうに笑う。
ドラーク「旧鉱道か…。あそこは10年以上前に閉鎖されたはず。落盤も多く、今は誰も近寄らん」
ステラ「そういう場所ほど、変なものが住み着くのよね」
ティナは依頼書の文面をしっかり読んでから、そっと目を伏せた。
ティナ「音だけというのが、少し気になります。姿を見た、という報告がありません」
ハンス「闇に紛れてるから、姿がみえねえだけじゃねえの?」
ドラーク「……魔獣とは限らん。鉱道では、かつて多くの鉱夫が労働中に命を落としたとも聞く」
ティナ「……ゴーストの類、という可能性も否定できませんね」
一瞬、空気が静まる。ステラは小さく息を吐き、指で依頼書を軽く叩いた。
ステラ「調査依頼だから、『何がいるか』を確かめるのが目的ね」
ハンス「でも、何か出てきたら戦うんだろ?」
ハンスは胸の前で拳をがっと掴み、ニヤリと笑う。
ステラ「まあね。だからこそ、この編成がちょうどいいでしょ」
ドラークは斧の柄に手を置き、低く笑う。
ドラーク「前に出る者が3人。後ろに僧侶。悪くない」
ティナ「……私も、できる限り備えておきます」
ステラ「決まりね。と、その前に」
ステラは依頼書を掲示板から剥がし、くるりと振り返った。
ドラーク「どうした、ステラ?」
ステラ「その外交官のところにね。今回の調査に、うってつけの子がいるのよ」
ハンス「どんな奴だ?」
ステラ「ノノっていうの。ナオちゃんの補佐をしてる子で、観察眼が鋭いし、隠密に向いた特殊なスキルを持ってる」
ティナ「外交官様の……お連れの方、ですね」
ハンス「戦えるのか?」
ステラ「ハッキリ言って戦闘向きじゃないわ。すごく臆病な子よ。ただ…あの慎重な性格は『調査依頼』なら、あたしたちより向いてる」
ドラークは少し考えるように髭を撫で、ゆっくりと頷いた。
ドラーク「……足を引っ張らぬなら問題はない。むしろ、余計な事故を防げそうだ」
ハンス「まあ、ステラが言うならいいか!どのみち何か出てきたら、俺がブチのめすまでよ」
ステラ「頼りになるわ」
四人は顔を見合わせ、軽く笑い合った。
ステラ「じゃあさっそくノノを説得しに行きましょ!今回の調査、彼女の目が頼りになるはずだから」
こうして、旧鉱道の調査に向かうパーティは、もう一人の仲間を加えることになった。




