第24話 パンよりナンよね!!
【エサリカ村・ミルミル亭】
村の喫茶店、ミルミル亭の厨房では、カイが設備の点検をしていた。
カイ「よし……これで火の加減、もっと楽になると思いますよ」
彼が手を入れていたのは、火炎魔法の符呪が施された自動かまど。つまみひとつで調理に必要な火力を細かく調整でき、強火からとろ火まで、感覚的に切り替えられる。カイ自身の手による作品だった。
リラ「わあ、カイさんありがとうございます!いつも本当に助かってます」
カイ「いやいや、全然ですよ。こんな調整、朝飯前っすから」
リラ「カイさんがいろいろ設備を作ってくれたおかげで、お店のお料理も時短で、ちゃんと温かいまま出せるようになりましたし!本当に感謝してます」
カイ「そういってもらえるとありがたいっす!ところで、例の帝都から持ってきた氷室なんすけど...。使い心地どうっすか?」
リラ「あーあれですね!お店に置いてもらってから、食材の鮮度が長く保てるから仕入れの頻度は減らせてて。食材もダメにせずに使い切れるようになったんで助かってます」
カイ「役に立ってるみたいでよかったっす!なんか不満なとことかないっすか?」
リラ「そうですねえ、ちょっとひんやりしすぎててたまにお野菜に霜が張ってる時がありまして」
カイ「ありゃー、やっぱり試作品だからその辺は改良が必要っすね...。りょーかいっす!また近いうちにみにきますね」
リラ「ありがとう!そうだ、せっかくですしコーヒー淹れますよ!」
カイ「ありがとうございます!じゃあお言葉に甘えて」
リラに勧められて、カイは厨房の踏み台に腰掛けた。しばらくして、湯気の立つコーヒーが差し出される。
リラ「カイさんがエサリカに越してきてどれぐらい経ちましたっけ?」
カイ「あー多分、そろそろ半年っすかねえ。俺は帝都のあのガヤガヤした雰囲気より、こっちのが合ってる気がするっす」
リラ「そういってもらえるとなによりです。すっかりカイさんも村の人ですね!」
カイ「まあこっちに来るきっかけになった、あの帽子については、ほとんど俺の技術じゃ歯が立たないっすけどね...」
と、ここでカイが鼻をクンクンとする。
カイ「ところで、リラさん。今日なんかやけにスパイシーな香りしますけど、変わった異国料理作ってるんすか?」
リラ「え?」
リラもクンクンと嗅ぐ。
リラ「たしかに香りますね。え、でも私スパイスを使った料理は今日作ってませんが」
カイ「じゃあこの匂いは一体」
二人が厨房から出てカウンターを覗くと、そこにはいつのまにか来ていたナオの姿があった。
そしてその帽子から、ターバンを巻き、黒いエプロンを着けたインド人風の男が半身を乗り出している。
インドカレー屋店長「ナマステ〜!新作のカリー味見しておくんナマシ」
爽やかに挨拶する店長っぽい人は、帽子の中からカレーとナンが乗った銀プレートを出してくる。
リラ「ナオさん......これは一体?」
ナオ「すまんなあ、リラさん。俺はコーヒー飲みに来ただけやねんけど、またなんか出てきてな」
カイ「今度は誰なんすか一体......!?」
にこやかな笑顔で店長は続ける。
店長「コマカイことはノープロブレム!どうかカリー食べてみてクダサイ!ちなみに本日の日替わりはカボザとザガイモでござます!どうぞヨロシコリー」
店長は正面を向いて、静かに手を合わせて一礼する。
リラ「えっと...かぼちゃとじゃがいもて言いたかったんですかね...?」
カイ「いや訳さなくていいっすよ、リラさん!」
店長「さー早く早く!冷めないうちニネ!」
そういって店長はナオの頭上から、ちぎったナンにカレーをつけて3人に渡す。
リラ「この平たいパンのような食べ物......初めてみますね」
店長「オー!それ『ナン』よ。もっちり、オイシイ」
カイ「あ、うまっ!帽子から出てきたていうことに目をつぶれば、普通にうまいっすよ!」
リラもおそるおそる、ナンを受け取って口に入れる。
リラ「あ!……本当に、おいしいです。スパイスは強いですけど、優しい味ですね」
店長「オネエサン、わかってるね!ミルク多め、野菜たっぷり、胃にもヤサシイ!それがカリーよ!」
ナオ「いやまあ、味はほんまに美味いわ。それは認めるけどやな...」
ナオは半目で、自身の頭上に視線を上げる。
ナオ「ここ喫茶店やからな?コーヒー飲むとこで、こんなごっついスパイスの香り漂わしたら迷惑やんけ」
店長「ダイジョブダイジョブ!テイスティング終わったら、スグ帰るね!」
カイ「どこに帰る気なんすかこの人...」
三人がナンとカレーを味見するあいだ、店長は満足げな様子で腕を組んでいた。その視線が一瞬、職人のものへと変わり、ミルミル亭の厨房へと向けられる。
店長「オー!あのかまど、すごく使い勝手が良さそうネ!この店良い設備整ってマース!」
彼が指を差したのは、先ほどまでカイが点検していた魔導かまどだった。
リラ「触ってませんが、見ただけでわかるものなんですか?」
店長「もちろんネ!私も料理人デスから!美味しいカリーを作るには、まずしっかりした設備から。これ、基本ネ!」
ナオ「あれってたしか、カイくんが作ったやつなんちゃうんか?」
カイ「あ、そうっす!ちょうど今リラさんに頼まれて点検してたとこだったんすよ」
店長「オーーー!オニイサン、良い腕してるネ!あれなら立派なタンドールとしても使えそうデス!」
カイ「タンドールてのが、なにかわかんないっすけど...。褒められると、やっぱ悪い気はしないっすね」
カイは、照れくさそうに頭を掻いた
数分後。
店長「ではワタシはカエリマース!また新作できたら持ってくるネ!ちなみに明日の日替わりは、ピヨコマメとブロシコリーを予定しとります!どうぞヨロシコリー」
パタン
返事を待つこともなく、店長はすっと帽子の中へと引っ込み、帽子は何事もなかったかのように閉じた。
リラ「多分、ひよこまめとブロッコリーて言いたかったんでしょうか?」
カイ「だから、訳さなくていいっすよリラさん!」
ナオは苦笑しながら、帽子の縁を軽く押さえる。
ナオ「いや〜、二人ともすまんなぁ。いつものことやけど、勝手に出てくる人は止められへんくてな」
カイ「前にも言った気がするっすけど、出てくる存在が一貫性マジでなさすぎますって……」
リラ「ふふ。でも、不思議ですね。突然だったのに、なんだか楽しい時間でした」
カイ「俺も...帽子から半身出てきてる人に褒められるって体験、初めてしましたよ」
ナオ「普通に生きとったらありへん体験やけどな。ところで、リラさんコーヒーお願いできへん?」
カイ「ナオさんはナオさんで、切り替え早すぎるんすよ!!」
三人の笑い声が、温かな店内に響きわたっていた。




