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第22話 『異常』が『日常』

【エサリカ村・ミルミル亭のテーブル席】

ナオの帽子から、帝都で買ってきた荷物をすべて出し終えた直後。

帽子の中から、カタカタカタ...と小気味のいい謎のタイプ音が響いてきた。


ナオ以外の一同が固まる中、何かが印字された細長い紙が、ザーッと流れるように、帽子のクラウンの開いた部分から吐き出された。

彼はそれを手に取って、端をピリッと破って内容を確認する。


ステラ「え……ちょっとナオちゃん。なに見てるの、それ……?」


ステラが回り込んで覗き込む。紙には、こう記されていた。



『お預り品引渡票 実りの月 ◯日 36点分』



ナオ「……まあとりあえず、全部出せたっぽいな〜。にしてもほんま、みんな買いすぎやろ〜」


ステラ「いやいやいや!?なにその謎にハイテクなシステム!?レシートとか出る仕様なの、それ!?」


カイ「……空間魔法って、そんな機能までついてるんすか……?」


ノノ「……も、もう……何でもありですね……」


リラ「……便利なのか、不便なのか……もうよく分かりませんね」


周囲の客たちも、目を点にしながら一連の出来事を見守っていた。しかし地元の住民たちは、「まあ、ナオさんの帽子だからな」という様子で、ほどなく各々の食事や会話へと戻っていく。


一方で、冒険者ギルドのクエスト帰りと思しき若いパーティだけは違っていた。彼らは椅子に腰を下ろしたまま、先ほどから起きている一連の出来事を一瞬たりとも目を離せずにいた。


エルフの女性魔術師「……ねえ、今の……見間違いじゃないわよね?」


隣に座る斧使いの大柄な男は、腕を組んだまま低く唸った。


斧使い「割れてたよな、あの帽子。しかも中から……荷物が、山ほど……」


最後に、小柄な僧侶の少女が、胸元のペンダントをそっと握りしめる。


小柄な僧侶「……あれ、魔法……なんでしょうか……。でも、見たこともない......魔術体系です」


三人は顔を見合わせ、言葉を失う。すると今度はナオの被る帽子の中から、ぬっと、人の手が伸びてきた。


三人「!!!?」


思わず全員が肩を跳ね上げた次の瞬間、派手な隈取メイクを施した顔の男が半身乗り出してきた。


菊左衛門「梅原殿!先日書いた演目のリハーサルを、是非とも観ていただきたく!」


ステラ「うわっ!? 出た!?」


ノノ「ヒッ!?......ま、また...」


カイ「いや、めちゃくちゃ出てくるじゃないっすか、この人!」


ナオ「演目って……お前の顔が近すぎて、山賊が逃げていっただけの話やないかい……」


その横でリラが、にこやかに声をかける。


リラ「あら、菊左衛門さん。コーヒー、飲まれます?」


ステラ「リラ!?あんた、こいつと知り合いなの!?」


リラはきょとんと目を瞬かせる。


リラ「え?ええ。この前、ナオさんがお一人でいらした時に、帽子から出てきまして」


カイ「‟出てきまして‟で済ませられるメンタル、どうなってんすか……リラさん」


ナオ「いやまあ。さすがに最初は、リラさんもびっくりはしとったで」


菊左衛門「ほお、それはかたじけない。拙者、‟かふぇおうれ‟なるものを、一度頼んでみたく」


ノノ「……浪人さんが……カフェオレ……」


ステラ「受け入れるの早すぎでしょ、この店!?」


そのやりとりを離れた席で見届けていた冒険者の三人は、もはや何に驚けばいいのか分からない、という顔で固まっていた。


斧使い「なあ、いろいろおかしくねえか?この村」


僧侶「あの帽子……。邪悪な気配は感じませんが……いろいろと意味不明です…」


エルフの魔術師「召喚だとしても、あんな出方しないわよ!?なんで半身だけ出てきてるの…」


斧使い「全身出てこられる方が困るだろ」


僧侶「……確かに」


斧使い「ていうか……。なんであの帽子の男は、あの状況平然と受け入れてんだ?」


魔術師「頭上から、わけわからないメイクの男が出てくるって……。普通に考えたら、気が狂うわよね」


斧使い「だよな」


斧使いは顎を擦りながら、もう一度ナオの方を見る。


斧使い「なのに、あいつ……驚くどころか、ツッコんで終わりだぞ」


僧侶「……慣れている、というより……受け入れている……?」


僧侶はミルミル亭の奥。カフェオレを手に、ナオの頭上で見得を切ろうとしてステラに止められ、笑い声が広がる一角を見つめた。斧使いはコーヒーを一口だけ啜り、背もたれに身を預ける。


斧使い「……この村じゃ、あの帽子の異常さもひっくるめて、これが普通なのかもな」


魔術師「そうね。冒険者をやっていると、異常な存在=警戒、になりがちだけど」


僧侶「わけは分かりませんけど……少しだけ……安心してしまいますね、この村……」


斧使い・魔術師「たしかに」


二人は口を揃えて頷いた。


菊左衛門「なれば拙者!用意してきた演目に、この“かふぇおうれ”の甘美なまろやかさを追加した、渾身の一幕を披露いたしたく候!!」」


ステラ「やめて!!」


ナオ「お前こんなとこで、芝居始めたら普通に営業妨害やからな?」


リラ「ふふ。でも、お客さんの注目は惹きそうですね」


カイ「リラさんの受け入れ力、ある意味いちばんすごいっすよ……」


ノノは菊左衛門の癖の強い隈取にビビって、いつの間にかリスに変身し、リラの背後に隠れていた。


冒険者三人「……いや、やっぱりわけわからんわ。この村……」


半目のまま、三人はしばらく奥のテーブルの混沌空間を見つめ続けていた。


エサリカ村の、ちょっとだけおかしな、いつもの光景。

この村は、混沌を巻き起こす帽子ごと……すべてをひっくるめて、これが『日常』なのである。

お読みいただきありがとうございます!

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