第21話 帝都のおみやげ
【エサリカ村・ミルミル亭】
馬屋の前で、住民全員が理解不能な積み下ろしを終え、ナオとカイはミルミル亭へと戻ってきていた。
ナオ、ステラ、ノノ、カイ。四人は同じテーブルを囲み、そこへリラが料理を運んでくる。
近くの森で採れたオームス世界独自の根菜とキノコをたっぷり使ったシチュー、焼きたてのパンが入ったバスケットが、テーブルの中央に置かれた。
リラ「さあ、冷めないうちにどうぞ。今回は塩気を、いつもより少し控えめにしてみたの」
ナオ「おお〜、うまそうやなぁ!今日はちょっと冷えるから、これはありがたいわ」
ナオはスプーンを取り、湯気の立つシチューを口に運ぶ。
ナオ「……やっぱり、リラさんの料理が一番うまいわ」
ステラ「ん~~!」
ステラも頬を緩め、満足そうにうなずいた。
ステラ「帝都の料理も好きだけど、リラの作る料理はほんと優しい味なのよね~」
ノノもフーフーと冷ましてから、一口食べ、ほっと息をつく。
ノノ「……あ……あったかい……」
カイ「うんめえ…!体の芯から、あったまりますよ」
4人が嬉々として料理を口に運ぶ様子を見て、リラは微笑んだ。
彼女も前掛けを外し、同じテーブルの椅子に腰を下ろす。
リラ「ふふ。それにしてもナオさん、帰ってきて早速、帽子が活躍してましたね」
ステラ「なんか、今回とんでもなく長い鉄の棒、出てきてなかった?」
ナオ「せやねんなぁ……。馬屋に着いた途端、また勝手に開いてなぁ」
カイ「ナオさん、毎回のことっすけど……。マジで心臓に悪いんで、やめてくれません?」
ナオ「いややから、制御できるんやったら、とっくの昔にやってるんやって……」
ステラ「開くたびに内容が違うのが、一番タチ悪いのよね」
ノノ「……で、でも……今日は珍しく……役に立ってましたね……」
ナオ「珍しくっていうのやめてくれへん?なんか悲しなってくるから」
ナオが額に手を当てて天を仰ぐと、その仕草に釣られるように、全員が笑った。
次の一口を運ぼうとしたステラが、ふと思い出したように声を上げる。
ステラ「あっ、そうだ。ねえナオちゃん!帝都の時に預かってた荷物、そろそろ出してくれない?」
ナオ「あ〜、あの山みたいになっとったやつか」
リラ「……え?出すって……どこから……?」
ナオ「ここや」
穏やかな笑顔のまま、ナオは自分の頭に被っているシャムロックのバッジがついた黒いシルクハットを、指先で軽く示した。
ナオ「リラさん、このテーブル借りてええか?」
そう言うとナオは立ち上がり、隣の誰も座っていないテーブルの前へと移動する。
リラは何かを察したように小さく息を吐き、少しだけ困ったように笑った。
リラ「いいですよ。でも……そのテーブルで、受け止めきれます?」
ナオ「まあ、割れ物系を優先して出すわ」
カイ「そんな微調整、可能なんすかそれ…?」
ノノ「……こ、壊れませんように……」
ナオは帽子のつばに軽く手を添え、いつもより少し慎重な動きになる。
ナオ「ほないくで」
パカッ
シルクハットのクラウンが、めいっぱい右側へと開いた。
次の瞬間。
中から、帝都のあらゆる商店の名前が印字された紙袋、布袋、木箱が次々と飛び出してくる。高級菓子店の洒落た紙袋、雑貨屋の素朴な布袋、陶器用と大きく書かれた木箱などが、空だったテーブルが埋め尽くされていった。
ステラ「……こうして見ると、ちょっと……買いすぎたかもしれないわね……」
ナオ「ちょっとって量やないやろ、ステラさん」
半目になったナオが、呆れたようにステラを見る。
カイ「ほんと、これ容量制限どれぐらいなんすかね……。空間魔法、マジで理解できないっすよ……」
ナオ「まあ師匠は、『入れたい分だけ、入れればいいんです』って笑っとったわ」
ステラ「……それ要するに、本人も容量把握してなかったってことよね?」
ナオ「まあ、言うてまえばそうやな」
あっけらかんとしたナオの答えに、カイは深いため息を漏らした。
積み上がった荷物の山を見渡しながら、リラは小さく笑って口を開く。
リラ「まあ、ふふ。これはまた……帝都でたくさん買ってきたんですね」
ノノ「こ……子供たちや……村の皆さんへの……お土産も……」
ステラ「そうそう!それにね、リラがこの前、新聞の広告で気になるって言ってたティーセットも買ってきたの!ほら、これ!!」
ステラは荷物の中から一つの木箱を取り出して、リラの前に差し出した。木箱の側面には、帝都の高級陶器ブランドのロゴが刻まれている。
それを目にしたリラの表情が、ぱっと明るくなった。
リラ「わあ……!覚えててくれたのね。ありがとう、ステラちゃん!!」
ステラ「えへへ〜。でもね、最初にこれを買おうって言い出したのは、ノノなんだよ?」
そう言って、ステラはノノの方へ視線を向ける。ノノは顔を真っ赤にして、目を逸らした。
ノノ「そ、その……。これを見つけた時に……リラさんが……喜んでくれるかな、って……」
次の瞬間。
リラが勢いよく立ち上がり、がばっとノノを抱きしめた。
リラ「ありがとう、ノノちゃん!!その気持ちがね、一番嬉しいのよ」
ノノ「ふえっ!?……あ、ちょっと……そ、その……」
耳まで真っ赤になり、湯気が出そうな勢いで固まるノノ。その様子を見て、ミルミル亭の店内には、自然と笑い声が広がった。




