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第2話 騒がしい帝都の朝

【バロア帝国・帝都商業地区】

喫茶店を後にしたナオは、朝の石畳を歩きながらため息を吐いた。


ナオ「……はあ。今日もほんま朝から騒がしい帽子やで」


「帽子から人が出てきたって、本当か?」

「いやぁ、なんか顎外れてる人の診察を始めたとかなんとか」

「いやわけわかんねえよ、帽子から人が出てくるわけ…」


通りの人々の喧騒を尻目に、肩をすくめつつ歩いていると。


???「ナーーオちゃーーん!!!」


元気いっぱいの声が通りを切り裂いた。


振り向くと鮮やかな 紫のロングヘアを揺らしながら、こちらに走ってくるナオと同年代ぐらいの女性の姿。軽装鎧とネイビーのチュニック、ショートパンツ、黒ブーツのいかにもな冒険者スタイル。

その肩には、小さなリスがちょこんと乗っている。


ナオ「……おお、ステラ。なんや賑やかに走ってきよったな」


ステラ「いやいやいや!なんか通りで『帽子の上で変な診察が始まった』とか聞いてさ!もしかしてと思って来てみたら…」


ステラはナオの帽子を見てピシッと指差す。


ステラ「やっぱりお前かーーーい!!」


ナオ「まあ……だいたい予想通りやろ」


ステラ「ほんとナオちゃんはさぁ!!喫茶店で静かにコーヒー飲むだけで珍事件起こすってなんなのよ!?」


ナオ「しゃあないやんかいな。帽子が勝手に開いてコント始めるねんから」


ステラ「いやその“勝手に”が怖いんだよ!!!」


彼女の名はステラ。

ナオが駐留している村の冒険者ギルドに所属する冒険者であり、彼ら使節団の現地協力者でもある。帽子の持ち主であるナオがこんな感じなので、帽子の起こす混沌にツッコミを入れるのが日常の風景である。


そんなステラの肩の上でリスはプルプル震え、小さな両前足で顔を隠す。

ナオはリスをじーっと見つめる。


ナオ「……ほんでノノ、自分いつまでその姿でおんのや?」


リス?「ひぅッ!」


ステラ「あーそうそう。この子、昨日帝都についた時からこの姿のままでさぁ。人が多くて怖いって…」


リスは相変わらずプルプル震えたままステラの肩からぴょんと飛んだ、その瞬間。


ボワン


淡いピンク色の煙がふわりと広がり、リスの姿を包んだあとそこに現れたのは。


???「あぁぁうぅ…ひ…人がたくさんいるぅ…」


茶髪のショートボブにくノ一風の黒のノースリーブ装束、ミニスカートに黒の二―ハイソックスを履いた少女の姿があった。年齢は17~19歳ぐらいだろうか、小柄で非常にオドオドとしている。


ナオ「やっと元に戻ったかノノ」


ノノ「う、梅原様ァ…!また、帽子がおかしなこと起こしたって…」


ナオ「おう、なんや知らんけどなんかの絵のモデルになったらしい人が、顎外れたって医者に診てもらいよってな」


ノノ「帽子の上でやることじゃないんですけどぉ…!!」


茅森ノノ。

ナオと共に遥々遠いジパングの地からやってきた彼の補佐役である。極度のビビリかつ臆病な性格で、すぐに驚いて変身の忍術で小動物に変化してしまう。


ナオ「いやぁ俺に言われてもなぁ…。制御できたらとっくにやっとるんやけど」


ステラ「ほんっと、私がいないと成立しないわよこのパーティ!」


ナオ「ごもっともでございます」


梅原ナオと茅森ノノ。

彼らは東方のジパングから、ここバロア帝国に派遣された外交使節『ジパング西洋使節団』である。


ジパング国は長期間、鎖国体制を貫いており閉ざされた東の島国としてオームスの果てに存在していた。

しかし、現将軍の外交政策によって20年前に先代外国奉行が、バロアの地を訪れたことを皮切りに両国の間に貿易関係が成立。

今回彼らが帝都へ訪れたのは、両国間との友好関係を更に深めることが目的である。


ナオ「ところでやな…。カイくんの姿が見えへんけど、あいつどこ行った?」


ステラ「あー、カイね。朝早くに『帝都の工房に用あるんで』って工具カバンしょって出てったよ」


ノノ「か、帰ってこないですよね…絶対…。昨日も商業地区の工具屋さんでテンション上がってましたし……」


ナオ「工房か、ほんならしばらく帰ってきそうにあらへんな。会談前に一応帽子のメンテしてもらおう思てたんやけど」


ノノ「め、メンテって……?ま、まさか壊れたんですか帽子……?」


ナオ「いや壊れてへんよ。ただ会談中にまた変なもん出てきたらあかんやろ?せやから南京錠でも付けてもらおか思てな」


ステラ「いやいやいや!!『帽子に南京錠つける』っていう言葉の並びがもういろいろおかしいからね!?ていうかそんなもんで暴走止まるわけないでしょ!」


ノノ「むしろ…膨れ上がって爆発しそうなんですけど…」


ナオ「せやろか?多少は静かになるかと思ったんやけどなぁ」


三人がわちゃわちゃとやり取りをしていると、大聖堂の鐘が帝都中に鳴り響く。

鐘の音を聞いたナオは帽子を軽く被り直し、穏やかに笑う。


ナオ「おーもうこんな時間か。よっしゃ、そろそろ元老院向かおか」


ノノ「う、梅原様……帽子……本当に大丈夫でしょうか……?」


ナオ「知らん。せやけど、まあ……なんとかなるやろ」


ステラ「今ほど『なんとかなる』って言葉が信用ならないこともないわよ!?でもまあ、あたしも付き添うから安心して。何かあったら即ツッコむから」


ナオ「外交やのにツッコミ頼みなのもどうかと思うんやけどなぁ……」


三人は連れ立って歩き出す。帝都の朝の風は少し冷たく、街路を行き交う人々のざわめきが遠くに聞こえる。


ナオ「……おい帽子。頼むで?今日はほんまに大事な日や。おやつあげるさかい、静かにしとってな?」


ステラ「帽子に賄賂使う外交官初めて見たんだけど!?」


ノノ「そ、そもそも帽子におやつってなんですか……」


その時、また帽子が不意に一瞬だけクラウンがパカっと開く。


三人「やめろーーーーーっ!!」


叫び声が石畳の通りにこだまし、朝の騒がしい帝都が一層騒がしくなっていく。

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